サスティナルブな社会実装に向けて〜Hondaが目指すeMaaSの世界〜

Speakers

山本憲作
山本憲作
デジタルソリューションセンター Dx推進室 戦略企画開発BL 主任研究員
株式会社本田技術研究所

Summary

世界中にいる人々の自由な移動と豊かな暮らしに貢献すべく、Hondaが取り組むのがモビリティとエネルギーをコネクテッド技術で融合させるeMaaS(EaaS×MaaS)。自動車メーカーにとっては切っても切れないエネルギーの問題。ホンダはどのように向き合っているのでしょうか。

自己紹介

ホンダに入社後、廃熱回収などのパワーソース研究からキャリアが始まりました。最近ではF1でも廃熱回収という言葉を耳にするようになりましたが、十何年前は廃熱を使って蒸気タービンを回して発電しながら走る火力発電所みたいなものを、ボンネットに収めて走っていたんです。それから代替燃料や未来リサーチなどの業務を経て、いまはeMaaS領域におけるサービス開発を担当しています。

最近ではマイクロモビリティが流行っていますが、体重移動で乗る電動スケートボードも開発したことがあります。体重移動ができない人のことも想定して、スマホでリモート操作ができるものまで考えました。これが7〜8年前のこと。また、未来リサーチで2030年、2040年、2050年、50年後に世の中どうなっているのか、移動の未来はどうなっているのか、地質学者や思想家、SF作家など移動と関係ない人たちにもお話を聞きに行って雑誌を作ったりもしました。

今日は、皆様の前でお話ができるということでこの日をとても楽しみにしていました。よろしくお願いします。

ホンダが掲げる「2030年ビジョン」

弊社は"The Power of Dreams"をビジョンに掲げ、「生活を便利にする」「人生を楽しくする」という、便利と楽しいの両立を目指してモビリティのハードウェアやプロダクトを開発してきました。これからはサービスも含め、セットで具現化し、提供していきたいと思っています。4輪への参入時に、便利視点で軽トラのT360、楽しく視点ではS360、軽トラとスポーツカーを同時に発表したように。

2030年ビジョンでは、「すべての人に『生活の可能性が広がる喜び』を提供する」ことを掲げています。具体的な提供価値に置き換えたのが、上記の3点。これらを具現化するために、そして暮らしと移動をより良くするために、何をどのようにシームレスにつないでいくべきかを考えたうえでモビリティサービスを作り、実現していこうと考えています。

本セッションでは、モビリティとエネルギーに焦点を絞ってお話させていただきます。
"Honda eMaaS Concept"は、言い換えると"Energy as a Service"と"Mobility as a Service"をつなげて新しい価値を創ることです。

もう少しブレイクダウンしますと、移動に関する各種効率の最大化を指します。EVなどの電動モビリティは高くてなかなか手が出ないと思われていますが、その原因が高価なバッテリーです。ならば、バッテリーをシェアして使い回すとか、連結して群としてマネジメントして別の価値を生むなど、違う方法に置き換えればいいのです。シェアなどを行う事業者としては投入する台数が最小化できるので、アセット投入コストも抑えられますし、利用者はその分安く利用できる。さらエネルギーはバッテリー、もしくは再生可能エネルギーを使っているのでクリーンで環境にも優しいと、いいことづくしになります。

また、最近は移動弱者やドライバー不足などの社会課題が顕在化し始めていますが、そういったところへの対応も急がなくてはなりません。

電力系統に再生可能エネルギーを使うこと、そしてバッテリーを池として安定化に寄与すること。
それらを形成するプロダクトをeMaaSというプラットフォームにつなげて、サービスを提供したいいと考えています。サービスにおいてはまだまだ検討すべきこともありますし、今日、ここに来てくださった方々と協業することもあるかもしれませんね。

ホンダが展開するeMaaSプラットフォームとは

eMaaSプラットフォームを構造的に示すと、このような仕組みで表すことができます。再生可能エネルギーは気象に大きく左右されますので、ビッグデータには系統電力情報や気象・交通情報も含まれます。過去にソーラー発電のシミュレーションを自身の手で行ったことがありますが、雲の量で大きく結果が変わりますし、その結果電力も不安定になります。しかし、生活にはリズムがあるので需要は把握できるのです。それに、需給バランスが崩れてもビッグデータがあれば、eMaaSプラットフォームで計算して最適な電力充放電が可能になります。

