カーディーラーが抱える課題は、ドライバーエンゲージメントサービスで解決できるか

カーディーラーが抱える課題は、ドライバーエンゲージメントサービスで解決できるか

カーディーラーが抱える課題、その未来をCDK グローバルジャパン株式会社 長島さまへ伺いました

インタビュイー
CDK グローバルジャパン株式会社 APAC プロダクトマーケティング 長島崇(ながしま・たかし)さま

CDKとDMSとは?

牧野:まずは、長島さまとCDKの事業について簡単に教えていただけますか。

長島:CDKグローバルジャパン株式会社でAPACのプロダクトマーケティングを担当しています。

前職でもIT企業で、ERPやCRM、セキュリティ製品など、おもに企業向けソリューションに携わってきましたが、ハードウェアやコンシューマー製品を担当することもありました。それらの経験が現在の職責にも活きています。今の自動車業界は100年に一度の大転換期にいます。そこで現在は、日本にまだ導入されていない製品のマーケットフィットや、国内のプロジェクトのサポートのために海外の開発部門と連携などを行っています。

CDKは全世界に拠点を持ち、100カ国以上に顧客を抱え、40年以上前からDMS(Dealer Management System:ディーラー・マネジメント・システムの略)を中心に、自動車業界、とくに自動車ディーラー様向けのITソリューションを提供してきました。私たちは自動車販売を顧客との信頼関係のビジネスと考えています。そのために、私たちは顧客が直接ディーラー様やウェブサイトを訪問するところから始まるカスタマーエクスペリエンスを技術的に支援したいと考えているのです。これは平均的な当社の顧客が20年以上に渡って当社ソリューションを選び続けてくださっていることでも証明されていると思います。

牧野:DMSはどのような製品ですか?

長島:通常、自動車は自動車メーカー各社からではなく、ディーラー様経由で購入されます。それに、納車後も点検や修理、車検や消耗品の購入など、ドライバーが受ける車関連のサービスはディーラー様が窓口ですよね。そうした情報を一元管理し、自動車に関する様々なディーラー様のビジネスをサポートするのがDMSと呼ばれるシステムです。

CDKのDMSの特徴ですが、自動車業界に特化しているため、当社のソリューションで様々なニーズに応えられることです。顧客とのエンゲージメント、支払い、会計などお金の管理、自動車部品の管理、アフターサービスなどを支援する各ソリューションを高いレベルで統合しているので、一貫したシステムとして提供できるのです。一方で、昨今のお客様はすでに何らかのシステムを運用していますが、当社の製品は既存システムともシームレスに統合が可能です。

自動車業界は、CASEやMaaSと呼ばれるような新しい技術や概念が浸透しています。これらが一般化すれば、自動車はただの乗り物ではなく、より高い安全性、快適性そしてより高いエンゲージメントや運転体験が求められるでしょう。お客様がそれらに対してスムーズに対応できるよう、私たちも戦略的な投資を続けたいと思っています。

ちなみに、御社のSmartDrive Carsについてもご紹介いただけますか?

牧野:スマートドライブでは、シガーソケットに挿すだけで車がコネクテッドカーになるIoTデバイスを自社で開発し、デバイスに内蔵されたさまざまなセンサーやGPSのデータから車に関するあらゆるデータを取得しています。

一般向けに提供しているSmartDrive Carsは、レジャーで遠方に行く人、毎日送り迎えや買い物に車を利用しているママさん、通勤でマイカーを使用している人たちの走行データを取り、安全運転の促進を目的としています。安全運転を見える化してポイント交換できるため、安全運転をすればおトクで生活が便利になると、ポジティブに行動を変えていければと。

私たちはこれをドライバーエンゲージメントサービスと呼んでいますが、運転する人たちが楽しくなったり、便利になったりする体験を生み出していきたいと考えています。

ドライバーエンゲージメントサービスの重要性

長島:なぜ、ドライバーエンゲージメントサービスを開発しようとお考えになったのでしょうか。

牧野:昨今ではSDGsが着目され、所有から利用へ、車との付き合い方や移動のあり方も変わりつつありますよね。時代が変わると新たな価値観も不便さも出てきますが、そこにマーケットが生まれるでしょうし、車業界や移動に関するマーケティングも進化します。その進化の過程でアプローチをしたり、新たな価値を提供したりできると思い、注目しているのです。

長島: MaaS関連のサービスは、ライドシェアや決済関連がほとんどですが、SmartDrive Carsは独自性が高いと言うか、今までになかったサービスですよね。安全運転した人を評価するのは素晴らしい仕組みですが、ビジネスを成り立たせるのは難しくありませんか?

