Summary
ライドシェア、自動運転、コネクテッドカー、モビリティ業界ではここ数年で、新たなサービスが続々と誕生しています。活況に見える現在の市場を投資家たちはどのように見ているのでしょうか。モビリティサービスで成功する企業はどんな企業か、既存プレイヤーそしてスタートアップが成長するために大事なポイントをご紹介します。
自己紹介
倉林: DNX Venturesの倉林です。弊社では日米におけるシリーズAの会社に投資をしています。現在の運用額は600億円です。BtoB向けのテクノロジーサービスを持つスタートアップに投資をしていますので、モビリティ関連は日米双方に投資案件も積み上がっています。
江原:私は新卒で楽天に入社し、スタートアップの買収後のプロダクトの連携、イスラエルのスタートアップなどを経験してきました。Plug and Playはシリコンバレーに本拠点を置き、11カ国30拠点で世界中のスタートアップに投資している企業です。また、大企業が探しているスタートアップを探してつなげるのも私たちの仕事です。
鎌田: ゴールドマン・サックスはグローバルな金融機関で、企業や機関投資家に向けてM&Aや資金調達のアドバイス、株や債券のトレーディング業務を行っています。また、投資にもフォーカスしており、過去にはSMFGやユニバーサルスタジオジャパンに出資をさせていただいておりますし、近年ではスタートアップへの出資もしています。今日はパブリックな株式市場の目線で機関投資家がモビリティ業界をどう見ているか、お話させていただきます。
モビリティ関連で成長している会社・伸びる会社
菅谷: 世の中の大きな動向を見ていきますと、様々な業界でディスラプションと呼ばれる大きな変化が起きているように感じます。たとえば、小売業界ではかつて個人店舗だったものが大型のショッピングセンターに取って代わり、それが今やEコマースになっていますよね。また、かつては手紙や固定電話で連絡をしていたものがメールや携帯電話に変わり、今ではアプリでコミュニケーションを取るようになりました。GAFAを中心としたプラットフォーマーは金融からモビリティまで、業界の垣根を超えた事業展開をしていますが、こうした流れからも、今の時代は1つの業界に囚われず、幅広い視点が必要であるとわかります。
自動車業界は100年に1度の変革期と言われていますが、現実的な視点で今後どう変わっていくのか、まずは倉林さんより投資家の観点から伺いたいと思います。
倉林: 私からはSmart Mobilityというテーマでお話したいと思います。
VCは各業界で起きる変化をいち早く予測し、投資仮説を作りそこに合致する会社を探すのが仕事です。私たちが定義するSmart Mobilityは、コネクテッドカーや自動運転などのSmart Technologyと、ライドシェア等のSmart Useの掛け合わせによってもたらされると考えています。
私は出張で度々サンフランシスコへ行きますが、空港に着いた瞬間、Uberに乗って自分のオフィスに向かっています。UberとLyftがあれば、アメリカ内のほとんどの場所へ行くことができますから、最近ではアメリカでも若年層は免許を取らない、車を所有しないという人が多い。VCからするとこの領域ではすでに勝者が決まっているので他社が入る余地はほとんど残されていません。よって彼らが入ってこない領域で差別化しているスタートアップに注目しています。Zumという今年投資した急成長中の投資先は、スクールバスのライドシェアソリューションを提供しています。
現在成長しているSmart Mobility関連のハードウェアのベンチャーとしては、ドライブレコーダーにディープラーニングを搭載して分析するNautoに投資しています。コネクテッドカー関連ではセールスフォース上で車両管理ができるアプリケーションを作っているFlectなどがあります。
電車や飛行機はある程度自動化されていますし、そもそもシェアして乗るものですのでマーケットがないんです。ただ、Fintechのスタートアップはまだ増えていきそうですね。ですので、モビリティの枠で見た投資のテーマとしては、自動運転やコネクテッドカー、マーケットプレイス、Fintechの3つ。Fintechで注目しているのは保険関係です。例えばUberで事故が発生したときの保険をどのようにすべきか、自動運転やライドシェアの時代の保険をカバーするために数々のスタートアップが出てきていますし。
菅谷: 倉林さんにはVCという投資家視点でお話いただきましたが、鎌田さんは普段からパブリックマーケット、株式市場を見ておられます。UberやLyftは一時期、業界を塗り替えてしまうとまで言われていましたが、株価は思ったほど伸びていません。株式市場ではこのような新しい会社をどう見ているのでしょうか?
