Summary
2019年の1年で、どれだけ5Gという言葉を聞いたでしょうか。ビジネス誌の紙面、ニュース、コマーシャルでも常に注目のワードとして登場していました。とりあえずなんかスゴイらしいけど4Gと何が違うのか、なぜこんなにも話題になっているのか、いまいち実感がない方もいることでしょう。5Gは具体的にどのような体験をユーザーに提供してくれるのでしょうか? 移動、エンタメ、仕事、様々な角度からお答えいただきました。
5Gは何が“スゴイ”のか
武内:KDDIでは5GとIoTのサービス企画を担当しています。5Gについてはすでに各種メディアで取り上げられていますが、まさに間もなくスタートしようとしているところです。まずはこちらのイメージ動画をご覧ください。
瀧口:5Gでエンタメも移動も建設現場も変わるということですが、何がどのように変わるのか、そもそも5Gとは何かについて教えていただけますか。
武内:技術的にブレイクダウンしてお話ししますね。5Gは高速大容量、低遅延、多接続という3つの特徴を持っています。もっとも注目すべきは、スマホ、タブレットなど、電話のネットワーク主体だったものから、それを超越してIoTとしてさまざまなデバイスがつながるところです。今日のテーマでもある交通も含め、業務の効率化やエンタメの拡充など様々な場面で有用なんです。
瀧口:世界では、5Gがどれくらい普及しているのでしょうか。
武内:アメリカ、韓国は今年の4月同日に開始して盛り上がっていますが、中国や欧州でも続々と始まっています。
国内では今年の4月にドコモさん、ソフトバンクさん、楽天モバイルさんとともに5Gの周波数を頂き、サービス開始の前段階まで来ました。エリア展開の指標で重要な基盤展開率とは、全国を10㎞四方のメッシュで区切り、1つでも5G基地局がある割合を示すもので、5Gエリアの展開は基盤展開率で評価されます。私たちもみなさんにお届けするために全国でエリアを拡大している最中で、2020年の3月から利用が開始できように進めています。
瀧口:来年の3月に開始とのことですが、具体的にKDDIの5G計画について伺えますか?
武内:5Gはエリアが狭く、基地局を作るのが容易ではありません。最初の周波数ですと屋内浸透も難しいので、4Gのエリアを大事にしながら5Gを開設しています。
瀧口:共存ということですね。どんなユースケースがありますか?
武内:例えば「自由視点」というタブレットで自分の好きな角度から選手の動きを追えるアプリケーションがあるのですが、4Gですと指の動きと動画の動きが合わなかったりするのですが、5Gでは遅れずに表示することが可能になります。ビジネス面では5Gの周波数帯を活かしたゲートの入場、建機の遠隔操作なども可能です。
瀧口:なぜ、5Gを使うとタッチレスで搭乗できるようになるのですか。
武内:5Gは周波数が高いためエリアがセンシティブというのは先ほど説明しましたが、それを逆手に取って、ゲートの周辺の狭いエリアで電波を掴むことで通っていることが認識されてゲートを開けることができるのです。世の中のニュースを見ていると、4GやWifi、有線でも良いのではという声を聞きますが、このユースケースは5Gならではと言えるでしょう。
5Gがもたらす体験
瀧口:続いて、5Gによってどのような体験が期待できるかを伺いたいと思います。
武内:ビジネスでもコンシューマライゼーションが起きていますが、XR上手く利用すれば、仮想とも連携できるようになるんです。普通にネット配信するより、手元で視点を操れるような自由な視点が可能になりますし、IoT化したボールの中に通信が入るとか、VPSにかざすと項目が出てくるとか、あと自分の行きたい先が見えてくるとか、今までになかったバーチャルな体験をよりリアルなイメージで実現してくれます。
本当は映像をリアルタイムで流したいのに遅延が発生することってよくあるじゃないですか。それが5Gだとしっかり追随できるので、5Gの特徴を上手く生かせば、新しいエンターテイメントを展開できるんじゃないかと思っています。
瀧口:低遅延の特性が活かされていると言うことですね。
武内:今までのゲームは、画面やゲーム機本体、コントローラが手元にありましたが、それが画面とコントローラだけになって後はクラウド上で楽しめる…5Gによってそういう世界観が実現できるんです。
瀧口:なるほど。移動に関する変化や体験も伺えますでしょうか。