牧野:そこはやはり難しいところで、収益化については日々考えを巡らせているところです。MaaSは効率的な移動にフォーカスした概念で語られることも多いのですが、人は常日頃から移動をしていますし、移動中やお出かけ先での消費行動は経済を回すことにもなる大事なことです。経済が動くということはマネタイズできるビジネスチャンスがあるということ。

たとえば、安全運転した人に対して、こちらの方面へ行くとあなた専用のクーポンが付与されますとか、このお店に行くと優先的に入れますと言った提案をレコメンドできれば、人の動きや移動を積極的に促すことができるのではないでしょうか。

長島:人を動かすことでビジネスの活路を見出すことができると。

牧野:そうですね。ですので、私たち単体で収益を上げるのではなく、既存のビジネスに新しいカー付加サービスを付けたり、私たちをハブとして活用いただいたりするなど、他社とも柔軟につながることが可能な設計にしています。

長島:当社も含め、SmartDrive Carsの方向性に賛同されている企業様も多くいらっしゃるので、ある意味ではすでに成功しているようなモデルだと思います。

牧野:一つ事例をあげると自動車保険があります。安全運転だと安くなる、ロードサービスが充実するなど、テレマティクス保険として少しずつ取り組みが始まっています。また、保険にプラスしてクーポンを付与するなど多層的な価値を提供できれば、ユーザーにも企業側にもメリットが生まれると考えています。

長島:B2B2Cのサービスにおいては、これまでそうしたスマートなモデルを見たことがありません。SmartDrive Carsは他社と上手に連携を取りながらユーザーファーストなサービスを展開されている、素晴らしい例です。

カーディーラーが持っている課題

牧野:DMSはカーディーラーがお客様の情報や車両の情報を管理するシステムとのことですが、ディーラーはどのような情報やデータを求めているのでしょうか。

長島:ディーラー様は車を販売した後も積極的にお客様とのつながりやエンゲージメントを大切にしたいと思われています。しかし、お客さまがメンテナンス費用やディーラー様へのアクセス面を考慮して、点検はガソリンスタンドやその他工場へ持ち込み、部品は他のカー用品店に行くといったケースもみられます。来店いただけば整備や修理のサービスを提供できますので、ディーラー様としてはお店に来てもらえるだけでも嬉しいのですが。ディーラー様は車に関する様々な情報や知識を備えているのにそれがうまく活用できておらず、お客様との接点を持ちづらいことに頭を抱えてらっしゃる。

さらに、Teslaのように車をメーカー直販で販売するモデルが今後も増えると、ディーラー様が介在しないことが当たり前になってくるかもしれません。そうした面からも、世の中の流れに対して危機感を抱いているようです。

牧野:そもそも、車の購入方法自体が変わってきたと伺います。今まではディーラーに何度も足を運んで車を購入していたものが、ネットで素早く膨大な量の情報が手に入るようになったため、来店回数が激減しているとか。

お客様との会話からさまざまな情報を得ることができても、会話以外の方法で顧客が求めているものを把握するのが難しい。それはなぜでしょうか?