鎌田: 株式市場は非常にコンサバティブになりつつあり、キャッシュフローがいつポジティブになるのか、黒字化への道筋をクリアに見せることが求められています。また、投資家の観点では技術そのものより、ビジネスモデルに着目する傾向が強いと考えます。例えば、ライドシェアは基本的にはユーザーが利用する度に課金するモデルですが、定額制などのリカーリングなビジネスモデルに出来ないか。ユーザーのニーズや価格設定など課題はたくさんあるでしょうが、ビジネスモデルの観点では、投資家はリカーリングのビジネスモデルを好む傾向があります。
また、ユーザー数が大きなビジネスですので、プラットフォーマーとしてライドシェアのみならず、どこまでマネタイズできるのかも大きなポイントです。例えばフードデリバリーやバイクシェアなど。また、これは市場によりますが、東南アジアなど金融サービスが確立されていないところではGrabなどのライドシェアプレーヤーが決済サービスでもマネタイズに成功しています。色々なメディアでも指摘されている通り、最近上場したライドシェアのプレイヤーは調子が良いとは言えないかもしれませんが、今申しあげたようなことで何らかのブレイクスルーが起これば、挽回するチャンスはあると見ています。
既存の大手プレイヤーが直面している課題・新しい道筋を描くスタートアップ
菅谷: 江原さんは既存プレイヤーとスタートアップをつなぎ合わせる仕事をされていますが、江原さんから見て既存プレイヤーが直面している課題はどのようなもので、新しい道筋を描いている会社は何をされているのかをお聞きしたいです。
江原: 自動車メーカーは車を売って収益を得るのが本来のビジネスモデルですが、クルマの需要や売り上げが来年から大きく変わるだろうと予測しています。今の段階では各社、そこへ直面する前に動くべきか、起きてから動くべきかが判断しづらいようでもあります。
サブスクリプションモデルを提供するなど、自動車メーカーも試行錯誤していますし、変えることに対して抵抗感を持つか、強制的に実行するかで動きやスピード感も変わっていきます。既存プレイヤーが新しく変わるためにはスピード、IT化とどう付き合っていくかもポイント。コネクテッドカーやCASE、MaaSを取り入れなければいけないことは理解しているでしょうが、タイムラインを考えるとスタートアップのスピード感が必要です。ローンチまでは非常に大変ですが、世の中が求めるスピードに合わせて、競合よりなるべく早く出すことが生き残る方法だと言えるでしょう。
菅谷: 変化に上手に対応している、具体的な会社の事例や取り組みはございますか?
江原: ロールモデルとしてわかりやすいのはダイムラーの事例です。会社の役員に対してイノベーションKPIを設定しており、管轄下にいる社員は必ず数値を達成しなくてはなりません。本業の車作りは継続しつつ、新しいことにも前向きに取り組んでいる。そこで、「一番クイックにできるのはスタートアップ」であることを立証しようと、PoCのコンセプトから始まり実証したのがwhat3wordsとの取り組みです。
後発で出てきたポルシェのPoCも年間で100。KPIとして確実に達成できるというわかりやすい例だと思います。
菅谷: 既存のビジネスモデルを展開しながらも、場合によっては形を変えていかなくてはならない。倉林さんも大企業とスタートアップの協業を支援されていると思いますが、今のお話についてどうお考えになりますか。
倉林: 日本の大企業ではスタートアップの買収がほとんどありませんが、テクノロジーを社内に取り込むことは重要になると考えていますので、そこから変えてきたいですよね。
弊社のLP(出資者)に東京海上様がいらっしゃいますが、来たる自動運転時代に向けて損保事業はどう変化していくかを考慮し、常にアンテナを高く張っていらっしゃいます。私たちがアメリカでNautoに出資してすぐに東京海上様に紹介しましたが、まずはアメリカの子会社で扱ってみようと動いてくださいました。
全体的には先端のテクノロジーにアクセスし、今の事業にどういうインパクトがあるのかを積極的に見ている会社が多くなってきているとは思いますね。
菅谷: 鎌田さん、株式市場は、既存プレイヤーに対して何を期待されていると見ていますか?
