中国が取り組むスマートシティの国際規格

中国が取り組むスマートシティの国際規格

最先端技術を活用してスムーズな交通、効率の良いエネルギー運用、行政データの統合で最適化した都市をつくる。そんな未来像を現実にしようと進められているスマートシティ構想。それは日本だけでなく、世界中で取り組まれていますが、中でも一歩先を進んでいるのが中国です。

中国では、コロナの感染症防止を目的として都市を“監視する”仕組みを導入しようとしており、これに対し、日本政府は今後の国内外の都市開発で日本企業が不利になるかもしれないと危機感を抱いています。その理由とは?

なぜ、スマートシティの国際規格に関するニュースが話題になっているのか

AIやビッグデータ、自動運転技術など、スマートシティを実現するには多くの構成要素と最先端技術が関連します。そのため、構想はあるけど、まずは何をどのように着手すべきかという、実現よりはるか手前に課題があると考えられていました。このような課題を解決してスマートシティ構想の実現を進めるために、世界貿易機関(WTO)は加盟国に国際基準に基づく国内基準を設けるよう求めており、国際標準化機構(ISO)、国際電気標準会議(IEC)、国際電気通信連合(ITU)など、多様な標準化機関が規格を作成しています。しかしながら、10,000件を超えるスマートシティ関連規格が乱立するという、“別の”課題が浮上しているのです。

そんな中、8月初旬に注目を集めたのが、「日本政府は中国がスマートシティ国際規格で先行することを阻止しようとしている」というニュース。一体どういうこと??と目を疑った人も少なくはないでしょう。

内容の詳細は公表されていませんが、新型コロナウイルスを抑え込むための住民監視システムに関連するもので、中国がスマートシティー分野で国際標準化機構(ISO)や国際電気標準会議(IEC)の技術委員会に国際規格を提案中とのこと。そのうち3件の採否は、技術委員会で参加国の3分の2以上の賛成によって12月には決まりますが、日本は米欧各国と連携して阻止を目指すとしています。中国ではコロナ以前より、街中に設置された2億台ものカメラによって国民の生活が監視されていたり、スマホやPCでの行動履歴が全て収集されたり、膨大な個人データで一人ひとりが格付けされたり、国が個人情報を全て収集する監視社会の体制が問題視されていました。コロナが蔓延してからは、国民の移動を追跡するアプリを開発し、GPSによる位置情報や診察履歴など、一人ひとりの個人情報を大量に収集し、リスクを判別しています。

中国が国際基準をつくることになれば、日本政府の調達事業も中国企業に有利な方向に動いてしまう。そういった懸念から、日本政府は国内外の都市開発事業を中国に奪われかねない、そして安全保障上の危機に懸念を抱き、阻止をすべく動き始めたというわけです。

中国におけるスマートシティの動向

中国は現在、環境からエネルギー、交通インフラ、通信、人口、教育、健康など、都市を構築する幅広い分野において、国を挙げてスマートシティの建設に取り組んでいます。

そもそも、中国がスマートシティに取り組み始めたのは2000年代のこと。現在のスマートシティの前身となる取り組みが、2006年に採択された、第11次五ヵ年計画でした。これは、省エネ化や環境保全を目的とした循環型経済の構築をベースに立てられたMので、エネルギー消費量を20%下げることが掲げられていました。

そこから進化を遂げたのが2010年。2008年ごろよりスマートシティ開発の流れが世界で起き始め、中国では武漢と深センをパイロット都市としてスマートシティの開発がスタート。2011年に発表された第12次五ヵ年計画では、スマートシティへの取り組みを強化することが告げられ、高効率エネルギー産業の開発、スマートグリッド設備の建設が開始します。

2012年にはスマートシティ全国への展開を広げるべく、スマートシティ開発プログラム参加への登録資格要件が定められます。そこから一気にスマートシティ構想は加速。

2014年、国務院がIoTやビッグデータ、クラウドなど、最先端技術を活用したスマートシティを建設を「全国新都市計画」内で発表。官民や業界の垣根を超えた連携体制で、スマートシティを構築すると明示しました。そして2016年。第13次五カ年計画(2016年〜2020年)において、IoT、ビッグデータ、5Gなどのデジタル技術を活用した都市インフラのスマート化、公共サービスの利便性向上などが明示されました。2018年には、500もの都市でスマートシティの建設および建設目標が掲げられています。

そして、2018年10月に、国家市場監督管理総局と国家標準化管理委員会が23項目のスマートシティと情報セキュリティに関する国家標準(国家規格)を発表しました。計画から建築自体はすでにスタートしていたものの、多くの都市では統一した標準がなく、各都市における管轄部門が独自に建設を進めてきました。この国家標準が定められたことで、スマートシティの水準と質の向上につながることが期待されているのです。

まとめ

2014年、BSI(英国規格協会)は、スマートシティに関する国際規格「PAS 180」(スマートシティ用語規定)と「PAS 181」(スマートシティとスマートコミュニティ戦略立案のガイド)を発行しました。

「PAS 180」は、デベロッパーやデザイナー、製造業者、顧客がスマートシティに関して意見を交わす際に使用する用語の定義を定めた規格で、これにより将来の都市形成に向けてビジョン、直面している課題やスマートシティの機能について議論する際に、用語の混乱による誤解を防いで意見を集約することが可能になります。また、「PAS 181」は、スマートシティを確立するための意思決定のフレームワークを規定したガイドライン。将来の理想的な都市像に近づけていくための戦略を立て実行していくうえで、より効率的かつ効果的な方法で物事を決めていく方法をフレームワークで示したものです。

スマートシティの構築は今後ますます加速していきますが、世界の中でも群を抜いたスピード感で実現しようとしている中国の動きには、日本国外で注目されています。今後、日本にどのような影響を与えるのでしょうか?

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