長島:ディーラー様も、情報管理のシステムだけでは限界があると感じているようです。データを上手に使いこなせば、課題解決へと導くことができるはずですが…。

牧野:SmartDrive Carsがそうした課題を持つ企業様に受け入れられる理由がわかってきました。

お客様が普段どんな場所へ行き、どのような行動パターンをしているのか。顧客一人ひとりの利用状況がデータで取得できれば、適切なタイミングでレコメンドをすることもできますし、今までにないアプローチをできるかと思います。

長島:データをどのように活用するのか、有用なデータをどう集めるのかなど、ディーラー様の会話からもデータというキーワードはよく出ますので、データの重要性については十分ご理解いただいているようです。

とくに日本車は信頼性も安全性も高く、寿命も長い。車をより長く使っていただくためにも、販売した後のサポートは重要です。しかしそのためにはデータが必要となります。

牧野:SmartDrive Carsは走行データがクラウド上にありますので、車を買い換えてもデータが引き継がれます。ですので、買って、売って、リセットするだけの関係から、データと思い出も引き継ぐサービスへと変えていけるでしょう。

長島:自動車ビジネスとなると、どうしても車が中心になってしまいますが、SmartDrive Carsは人に重きを置いている。

一方、CDKのDMSソリューションは車を中心にしたソリューションです。車台番号や法令、リコールの情報など、車に必要不可欠な情報は管理できても、これらは頻繁に利用するものではありません。ですから、日常的に活用できる情報をSmartDrive Carsで補完できると良いなと。話を聞いていてそう思いました。

ディーラーがエンゲージメントを向上させるには

牧野:ディーラー様は現状、どのようにしてお客様をロイヤルカスタマーにしようとしているのでしょうか。

長島:さまざまな施策を考えているようですが…。お客様の要望を先回りするようなコミュニケーションはできていませんね。いまだにコミュニケーションは紙のDMが多いですし、Eメールを使ったコミュニケーションも限られます。これも、お客様の情報を把握しきれていないことが起因していると思います。

牧野:私は主婦目線で作られたファミリーカーに乗っていますが、アウトドアが好きで海や山へ行くときにも利用しています。これは、メーカーが本来意図した使い方とは違うかもしれませんが、お客様の行動を把握して、私のようなお客様が多いとわかれば、アウトドアグッズのプレゼントキャンペーンを展開したり、アウトドア用品のメーカーとコラボしたり、より幅広い提案ができると思うんです。

長島:車は、人生の長い時間に関わるものです。何年も先を見据えて、今と未来の活用方法やその魅力にアプローチができれば、もっとエンゲージメントが高まるのではないでしょうか。

牧野:ドライバーエンゲージメントのヒントとして考えているのが、運転のエンタメ化です。電車の中だと、隙間時間でスマホからメールを送ったり、音楽を聴いたり、ニュースを読んだりできますよね。車はまだ自動運転になっていないのでドライバーが運転し続けなくてはなりませんが、運転中は基本的に他のことができませんので、見方によっては作業時間だと捉えられてしまう。だからこそ、早く、効率よく目的地に着きたいと思わせてしまうのです。移動することがエンタメになって、面白いと思っていただければ、移動がもっと楽しくなるんじゃないでしょうか。

長島:システムやAIがいくら最短ルートを提示してくれても、無機質で人気のない道だと楽しい気持ちになれませんからね。たまに、「普通の感覚だったらその道は選ばないでしょう」ってルートを提示してくるときがあるじゃないですか。

SmartDrive Carsの場合は人のパーソナライズされたデータなので、ワクワクするルートを提案してくれるでしょうし、手段としての移動を変えてくれると思っています。

牧野:テクニカルより、情緒的なメリットを出していきたいですね。

相互補完でドライバーにさらに良いサービスを提供する

牧野:CDK様とスマートドライブでどのようなコラボレーションが可能でしょうか。

長島:持っているデータの種類を含め、お互いの得意分野は違いますが、うまく相互補完ができれば良いですよね。

牧野:SmartDrive CarsのデータとCDK様のデータを掛け合わせて活用することで、ディーラー様に向けてより大きな価値を提供できるのではないでしょうか。そしてそれがうまくつながって、ドライバーに安全かつ面白い移動体験を提供できるようになれば良いのですが。

長島:ディーラー様は車に関してもっとも信頼できる場所。そこへSmartDrive Carsの情報が提供できれば、彼らのビジネスチャンスも増えますし、質の高い接客やサービスを提供できる。そうすれば、お客様の満足度も向上し、つながりも構築できますので、地域に根ざしたディーラー様独自のネットワークができるようになるでしょう。

牧野:ドライバーのエンゲージメントを高めて、よりよい車社会を作れるようにお互い頑張りましょう!

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