電子政府とは?IT最先端を行く東欧の小国エストニア

電子政府とは?IT最先端を行く東欧の小国エストニア

今やIT先進国として知名度も高い北欧の国、エストニア共和国。1991年にソビエト連邦から独立することで独立国家の地位を回復した同国が、その後IT領域においてめざましい躍進を遂げ、有名どころではSkype を排出し、最近は多くのITベンチャーも集まってきており、「ヨーロッパのシリコンバレー」と呼ばれたりするほどに進化してきたようです。その秘密は一体どこにあるのでしょうか?

エストニアってどんな国?

ロシアに隣接したバルト三国の一つであるエストニア共和国は、北ヨーロッパに位置するEUとNATOの加盟国で、面積は日本の9分の1の4.5万㎢、人口は約132万人(2017年1月)。

日本国内からは直行便がないため、フィンランドを経由して飛行機や船での移動が必要となるので、到着までにはさらに2時間ほどかかります。公用語はエストニア語ですが、「英語能力指数(EF EPI)」は世界第7位(2015年度)のため英語を話せる人の割合も高く、小学1年生からプログラミングを学ぶなど早期のIT教育や国際学力調査でヨーロッパの上位国としても有名です。

エストニアの平均月収は12万円程度、EU諸国の中ではホテルやレストランなどの値段や物価が安く治安も悪くありません。

2000年以降は段階的な税制改革やIT産業の発展などにより、経済の成長率が回復。2008年は世界的な経済危機の影響を受け、2009年には-14.7%と最も深刻な経済危機を経験したものの、その後急速に回復を見せて2011年には+7.6%の経済成長を遂げました。貿易や投資関係の結びつきが強いフィンランド経済の影響を特に受けやすく、GDP成長率は2015年に1.1%と低迷しましたが、2017年は3.5%の見込みです。

世界銀行が発表している「ビジネスのしやすさランキング(2017年版)」ではエストニアは12位にランクイン。

エストニアの首都・タリンでは、自動車利用を減らし大気汚染抑制を目指す取り組みとして、2013年に市民を対象とした路面電車・バス・トロリーバスといった公共交通機関の無料利用サービスを開始しています。市民以外で公共交通機関を利用する人は、携帯電話やインターネット、駅の窓口で「IDチケット」を購入しeIDカードに登録した上で乗車します。

タリンは近年の急激な自動車の増加によって渋滞が悪化しているため、公共交通機関を利用させて少しでも解消するべく、2005年からこのシステムを導入しました。このeIDカードには日本のマイナンバーのように、出生時に発行される国民のID番号やセキュリティ対策のための情報が入っています。身分証明証や保険証として機能するだけではなく、インターネットを利用する際の電子署名や電子認証をはじめ、銀行や保険会社など民間サービスにも広がり、あらゆる手続きをオンラインで処理できるのです。

日本との関係性において言いますと、近年、IT・サイバー分野でエストニアとの協力関係が進展しています。2013年12月、東京において、ICT政策およびサイバーセキュリティ分野における日・エストニア間の政策対話が実施され、翌年の2014年6月、タリンで開催されたNATOサイバー防衛協力センター主催のサイバーセキュリティに関する国際会議CyCon(サイコン)には、日本の官民関係者12名が参加。さらに2014年3月の日エストニア首脳会談での合意を受けて、2014年12月、2015年12月及び2017年1月に日エストニア・サイバー協議が開催されました。その他、IT・サイバー分野に関心を有する政府、地方自治体、大学・研究機関、企業、経済団体等の往来が増加しています。

IT国家・電子政府があるエストニア

エストニアはIT立国化を国策として進め、選挙から行政サービス、教育、医療、警察、居住権に至るまでをインターネットで対応できるように「電子政府(e-Estonia)」の取り組みが進んでいます。

2005年、地方政府の選挙で初めて自宅からインターネットを介した電子投票を行い、世界から注目を集めました。新たな技術の力を借りて選挙への参加方法の選択肢を広げるもので、足腰の悪い年配層や海外旅行中、留学中のエストニア国民も投票可能になっています。
2014年12月には、外国からの投資や企業誘致等を促進するために電子居住権(e-Residency)の制度が導入され、電子居住権取得者はエストニアの国民・居住者以外であってもエストニアの電子政府のシステムが利用可能になりました。国民人口を急激に増やすことは難しいことですが、電子居住権があれば仮想であっても人口を増やすことができますし、外国人が国外から企業の設立・運営、納税手続等を直接行うことで事業の効率化やコスト削減の効果があるとされています。例えば、日本にいながらでもエストニアに会社を作って運営することができ、さらにはEUの加盟国として行政のサービスを受けることです。ちなみに会社設立の手続きも電子化されており、平均18分で設立できるのだとか。

各行政機関のデータベースは相互にリンクされており、オンラインで個人の情報が閲覧可能。政府、病院、警察、学校などあらゆる場所で電子サービスが受けられますが、重複開発を避け情報が一極集中しないようにデータベースはそれぞれ分散化されています。そのデータベースを横断的に接続できるシステムが共通のシステム間連携基盤(X-Road)です。13年以上古いシステムは使わないとしているのも新旧システムの混在を防ぐため。