武内:いくつかユースケースがありますが、もっとも分かりやすい事例がドローンです。現時点では電波は地上でしか吹けないと決められていますので、ドローンにLTEを乗せて動かすことはできません。空中で吹くと電波法違反になりますので、スマホをドローンに乗せて撮影すること自体が違法です。空中で吹くときは、実用化試験局の申請が必要です。KDDIではこの申請を行い、数年前より空中でLTEを吹かせる実証実験などを行っています。
5Gでは、より鮮明な動画を送る運用が可能になるため、私たちはそれをドローンに乗せて実証実験を行いました。
瀧口:警備への応用ですね。
武内:プレスリリースにも出しましたが、セコムさんと共に、東大阪市花園ラグビー場で5Gを活用したスタジアム周辺警備の実証実験を行いました。4Gの時は画質がHDクラスが限界だったため状況を明確に把握することができませんでしたが、5Gでは4Kクラスの鮮明な動画を送信できますので、リアルタイムでの異常事態早期発見を可能にしました。
瀧口:顔もはっきりと認識できるぐらい鮮明ですね。
武内:KDDIでもドローンには注力しており、私もDJIでドローンの資格を取りました。5Gは映像と相性が良いので、ドローンならではの挑戦ができると期待しています。
5Gで社会はどう変わっていくのか
瀧口:次に、多くの可能性を秘めた5Gのビジネスモデルによって社会はどう変わっていくのか、お話いただけますでしょうか。
武内:私はIoTビジネスの延長で5Gに携わっていますが、IoTの普及によって従来の売り切り型ビジネスが変わろうとしています。ミシュランがタイヤを売るビジネスから走行距離に応じて課金をする仕組みを作りましたが、あれはIoTによって実現できたこと。循環型と言えばいいでしょうか、世の中が少しずつ変わっていく中でIoTが様々な課題を解決したり、新たなビジネスモデルを生み出したりする手助けをしてきたのです。
瀧口:今後は顧客体験をフォローすることで利益を生み出して行くと。
武内:5Gになると、さらに多くのモノを送れるようになりますので、今まで以上に循環型のビジネスが加速していくでしょう。そこでポイントになるには、センサーとAIの組み合わせ。お客様と私たちが持っているAIデータを回すには膨大な通信が必要になりますが、その部分を5Gでフォローできればと考えております。
瀧口:できることが増えるほど、現実に落とし込むためのハードルが上がると思いますが、それに対応する施策はありますか?
武内:私たちは昨年、ビジネス開発拠点のデジタルゲートを虎ノ門ヒルズで開設しました。昨年9月に開設して300社近くのお客様にご訪問いただいております。
けしてショールームとして活用するのではなく、必ずお客さんの持っている課題を話し合い、それが具体的に5Gで解決できるのか、時には4GやLPWAも合わせて先を見据えた解決策を一緒に考え提案しています。場合によっては、目の前で簡単なキットを使って開発することも。5Gで具体的にどんなビジネスが可能か、お客様の希望を具体化する場所として活用しております。
5Gならではのユースケース
瀧口:アイデア次第で本当に可能性が広がってきますよね。
ここで、もうお一方ご登壇者をご紹介させていただきます。世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターの川崎雅史様です。
川崎:世界経済フォーラムは、民間事業者・行政・学術研究などの各分野におけるリーダーと提携し、世界情勢の改善に取り組む国際機関です。現在、5Gを含む第四次産業革命と総称される技術を世界に実装するために取り組んでいます。
現在は出向でこちらに参画してモビリティ領域を担当しています。地方のモビリティの変革に注力していますが、地方では、需要が減少する中で公共交通の持続性が問われ、加えてタクシーなどの運転手の高齢化など、供給側の課題も顕在化しており、大変厳しい状況です。一方で、様々なテクノロジーが地方を前向きに変える可能性を有しており、その中の一つとして5Gも解決の糸口になりうるのではないかと期待しています。
瀧口: 5Gとモビリティーについてさらに議論を深めたいと思いますが、川崎さんから何か質問はございますか。
川崎:ドローン等の事例を紹介していただきましたが、それ以外にもモビリティ分野での活動や構想もおありかと思います。そのあたりで、どのような取り組みをされているか伺いたいです。
