スピーカーの自己紹介
山本新卒で本田技術研究所へ入社し、四輪車の研究開発に取り組み、その後、入社前から希望していた二輪車の新規事業企画に従事。2020年4月より、ホンダモーターサイクルジャパンにて日本国内でコネクテッド技術を活用した二輪車のサービスを構築しております。
ホンダモーターサイクルジャパンは二輪製品・部品などを正規取扱店を通じて、お客様に提供している企業です。ハードだけでなく、保守・メンテナンスや各種イベントの実施、モーターレクリエーション活動、安全運転普及活動を積極的に行っています。
元垣内データ解析のアカデミックバックグラウンドを経て、公認会計士、ウェブ系サービスのデータ解析を担当してきました。2015年にスマートドライブへ参画し、技術と事業を横断して広く深く数字とデータにまつわる業務に従事してきました。最近はおもにデータ活用関連の事業開発、技術開発を担当しています。
コネクテッドバイクに向けたホンダの挑戦
山本まずは日本国内における現在のバイク市場について簡単に紹介させてください。
販売台数で見ますと、日本で一番バイクが売れていたのが1982年で328万5,000台でした。対して2018年は36万9,000台。数字だけで見ると激減していることがわかります。
販売が低下しているのはおもに原付一種、50ccのバイクです。過去には移動の足代わりとして個人のお客様に利活用されていましたが、公共交通機関の進化や電動アシスト付き自転車など、新しいタイプのモビリティが登場してきたことで需要が減ってきました。
しかし、街中では新聞配達や食品のデリバリーなどでバイク姿のドライバーを目にすることが少なくありません。つまり、ビジネスバイクは未だ底堅い需要があるということです。
ホンダにおきましては、底堅い需要があるファンバイク、ビッグバイクの領域とビジネスバイクの領域に関してコネクテッドを付加することでさらに価値を高めていきたいと考えております。四輪やその他のサービスと比べてビハインドしているように見えますが、二輪にはまだまだ進化の余地がある。私たちはそう捉えて、これらのサービスのスピーディな構築に挑戦しているのです。
コネクテッドサービスの構築に向けて、次の3つの課題がありました。
1.構築スピード
2.サービス運用の実績
3.構築後もサービスを進化させられるか
ホンダはモノづくりで成長してきた会社です。二輪に関しては世界シェアNo.1を誇っておりますし、技術に自信を持って提供していますが、コネクテッドサービス、ソフト領域に関してはこのような3つに課題を抱えていました。とくに気にかけていたのが、3つ目のサービスを進化させ続けることができるか。3つの課題をどのように解決してきたかについては、後ほど説明させていただきます。
ちょうど一年前、2019年4月末時点では、ホンダモーターサイクルジャパンと本田技研工業で横断プロジェクトを立ち上げて何とかしよう、ということしか決まっておらず、プロジェクトは立ち止まったままでした。
元垣内そうだったのですね。しかし今春、新たなモビリティとして法人向けのコネクテッドEV向けバイクをリリースされています。
山本はい、ビジネス向け電動バイク、BENLY e:(ベンリィ イー)を先日発売いたしました。BENLY e:はこれまでに多くの実績を誇るガソリン車をシンプルに電動化したもので、一番の特徴はバッテリー交換が簡単にできる着脱式のバッテリーを採用したことです。電動車は充電時間が長いことがネガティブ要素になりますが、二輪のサイズであれば取り外しが簡単にできるため、走行中に充電をして、バッテリーがなくなってもすぐに交換して走り出すことができるのです。また、電動車ですので環境に負荷を与えることもありません。
なおかつ、ホンダフリートマネジメントというコネクテッドシステムと連携することで、ハードだけでは困難なさらなる安心安全性能の向上や業務の効率を実現できる。それがこのモデルをリリースした狙いです。
Hondaバイク×スマートドライブ
元垣内ホンダさまが私たちスマートドライブと連携した理由と、私たちに期待することを伺えますでしょうか。
山本先述したように、私たちはスピーディなコネクティッドサービスの実現そのものを挑戦領域として捉えていました。3つの課題を素早く解決するには自前で何とかしようとせず、すでに実績をお持ちの外部企業との連携が重要だと考え、複数の企業と話をさせていただきましたが、最終的に2019年の8月、スマートドライブとの協業を決定しました。しかも、連携開始からたった半年で、デザインも優れたサービスがスピーディに構築できた。これはやはり実績とスタートアップならではのスピード感がなければ実現できなかったことです。ホンダとしては初めてのことも多いですので、しっかりトライアル運用を重ねたうえでリリースしたいと考えております。
ホンダでは2030年ビジョンとして、「すべての人に、『生活の可能性が広がる喜び』を提供する」とうたっていますが、この中長期のビジョンについてもスマートドライブに共感してもらえたことが連携に向けて大きな意味を持ちました。さて、ここまで質問はございますか?
