交通事故の削減を目指して~先進安全自動車(ASV)とは

交通事故の削減を目指して~先進安全自動車(ASV)とは

ITテクノロジーを活用した自動運転やコネクテッドカー、そしてMaaSの実現に向けた動きが年々強まる中、かなり早い段階から取り組みが進んでいるのが「ASV」の実用化です。今回は、先進安全自動車「ASV」の基本概念とこれまでの推進過程・方針に触れた後、現在実用化している具体的なASVの機能や将来的なビジョンにまでを解説します。

ASVとは何か

ASVとは、先進安全自動車(Advanced Safety Vehicle)の略称であり、先進技術によってドライバーの認知・判断・操作をサポートする機能を搭載した次世代自動車、もしくはそれを含める高度道路交通システムの整備・推進プロジェクトのことを言います。

日本国内での取り組みが始まったのは1991年。1995年度までに死亡者を1万人以下にする「第5次交通安全基本計画」を実現すべく、国交省を事務局に官・学・産が共同で設置した「ASV推進検討会」を中心に、関連技術の開発・実用化・普及を推進しています。

同検討会は発足当初から痛ましい死亡事故の多くが、ドライバーの操作ミスに起因することを鑑み、以下3点を基本理念に据え、より高度・広範囲な安全運転支援システムを実用化することで、交通事故削減に大きく貢献することを目指し活動を続けています。

ドライバー支援の原則・・・安全な運転をすべき主体はドライバーであり、ASV技術はあくまで「支援」に留まること。
ドライバー受容性の確保・・・ドライバーがシステムの作動状態を常に確認でき、制御に介入することが可能であること。
社会受容性の確保・・・他の交通、特に歩行者や自転車から理解され、かつ安全性が後退しないこと。

草創期のASV搭載車は、「21世紀に向けた試作」と位置付けられていたほか、存在意義や具体的な取り組みもぼんやりしていましたが、

  • 第1期(1991~1995年度)「技術的可能性の検討」・・・開発目標の設定と事故削減効果の検証(ASV19台のデモ走行)
  • 第2期(~2000年度)「実用化のための条件整備」・・・ASV基本理念・技術開発の指針策定と事故削減効果の検証(デモ走行車を35台に拡充)
  • 第3期(~2005年度)「普及促進と新たな技術開発」・・・ASV普及戦略策定とITを用いた技術開発の促進(IT利用型ASVの実証実験開始)
  • 第4期(~2010年度)「事故削減への貢献と挑戦」・・・事故削減効果の評価手法の検討・実施とIT利用型ASVの基本設計書策定(IT利用型ASVによる公道総合実験開始)
  • 第5期(~2015年度)「飛躍的高度化の実現」・・・ドライバー異常時対応・歩車間通信システムの基本設計書策定とITS世界会議でのデモンストレーション

という過程を経て、現在では後述する機能を搭載した自動車が数多く登場し、基本理念通り安全運転を強力にサポートする効果がユーザーに浸透した結果、ASVは瞬く間に普及しました。そして、これはAVSだけの功績ではありませんが、2018年度の交通事故死亡者は3,532人で、警察庁が保有する1948年以降の統計では最小となるなど、死亡事故削減効果も顕著に表れ始めました。

進化が止まらない!実用化されている主なASVの機能

ASVとアルファベット3文字を並べても、具体的にどんな機能なのかさっぱりわからない方もいるかもしれません。ここでは現在、搭載が進んでいる具体的なASVに属する機能について簡単に紹介しておきましょう。

なお、自動車メーカーによってASVはパッケージングされる名称が異なるほか、一つひとつの機能も呼び方が微妙に変わったり、作動条件(車速や車間距離など)が変化したりますが、基本的な効果についてはほぼ同じと考えて問題ありません。

①  「衝突被害軽減ブレーキ」

衝突被害軽減ブレーキとは、車両前部に取り付けられた赤外線レーザー・光学カメラ・ミリ波レーダーなどのセンサーで検知した車・障害物との衝突リスクが高まると、音や警告灯でドライバーに回避を促したり、ブレーキ操作の補助をしたりする機能です。

最近の車種はセンシング機能が飛躍的に向上し、車や障害物の検知精度が高まったうえ、警告時点でブレーキの効きを強めたり、シートベルトの巻き上げを開始したりするなど、アクティブセーフティとパッシブセーフティの間に位置する重要な役割を果たしています。

車対車の事故で一番多い追突事故の軽減と、被害緩和に大きな実績を上げている機能ですが、普及初期は作動すれば絶対に追突しないという訳ではなく、あくまでドライバーが自らの意思でブレーキを踏んで初めて、事故を回避できる機能でしかありませんでした。

しかし、技術革新に伴い、スバルが他社に先駆けて自動停止まで行うアイサイトを2010年販売のレガシィに初搭載し、消費者への訴求力の高さとそれまで高額で思うように普及しなかった価格設定を大幅に下げた結果、瞬く間に大ヒット。その後、ドライバーが機能に依存することを避けるため設けていた規制が、安全性を示すデータなどによって解除されると、遅れながらもマツダが「SCBS」を、ダイハツが「スマートアシスト」を2012年ごろから新型モデルへの搭載を開始します。