電力の出し入れは電動商品群が補い、電力量に応じてインセンティブが発生する仕組みです。
この仕組みを作るために、バッテリーのスマート充電を管理するエネルギーテクノロジー企業のMoixa、充放電器に関してはドイツのベンチャー企業であるUbitricityと提携し、スマートケーブルで電力の出入りを管理しています。

2019年8月より、ドイツのオッフェンバッハにて、路上での低価格充電とV1Gサービスの検証を開始しました。計画充電とグリッド時のピークカット制御の準備を進めている段階でしたが、Honda e (ホンダ イーはEV)をつないで、これスマートケーブルですね、で上がソーラーのパネルなんですけれども、こちらでエネルギー利用の設計、または開発管理、で当然あと電気は実際にやって落ちたらえらいことになるので、シミュレーションをやりながら、電動モビリティとの統合制御をやります。

テストベッドでは説明したものを使い、再エネの地産地消を具体化している最中です。
また、イギリスのイズリントンでは、2019年末より庁舎エネルギー有効利用の検証を行う予定です。

電動マイクロEVにはモバイルパワーパックという小型バッテリーを使用していますが、大きさは2ℓのペットボトルぐらいです。モバイルパワーパックの特徴は、電気スタンドに行くだけで交換ができるので、充電時間を0にできるところです。 

これらを使ったモビリティ製品群としては、一人乗りから二人乗りまでのものを検討しています。小型サイズであればあるほど、バッテリー量が少なくて済むからです。このバッテリーで走行は難なくできますが、EVとなると出力不足で加速がやや鈍いため、メインバッテリーと2電源で足りないバッテリーの出力を補っています。モバイルパワーパックは現在、フィリピンのロンブロン島で実証実験しています。これほど小さな島ですと、周りが海に囲まれていますしインフラを豊かにすることができませんので、こういったテクノロジーを活用することで電力利用の低コスト・高効率化を実現しようとしています。

続いて、インドネシアのバンドン市でもバッテリーの稼働状況を集中管理できるICTを用いたシステムの有効性を実験しています。インドネシアは過去に社会課題を見つけて取材しようと足を運んだ国です。そこでフローレス島という平均GDPが数百ドルという都市に訪れたのですが、今考えると究極のMobility as a Serviceをやっていましたね。黒塗りトラックの荷台に板が3枚くらい渡してあって、行きは通勤通学の人が3人ずつぐらい乗降し、おばちゃんが収穫したものを積み、帰りは街で買った商品や水を積んで帰ってくるみたいなことをしていました。すでにMaaSが行われている。ただ、車を持っている人が搾取できる構造になっていることが課題なので、モビリティ・エネルギーサービスを安価に導入して解決できればと思っています。

ホンダが見据える未来のモビリティ

所有と利用、もしくは手動・自動という象限に置いていきますと、私たちの従来の事業ドメインは所有・手動です。現在は自動運転技術の開発をしていますし、将来的には自動運転を中心としたモビリティサービスを展開したいと思っていますが、サービスの開発部分についてはこれから注力するところです。小さい乗り物にはモバイルパワーパックを連動させて稼働率を最適化し、大きめのモビリティに関しては人を運ぶ、モノを運ぶことでみなさまのお役に立ちたいと考えています。

シームレスな移動サービスを提供できればと持っていますが、私たちのモビリティだけでは、すべての移動が賄いきれません。手軽に利用できるラストマイルに適した、小型モビリティを利用したモビリティサービスを考えつつ、それを一次交通サービサーや他の交通事業者様、もしくはまちづくりのプラットフォームと合わせて使えるようにしたいと思っております。

「安心・ストレスフリーな移動」、これは先ほどで言うと“便利”。それと右側のところ、ここを私一番大事にしたいなと思っています。家族や友達、恋人など、大事な人との感動体験の共有と言えばいいでしょうか。そこから新しい目的地を発見して、そこを目指して移動する。それが"The Power of Dreams"につながっていくのです。感動体験の最大化を目指して、モビリティサービスを実装していきたいと考えています。