質問色々な企業と連携していくなかで、新しい発見はありましたか?
山本日々が発見の連続ですね。大きなところですと、プロダクト開発に対する考え方がハード領域とソフト領域で大きく異なると感じたこと。ハードですとリリース後は一切の変更ができないため、仕様を詰め、製造の過程でなんども作り直して品質を高めていきます。ソフトも同様の取り組みはあるものの、リリースしてからどれだけアップデートできるかが勝負という部分もあるようで。その点においては新たな発見ができましたし、スマートドライブが得意な領域であると感じました。
質問充電インフラの整備は何か考えていますか。ガソリンスタンドやそのほかの協業など。
山本今回のバッテリーの規格自体はホンダ独自のものではなく、他メーカーと共用化することでインフラ構築をしていく予定です。そうした今までにない取り組みも業界全体で進めています。
質問お客様がホンダに期待することはなんでしょうか。何か分析されているところがあれば。
山本今後もホンダとしてお客様が期待していることを追いかけたいと思っていますが、今の需要と合わせて認識していることは2つです。
法人に関しては合理性。たとえばデリバリーで使用する場合、自転車では積載できる荷物の量が限られるうえ、体力も必要ですし、四輪車では維持費がかかり、渋滞に巻き込まれて遅延する可能性が高まる。だから、荷物も一定量搭載できて小回りがきくバイクを選ぶというように、業務とのフィットが求められています。
個人に関しては自己実現やバイクライフの充実を強く感じています。ですから、コネクテッドと合わせて、今後もバイクの価値を高めていきたいと思っています。
バイクがつながることで生まれるサービス・価値とは
山本バイクがつながる。それによって具体的にどのようなサービスや価値を提供できるようになるか、ここでは法人向けと個人向けに分けてご紹介させていただきます。
法人向けサービスでの可能性
先ほどご紹介した、ホンダフリートマネジメントのリリースに向けて力を注ぎ、ビジネスバイクユーザーが持つ
・従業員の位置情報を把握したい
・長時間労働・私的利用などを可視化したい
・安全運転意識を高めたい
・車両や業務管理をさらに効率化したい
といった、さまざまな悩みを解決していきたいと思っています。
具体的には、リアルタイムでの位置情報把握、運転特性のレポート作成、危険運転発生箇所の可視化、日報の自動化、ジオフェンスフェンスによる業務効率向上など、四輪のフリートマネジメントサービスで実績がある機能を二輪にフィットできるよう構築しています。
元垣内法人向けサービスは、今後どのような発展を考えていますか?
山本ホンダの二輪車であればガソリン車でもフリートサービスの適用は可能です。今後は、デリバリーのステータス、運転者の特性に車両の物理モデルと部品のスペックを掛け合わせ、部品劣化予測ができるなど高度なメンテナンス案内を構築したいと考えております。また、ただ案内をするだけでなく、部品の劣化を遅らせるにはどう対処すべきかをお客様に合わせてフィードバックできればとも。実際にフリートマネジネントを使用しているお客の悩みを聞きながら、システム自体をどんどんアップデートしていきたいですね。
法人のコネクテッドサービスについて、参加者さまから質問をいただいておりますので、ご回答させていただきます。
質問このFleet Managementサービスで得られているデータは、四輪等の他のサービスと共有されているのでしょうか?
山本今は共有していませんが、共有できる状況にありますので、私たちがお届けしたい価値によって、二輪・四輪のデータ共有を実現していきたいですね。
質問車の開発サイクル4~6年と比較するとかなり短期の取組だったと思いますが、社内でのコンセンサスづくりは大変ではありませんでしたか?