最後まで、衝突被害軽減ブレーキの自動停止に消極的だったトヨタも2014年、2017年末までに自動停止まで行う衝突被害軽減ブレーキをほぼすべての車種に搭載すると発表し、現在ではすべての国内メーカーがこの流れに追随している状況です。ただ、それでも走行状況や道路環境、気象条件やシステムエラーなどにより、安全に自動停止しないケースはあるため、数多くのシーンで安全に寄与してくれるASVながら、搭載しているからと絶対に慢心してはいけない機能でもあります。

②  「車線逸脱警報装置(LDW)&レーンキープアシスト」

安全運転遵守の観点からは本来避けるべきことですが、運転中にカーナビやコンポの操作を行っていると、意図せず体の一部がハンドルに触れて動き、車体が大きく左右にぶれてしまうことも。車線逸脱警報装置は、車の前部に取り付けられた光学式カメラセンサーが、道路上の白線(黄線)を認識し車線をはみ出しそうになったとき、音や警告灯などによってドライバーに警告し、正しい位置に戻ることを促す安全運転支援機能です。

衝突被害軽減ブレーキのように、車が自動でハンドル操作を行うのではなく、単純なアラート機能に過ぎませんが、居眠り運転時の覚醒効果も期待できるため、夜間走行や長距離運転をする機会が多いユーザーは、車の乗り換えを検討するときに、判断材料の一つに加えてもいいでしょう。

一方、レーンキープアシストは、通常後述するACCと共に使用され車両が不意に触れた際のアラートだけではなく、電動パワステにトルクを発生させるなどのステアリング制御を行い、ドライバーが軽い力でハンドル操作できる「アシスト機能」を兼ね備えています。

登場当初は、車線逸脱を感知した時のみ作動する「アシストタイプ」がほとんどでしたが、自動運転のレベルアップに伴い高速道路や自動車専用道に場所が限られるものの、車線中央を走行するよう常時ステアリング制御を行う新型モデルも登場。

エポックメイキング的存在であるのが、2019年7月に日産が新型・スカイラインに搭載し話題を集めた「プロパイロット2,0」。高速道路での同一車線ハンズオフ運転の実現は世界初です。これまで各メーカーが搭載してきた自動運転はレベル2で、運転主体はドライバーであり常にハンドルを握っていることが前提の「部分運転自動化」ですが、プロパーロット2,0は同一車線内でのハンズフリー運転だけではなく、ナビとの連動による運転支援機能付き。

たとえば、ICで車線移動を行う場合、ドライバーに音声や画面で指示を仰ぐ合図が発せられ、それを承認するとハンドルに手を添えるだけで車線変更が完了し、さらに高速出口ではきちんと減速までするのです。感覚的には、自動フライト中の航空機が正確かつ安全に飛行しているか、機長であるドライバーが監視している状態であるため、緊急時のみ人が運転タスクに関与するレベル3に限りなく近い、「レベル2,9」を実用化したとさえいえるでしょう。

③「後側方接近車両注意喚起装置&バックカメラ・センサー」

車にはミラーでは見えない死角が左右の斜め後ろにあり、ここに入り込んだ他車をセンサーで感知。接近に気が付かないままドライバーがウインカーをONにすると、インジケーター表示や警報ブザーで注意喚起するのが、後側方接近車両注意喚起装置の機能です。リアビークルモニタリングシステムとも呼ばれるこの機能も年々進化を続けており、検知範囲が広く、悪天候や日射の変化の影響も受けにくい、24GHzの「準ミリ波レーダー」を採用するなど、センシング精度が飛躍的に向上したことで事故削減に貢献しています。

また、商業・レジャー施設、特に屋内や地下駐車場は照明が暗いことも多いため、極力バックで駐車することを推奨しますが、車のサイズやスペース的にどうしても「前方走行」で入庫するケースもあるでしょう。用事をすませて出庫しようとした時、慎重に目視しながら後退していたのに死角から歩行者が出てきて「ヒヤッ」としたことや、反対に歩行者の立場で車の接近に危険を感じたことが、誰しも一度や二度はあるはずです。

後進時発生する死角に歩行者がいないか、人の目の代わりにセンシングするバックカメラ・センサーもASVの1つで、バックカメラは後方の様子を車内モニターに移し、センサーは歩行者の存在をアラートすることで、事故を未然に防いでくれます。

カメラとセンサーがどちらも搭載されている車種や、歩行者や他車を感知すると自動ブレーキが作動するものまで、センシング精度や範囲と性能に幅はありますが、音もなくバックするHVやEVが増加している昨今、非常に有用な機能であると言えるでしょう。

④「車間距離制御システム(ACC)」

運転免許取得のために通う教習所で、「安全運転のコツは車間距離を空ける事」と教わってきた人も多いでしょう。理由は車間距離さえ十分に空けていれば前方で何かしらのトラブルが発生しても、安全な停車・回避操作をすることができるからです。