武内:まず交通関連での事例をご紹介します。映像の解析により付加価値を上げるマーケティング活用です。1to1マーケティングは大量の画像を送ることではじめてできるもの。5G時代は手元にはカメラのみで画像をクラウドに上げることで、AIやクラウドでリアルタイムに分析できますので、より有効な施策を打つことができるでしょう。
駅で需要があるのはテンポラリ性。4Gでは限界があり、ローカルにもサーバーを置かなくてはなりませんでした。5Gが広まれば手元にはカメラだけ。最近のAIは行動分析もできますので、普通に歩いている人と千鳥足の人を見分けたり、白線を超えたら直ちにカメラでアラームを出したりするなど、駅の構内では転落の危険を回避するために活用できると考えています。
川崎:このような5Gならではのユースケースを作っていくことは非常に重要だと思います。自動運転についてはいかがでしょうか。
武内:自動運転はセルラーが本領を発揮できるところ。自動運転、遠隔運転、隊列走行など、各所で5Gの話はありますが、例えば、遠隔制御+自動運転の実証実験を行いました。
瀧口:全国ではじめて、5Gを活用した遠隔監視型の自動運転を成功されたのですね。
武内:通信会社視点でお話させていただきましたが、川崎さん普段現場に訪れて実際に取り組まれていることや5Gのユースケースについても伺いたいです。
川崎:5Gのユースケースを調査し、まとめると、かなりの部分はモビリティに関連するするものが占めており、有望な分野です。ここでは、本当にスケールしていくビジネスモデルとは何か、5Gならではのサービスとは何かと言う観点から少し何点か紹介させてください。
1つはインフォテイメント。動画配信やビデオ会議は今後、間違いなく伸びてくると考えています。ただ、現状でも不満を感じている方は少ないので、5Gが生きるようなサービスの革新が必要となるかもしれません。
それに対して自動運転は低遅延性が不可欠でまさしく5Gならではの強みが生きてくるでしょう。とはいえ、完全な自動運転化がなされ、自動車間のやりとりや車とインフラの連携が本格化し、5Gのメリットが享受できるようになるのはまだ先のことになりそうです。
自動運転に関連してより短期的に実現しうる事例を2つ。1つはトラックの隊列走行で、人が運転している先頭車両に自動運転で車両が付いていくものですね。自動車間のやりとり部分だけでなく、冗長性を担保する上でもモバイルの5Gネットワークは必要です。高速道路のスピードで運転しますので、5Gの低遅延性が間違えなく活きますし、自動運転の中ではより実現が近いと考えています。
もう1つが、遠隔運転です。自動車でも自動運転車のバックアップ機能として、遠隔で監視を行っておいて自動運転に異常が生じた場合に遠隔で運転を代行するモデル検討されていますが、実現はやはり少し先でしょう。
私たちがモビリティにおいて可能性を感じるのは鉄道です。地方の鉄道は利益率も低くなっており、中には鉄道が撤退せざるを得ない状況にもなったりしています。その中で、建機と同じように鉄道の運転手が実際に手を動かす必要がある時間は実はそんなに長くなく、駅からの出発・停止が多くを占めています。1人が複数台まとめて遠隔操作をしてコスト削減できれば、事業者に良いだけでなく、地域の移動の足の存続が問われている利用者にとってもある程度受容性は高いんじゃないかと。
2つの例のように部分部分の自動運転を活用した実証が始まり広がっていますし、それが完全自動運転に繋がっていくことで、車間、インフラ間、様々なものと連携できれば、社会問題の解決にも寄与するのではないでしょうか。
瀧口:いきなり完全自動運転とはいきませんので、まずは人の目と自動運転を融合させて、段階を踏みながら導入していくということですね。
最後になりますが、今日お越しいただいたみなさまにメッセージやアドバイスをお願い致します。
武内:様々なユースケースを語るにしてもエリアが無いと始まりませんので、私たちとしてはまずそのエリアの拡大に力を注いでいきたいですね。また、地方でも必要不可欠なエリアがありますし、5Gでどのように交通や社会問題を解決していくかを同時に考えていければと。ぜひ、デジタルゲートにお越しいただき、ヒントをいただいて、私たちがどのように貢献できるかをお話させていただければと思います。
川崎:私たちとしては地方でのモビリティをどう活性化させるかという視点から、5Gを活用しながら新たな取り組みができればと考えています。5Gはモビリティとも相性がいいですし、制限をつけず多角的に取り入れていきたいですね。