山本まず、四輪より二輪の方がハードの開発は若干短く、なおかつ決められたガイドラインに沿って開発しているので特別な苦労はありませんでした。しかし、今回開発したフリートマネジメントは、スマートドライブさんとの協業ですので、どこまでをホンダでカバーし、どこから先をスマートドライブ社にお任せすべきか、品質、責任の分解点の決め方、取り回しにはやや困難を極めました。結果としてうまく進みましたので、よかったのですが。
元垣内単純に、ハードとデータプラットフォームを切り分けて役割分担をするだけの話ではありませんしね。実際に開発を進めていますが、バイクからどのようなデータがどの程度の粒度で上がってくるのかを把握しつつ、しっかりコミュニケーションをとりながら構築することが重要だと感じています。
個人向けサービスでの可能性
山本私たちはバイクというハード面だけでなく、さまざまな形でお客様に寄り添い、お客様のバイクライフを充実させていきたいと考えています。ここではそれを体現した、個人向けのサービスを2つほどご紹介させていただきます。
実は、アンケートをとった結果、二輪免許を持っていてもバイクの所有や購入にハードルを感じているお客様が相当数いることがわかりました。そこで、もっと気軽に、もっと手軽にバイクライフを楽しんでほしいという思いで、3月末よりHondaGO BIKE RENTALというレンタルバイクサービスを開始しました。ゆくゆくは貸し出す車両もコネクテッド化して、さらなる付加価値をお届けしたいと考えております。モビリティ自体が所有からシェアへと移行しつつありますが、まだまだ憧れを胸にバイクを購入されている方も多くいらっしゃる。そうしたお客様に対し、より安心・安全なバイクライフをソフト面で支えられるアプリを構築中です。
HondaGO BIKE RENTALは単なるレンタカーのバイク版ではありませんし、開発中のアプリも単なる便利・お得なツールではありません。「バイクで出かけたいけどバイクを持っていない」というお客さまのニーズに応え、バイクの移動そのものをアクティビティとしてポジティブに捉えていただいているお客様に向けた“体験”サービスです。アプリはバイクライフの充実に加え、今後、お客様とホンダのコミュニケーションを加速させるツールとして捉えています。
元垣内今までにない体験を提供するには、つながるデータの活用がますますキーになりますね。次の展開が楽しみです。
コネクテッドバイクから集まるデータを活用する未来
元垣内続いて、私からはコネクテッドバイクから収集したデータをどのように活用できるか、データの活用方法や可能性についてお話をさせていただきます。移動データ単体でも価値がありますし使い道もたくさんありますが、移動データに別のデータを掛け合わせることでさらに多様な価値が生みだされます。
移動データにどのようなデータの掛け合わせがあるのか、思いついたものをこちらにまとめて見ました。
たとえば、「移動データ×SFA・CRM」。たとえば、日本全国にいくつもの加盟店を持つフランチャイザーがいるとしましょう。「移動データ×SFA・CRM」として、加盟店ごとの売り上げデータと車やバイクの稼働データを掛け合わせ、売り上げ効率トップの加盟店の稼働データを可視化するのです。そうすることで、そこから得られた売り上げNo.1の店舗が持つノウハウや工夫を加盟店教育に標準化し、本部へのロイヤリティをあげるというように、事業上のウィンウィンの関係構築に活用することができます。単体で見ていてもわからない各々のデータを組み合わせることで生まれる価値もありますので、組み合わせが多ければ多いほどアイデアが生まれ、可能性は広がっていく。
ですので、まずはシンプルに移動のデータと合わせて取得できる情報を掛け合わせて、活用のアイデアを練ることです。
さらに別の視点で、移動データの活用の仕方を考えてみましょう。上記の図は、移動データの活用形態と進化を、人が介在するプル型か機械が中心のプッシュ型か、扱う項目がシンプルで定形か複雑で非定形かという四象限で表したものです。右上はおもに過去データが対象で、管理者がKPIを設定し、意志を持って分析・モニタリングしてレポートを作成する部分で、法人向けフリートマネジメントサービスも大部分がここに位置します。ここを起点として時計回りにデータ活用が進化します。
まずは蓄積された過去のデータを分析するところから始まり、リアルタイムのデータをモニタリングしてシンプルなことを自動化する。RPAの活用がこの自動化の部分ですね。そこからAI/機械学習を利用して複雑な部分をマシンによって予測分析するし、人間では対応できないようなデータ活用を行う。そして最後、左上は人と機械の融合領域で人の行動変容を促すデータ活用ができると。このように、データの活用形態も進化します。
移動データと他のデータの掛け合わせ、そこへこのデータ活用形態を組み合わせることで、可能性は無限になる。このような視点で考えるとアイデアはどんどん広がっていくのではないでしょうか。
また、バイクがコネクテッドになればパーツの劣化やタイヤの磨耗具合、燃費、走行データなどあらゆるデータを取得することができますので、予測分析をしてこれら消耗品を交換するタイミングでアラートを出すことも可能です。さらに予測だけでなく、タイミングを制御するファクタを見つけることもできる。つまり、コネクテッドにすると、バッテリー燃費に対してエコな乗り方がわかり、安全運転や燃費の良い乗り方を支援できるようになるのです。そうすれば、結果的にメンテナンスや燃料のコスト削減が実現できるので、お客様としては大きなメリットが得られます。
山本電動車は特性上、小まめな充電が必要です。それが唯一の難点ですが、システムで適切にサポートすることで非常に有効なリカバーができますね。
元垣内コネクテッドバイクの合理性の面ばかりフォーカスしてしまいましたが、合理性以外にも多くの魅力や価値があると思うんです。山本さんから、何か発信したい価値はございますか?