鎌田: 先ほどの話と少しずれてしまうかもしれませんが、先日NECのカーブアウトでdotDataという企業がシリーズAの資金調達をしました。dotDataは機械学習を自動化するツールを提供していますので、直接的にはモビリティトランスフォーメーションに関係ない部分もありますが、走行データの分析や機械学習で、事故の傾向予測に使えるのではないでしょうか。
この企業が面白いのは、NEC固有の技術について、あえて一部の持分を手放す形で独立したスタートアップとしてカーブアウトしたことです。独立させることにより、大企業では時間のかかる意思決定プロセスを早め、成長のスピードを高めることが狙いです。また、dotDataではU.S.でも人材採用をされていますが、スタートアップの方が人が集まりやすい側面もありますし、外部から資金調達することによっても成長スピードを早めることが出来ると思います。このようなアプローチは、これまでの大企業からのカーブアウトではあまりなかった事例ですので、株式市場でも注目されています。
自動運転やモビリティは、現時点ではまだ何がデファクトスタンダードになるのか不透明な領域です。大企業は期待を込めて様々なところに出資をされていますし、アンテナを張りながら“きそうな”技術や会社だと見込んだ際に、一気に資金力をかけてマジョリティを取っていますね。
菅谷: それでは、既存プレイヤーはどのようにして投資先を探していけば良いでしょうか。
江原: Plug and Playでは、私たちが完全初期段階で入ること、そして既存のパートナー企業にスタートアップ企業を紹介することの2パターンがあります。
パートナー企業にスタートアップを紹介する際は必ず事例を見せるようにしています。多くの日本企業は参考事例を好むので、持っているプロダクトがどんなに素晴らしくても結局誰が使っているのか、本当に需要があるのか、実証実験を行って結果を提示した方がポジティブな評価を受けることができるのです。海外からスタートアップをソーシングする時は、シリーズA、Bくらいがいいと思っています。それだけ経験値があって多くの投資家が入っているとわかれば、安心感がありますしね。
倉林: 先ほどNautoを事例であげましたが、この案件のソーシングの仕方がわかりやすい事例ですね。
Nautoは弊社の米国オフィスのGPのQualcommの案件です。Qualcommが2015年頃に世界中でDeep Learningを用いた安全運転、自動運転のソリューションを提供する投資先を探していました。潜在顧客をインタビューする中で「Nautoという会社がすごいらしい」という話が何度も出てきましたので、直接コンタクトをとってみたんです。こちらとしては事前に市場や成功要因を予習しているので、起業家に良い質問ができますし、投資後の伸ばし方について仮説も立ててあるので、アメリカの他のVCに比べたらまだ新興の私たちでも、経営者に信頼されて案件に入ることができました。これはVCとして一番良いとされる入り方です。
一度業界でのトラックレコードや認知を作ると、椅子に座っているだけで良い起業家がその知見を求めて寄ってきたり、同業のVCが紹介してくれたりします。特に経営者同士の横のつながりは影響が大きいと思います。ファイナンスを予定している起業家が別の起業家にどのVCが良いか相談した際に、推薦してもらえるかどうかが大事。そのループさえ作り、維持できれば、良い案件がソーシングできると思います。 最初に評判がない場合は投資仮説を作って、投資した会社で実績・成果を出す、その積み重ねですね。
日本にはまだ可能性がたくさんある
菅谷: 最後に、ご来場の皆さまに一言ずつメッセージまたはアドバイスをお願いできますか?
鎌田: 私たちは、今日お話した企業やスタートアップへの出資のみならず、本業である投資銀行業務においては、例えばモビリティの分野で有望な企業を買収される際のアドバイスや、買収に必要な資金調達のお手伝いなどもさせて頂きたいと思います。このようなアングルで、モビリティ業界の変革期を日本の大企業がリードしていくところを、ぜひお役に立ちたいと考えております。
江原: モビリティ業界では海外の情報がどんどん日本に入り、進出してこの市場が大きくなっていると感じます。GAFAが動いているから自動運転が現実的になってきたっていう。私個人の思いとしては、日本で始まったものが世界に広がることが、今、期待されているモビリティなのかと思っています。輸入モデルもコピペモデルも数多くありますが、日本だからこそ作れるものは何か、これを海外の知恵や技術を使いながらでもゼロから立ち上げていきたい。そしてそういう人たちにどんどん会いたいですね。
倉林: モビリティの投資テーマに関しては、日本が活躍できる可能性がまだまだ残っていますし、モビリティ、ハードウェアについては日本の強みを存分に生かせるはずです。ハードウェア、飛行機、電車、車、日本はとくに車にすごく強い国ですから。
ハードウェアに紐づくデータを生かしたビジネスを作ることに対して、強いビジョンを持っているのがこのイベントを主催するスマートドライブの北川さん。北川さんは日本という場所にいて、日本の起業家として、日本の自動車メーカーやさまざまな企業と新しいビジネス作っていきたいというビジョンを持っています。最後に大きく褒めましたが、本当に目線が高い起業家なんですよね。そういう意味でも、モビリティの日本発スタートアップやテクノロジーが広まって欲しいですし、若く、イノベーティブで優秀な起業家とテクノロジーの組み合わせは相性が良いと言えるでしょう。