車間距離制御システムは、車両前方に搭載されたセンサーが前走車との距離や速度差を測定し、前走車に近づいたらシステムが自動的にアクセル・ブレーキを制御することで、適切な車間距離を維持しながら追従走行する機能です。

ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)とも呼ばれる、この機能の有効性は非常に高く、車間距離の常時確保により危機回避力の向上、高速・長距離走行時におけるドライバーの疲労軽減、高速道路等のサグ部(※)での減速を防ぐことによる渋滞緩和などに寄与するほか、近年搭載が進んでいる「全車速追従機能付」の場合は、渋滞やノロノロ運転時でも煩わしいアクセル・ブレーキ操作なく、安全かつ楽にドライブすることが可能です。

※サグ部・・・長い下り坂から上り坂に変わる部分のこと。

⑤  「ペダル踏み間違え時加速抑制機能」

誰しもミスをすることはありますが、運転中の失敗は時に尊い命を奪うリスクを伴うため、細心の注意を払わなくてはなりません。とくにブレーキを踏むべき状況で誤ってアクセルを踏んでしまうと、車は「走る凶器」へと変貌します。

ペダル踏み間違い時加速抑制装置は、車載センサーが障害物を認識している状態で誤ってアクセルを踏み込んでしまった場合、警告音でドライバーにブレーキ操作を促し、同時にエンジン出力を下げて数秒のあいだ急発進を抑制する先進安全装備。システムが衝突を回避できないと判断した時、自動でブレーキをかける車種もあるため、一度でもブレーキをアクセルと踏み間違えた経験があるドライバーは要チェックです。

今の車を乗り換える予定もないし非搭載だからどうしようもないという方には、各メーカーが提供している、後付け可能な踏み間違い加速抑制システムを活用しましょう。また、カー用品チェーンでも簡易的な踏み間違いによる急発進を抑制する商品を数万円で販売していますし、中でもオートバックス専売商品である「ペダルの見張り番2」は、軽自動車からミニバンまで約170車種に対応しています。

交通事故往郷分析センターによれば、年間に約6,000件ものペダル踏み間違い事故が発生し、死亡事故の大半が「高齢ドライバー」である状況を重く見た東京都は、70歳以上を対象に「最大10万円・個人負担1割」という、手厚い補助金制度を実施しています。

ASVの今後はどうなる?~自動運転との融合による未来の車~

ここまで、現在搭載が進んでいるASVの「進化し続ける機能」について解説しましたが、推進検討会は既にその先を見据え、自動運転の普及を念頭に置いた「第6期推進計画」に着手しています。具体的には、基本理念の1つである「ドライバー支援の原則」の見直しが検討されている最中で、

  • ドライバー異常時対応システム・・・前期に推進した、緊急ボタンによる緊急停止などの受動的システムだけではなく、自動運転車両の遠隔操作や搭載AI・システムの判断のよる自動制御など、「能動的異常時対応システム」の開発・促進。
  • 高レベル自動運転車普及に伴う影響・・・自動運転⾞が⼆輪⾞や歩⾏者など他の交通参加者と調和を図り、安全な自動運転を実現するための具体策検討。
  • 無人自動運転サービスの早期実現・・・自律運転物流トラックによる隊列走行など、国内外で進行中である「自動運転プロジェクト」と並行し、無人自動運転サービスの実用化に必要なASV技術要件の検討。
  • ISAと自動運転との連携強化・・・道路ごとの制限速度に応じて自動で速度制御を⾏う、ISA(自動速度制御装置)の種類を整理し、より安全・正確なシステム確立に必要な技術要件の検討。

などのほか、実用化が進んでいるとはいえ各社バラバラである、AVSの名称・定義・機能などを統一化することで、「ドライバー・社会受容性の確保」という残る基本理念の浸透・普遍化を推し進める方針です。2020年まで続く第6期推進計画が順調に進めば、ドライバー不足を払しょくする無人物流トラックが整然と並んで隊列走行する横を、ハンズフリー・マイカーがスイスイ走行し、渋滞の無い高速道路で安全・快適に、ドライブできる時代がやってくるかもしれません。

また、レベル3の自動運転が実現すれば緊急対応だけとなるドライバーに、万が一身体的異常が発生しても車が自己判断で停車や回避操作を行うようになれば、確実に歩行者や他の交通を巻き込む交通事故は激減するでしょう。

まとめ

誕生した当初ASVは、「車を安全な乗り物」に進化させる取り組み・技術でしたが、計画の順調な推進と自動運転の発展により、我々の悲願である交通事故撲滅はもちろん、無人物流システムやレベル3以上の自律運転実現を左右する、重要な要素にもなってきました。官・学・産がしっかりとスクラムを組んでいるAVS推進検討会は、さながら快進撃を続けている「ラグビー・日本代表」のようで、その進捗状況には期待を込めて注目していきたいと考えています。

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