山本ありがとうございます。弊社としては、合理性を超えたバイクの価値を再定義したいと思っています。イメージをわかりやすくお伝えするために弊社アカウントのInstagramの写真を用意しました。テキストでは、次のように記されています。
「ホテルから出発し、まずは大山﨑の地元に根付いた焙煎所でコーヒー豆を購入。その後は長岡京市の地下水を汲んでいただき、京都を一望できる天王山までバイクで移動しました。絶景の展望エリアで青空の下でコーヒーをご自身で淹れていただくという、京都ならではの贅沢なアウトドアの楽しみ方を体験いただきました」
旅やアウトドアが好きな方であれば、このシチュエーションが連想いただきやすいかもしれません。端的に言うと、ただ美味しいコーヒーを飲んだということですが、バイクで移動した場所、アウトドア体験、目に映った風景、匂い、その時に目にした、耳にしたものたちが重なりあい、体験として素晴らしいものへと昇華されていく。私たちとしては、バイクは単なる移動手段だけでなく、体験をもたらすものとしての価値があることに注目しているのです。
移動そのものも含め、世の中がどんどん合理的で効率的なものへと変わっていますが、世の中が合理的になればなるほどリアルな体験やこだわりが生み出す感動やありがたみといったポジティブな側面を感じられるようになるのです。この体験をデータやお客様とのコミュニケーションの中で確固たるものにしていきたいですね。
元垣内コネクテッドでリアルタイムの位置情報をとることができますから、旅先でもバイクで走ると気持ちいいルートや充電スポットから逆算した観光スポットの提案、道中にあるバッテリーステーションの案内など、便利でありつつバイクならではの感動体験を提供していけるのではないでしょうか。
まとめ
元垣内では、これよりまとめに入らせていただきます。
ものづくりのホンダとことづくりのスマートドライブ、両者の強みを活かしたコラボレーションによって、日本発、世界に向けたスピーディかつサステナブルなサービス開発を実現し、未来に向けた進化が始動をしています。コネクテッドバイクによって、よりエコで便利な合理的な世界に加えて、合理性だけではないバイクだからこそ体験できる豊かなバイクライフを提供し、新たな感動と価値の創出を目指していきたいというお話でした。
山本ありがとうございます。法人領域ではすでにデータを使った新しい価値を見出しておりますので、お客様にサービスとしてしっかり届けていきたいですし、生まれた価値は、お客様への理解やデータ分析の精度を向上させるために活用し、サービスを向上させていきたいと考えています。
それでは、ここでいくつか質問に回答させていただき、セッションを終了とさせていただければと思います。移動体験に関する質問がきていますが、元垣内さん、いかがですか?
質問移動時間の短縮、スムーズな移動など、移動の体験は今後どのように変わっていく?
元垣内今までは目的地までの最短ルート、最小時間の案内が優先されていました。これが、たとえば、しょっちゅう渋滞が発生している場所へ行く際に、少し離れた駐車場に車を駐め、歩いて目的地まで向かうことを推奨するとしましょう。一人だけでは意味をなしませんが、そういう人が増えれば渋滞も解消されるし、健康にも良いので、最短ルートや最小時間といったこれまでの合理性とは異なる考え方もあり得ます。また、現在は新型コロナの影響で3密を回避するよう言われていますが、今後は最短ではないけど2本遅らせると混雑を避けられるからリスク回避になるなど、時間だけではない移動体験が浸透していくかもしれません。
質問HONDAさんの社内でもプラットフォームに似たものを構築でき、分析技術者も在籍していると思うのですが、スマートドライブさんとの協業を選択した決め手などはありますでしょうか?
山本弊社内でも構築は可能ですが、最初にスタートしたかった法人向けの車両サービスについて、スマートドライブがすでに実績を持っていましたので、連携させていただきました。この取り組みで得られたデータは社内でも利活用していく予定です。
質問既存のバイクを後付けでコネクテッドにすることも可能ですか?
山本ポイントは通信機が搭載できるレイアウトか、電源を取り出すのでコネクタが配備されているかです。基本的にはあらゆるモデルでコネクテッド化が可能です。
質問地方自治体にもバイクを多く持っています。災害時や復旧時の情報収集や物資の配送につかえるともいますが、官との連携は、事例や予定はあるのでしょうか。
山本自治体の方でも数多くの二輪車を活用いただいておりますので、コネクテッドによって、どのような価値を提供できるかは今後検討していきたいと考えております。
元垣内以上で、本セッションは終了です。本日、初めから終わりまでご参加いただいた方も多くいらっしゃるかと思います。ご静聴いただいたみなさまに、心より感謝申し上げます。時代の変化とともに、移動が急速に進化しつつあります。今後も業界の垣根を超えて、ともに移動の未来を考え、議論できる場を提供できればと思います。ありがとうございました!