また、確定申告や会社設立もネット上で行えるほか、電子カルテや病院のオンライン予約に電子処方箋など、先進的な取り組みが積極的に進められ、税金の還付も95%が電子上で自動的に算出されるため徴収コストが最も低くなっています。学校や政府機関のブロードバンドアクセスはなんと普及率100パーセント。ワイヤレスネットワークがすべての国土に行き渡り、国民の88.4%の人が定期的にインターネットを使用しています。1991年ソ連から独立したエストニアは、人口が決して多くありません。そんな中で、全国民に平等な行政サービスを提供し国の成長進度を上げるために国が率先してITを活用してきたようです。

グローバルを目指すスタートアップシーン

エストニアは、起業家の成長促進を目的とした公的サポートシステム「財団法人Enterprise Estonia」で政府が積極的にスタートアップシーンをサポートしている国。

2016年末には400を超えるスタートアップ企業のうち約90%が非常に早い段階の試作、開発、または早期の発展がありました。エストニアのスタートアップ企業に雇用された人の数は急速に増加し、2016年末までに3,500人に達し、2015年末に比べると1,000人増加しています。

冒頭にも書きましたが、オンライン通話・メッセージアプリとして有名な「Skype」が開発されたのもエストニアです。マイクロソフトに買収された後も、開発の一部はエストニアで行われています。

リモートチームの共同作業を円滑にするオンラインホワイトボードサービス「Deekit」や、住宅費に治安、教育の質などの様々な観点から、自分の生活と仕事に最適な都市を教えてくれる「Teleport」、圧倒的な低手数料で海外送金サービスを提供しているユニコーン企業「Transfer Wise」など、グローバール展開を掲げ、Skypeの元メンバーたちがスタートアップシーンをさらに盛り上げています。

エストニアの注目サービス

タクシー配車アプリ「Taxify」

エストニアのタリンで利用するタクシーは初乗り料金や1㎞あたり料金が車両ごとに違ったりします。そんな時はエストニアのスタートアップが開発した、Uberのように利用できるタクシー配車アプリ「Taxify」が便利。

自分の現在地周辺の乗車可能なタクシーが一覧と、車種、運転手の評価、料金が表示されます。お願いしたい車を選んだら、GPSの現在地まで数分で車が来てくれるという流れで、支払いは登録したクレジットカード行われます。ちなみに、Taxifyはタクシーの運転手のみしか運転手登録ができません。エストニアを中心に、メキシコなどでも展開をしています。

駐車場のシェアリング「Barking」

タリンの人口が約42万であるのに対して駐車スペースが1万5,000台分しか無く、駐車料金はヨーロッパで最も高額だと言われていました。そうした問題を解決するために、2015年に作られたのが「Barking」。使用されていない個人や企業所有の駐車スペースをドライバーに貸し出すサービスで、モバイルアプリを通して駐車場の検索、電子ゲートの操作、支払いが全て行えます。
有休スペースの有効活用と駐車料金の値下げを目的として、これまでに新たに5,000台分の駐車スペースを創出し、市民の駐車コストを合計15万ユーロ節約してくれました。

ロボが配達「Starship technologies」

日本でも問題になっている物流業界の深刻な人手不足。もしかしたらロボットという新たな手段で解決へと導いてくれるかもしれません。
2014年に創業したスタートアップ企業Starship technologiesは、自走式小型宅配ロボットの開発をしています。この宅配ロボットが、ラストワンマイルを解決するのではとデリバリーロボットの「Star ship」は世界的な注目を集めているのです。
このころんとした見た目のデリバリーロボットは、積荷サイズが全長約41cm、幅約34cm、高さ約33cm。6km/h(最高16km/h)で歩道を走り、半径3マイル(約4.8キロメートル)以内の目的地へ小包や食料品を自動で配送します。
Starship Technologiesによると、ロンドン中心部の配送コストは最大で1回12ポンド(約1,620円)かかるところ、同社のロボットを使えば1回1ポンド(135円)まで削減できるのだとか。
物流業界において、コスト面や人材確保の問題を解決していくのは、このようなロボットなのかもしれませんね。

国境なき国家を−−さらに進化するデジタル国家エストニア

2006年〜2016年に渡って大統領を務めたトーマス・ヘンドリク・イルベス氏は元エンジニア。13歳からプログラミングを学んだ同氏は、エストニアが成長力を上げるべく、コンピューターとネットワークインフラを教育として学び、国内全土に広げるよう、プロジェクトを立ち上げて現在の体制を作ってきたという背景があります。

2017年、エストニアは「国境なきデジタルバンキング」を導入すると発表。これにより、遠方にいる電子居住者たちはエストニアに訪れることなく、オンラインで銀行口座を開いたり、企業を立ち上げることがさらに簡単になりました。国境を越え、さらに先進的な取り組みへ果敢にチャレンジするエストニア。

ほとんどの行政サービスがデジタル化されてきましたが、100%デジタル化に向けて、今後は医療やまだデジタル化が進んでいない産業の革新を進めていくと言います。ますます飛躍する小さな国の展開に私たちは目が離せません。

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