燃料電池自動車のエネルギー源「燃料電池」とは?

燃料電池自動車のエネルギー源「燃料電池」とは?

テレビCMなどで、水素により快適に走行している燃料電池自動車(以下:FCV)の姿を目にしたことがある方も多いと思います。

「ガソリンを使わない」「二酸化炭素を排出しない」「生成されるのは水だけ」とメリットが多いように感じられるエネルギーシステムですが、電気自動車(以下:EV)よりも知名度が低く普及が進んでいないのが現状です。

国内のFCV販売戦略は、東京オリンピックが始まる2021年を目標にして、普及の活性化を推し進めようとしています。

トヨタ、ホンダといった一流の自動車メーカーがすでに開発に着手しているため、近年では水素燃料を供給する”水素ステーション”を設置する場所が増えており、都内でもすでに10店舗以上を構えています。今後も増加する傾向にあるので、2020年頃には地方の各所で水素燃料を気軽に利用できるかもしれません。

では、未来のエネルギーシステムである「燃料電池」について紹介していきます。

燃料電池の仕組みや特徴とは?

燃料電池とは水素と酸素を反応させて電気を取り出す発電装置のことです。

「電池」という名前が付いているため、一般に普及している乾電池などを想像されるかもしれませんが、燃料電池は水素というエネルギー物質を利用した「発電する」装置なので、容量に制限がなく電気を安定的に取り出すことができます。

一般的な電池の発電方法

従来の発電装置では回転による”運動エネルギー”を利用して電気を取り出す仕組みを採用しています。火力発電であれば石油などの燃料を燃やし、タービン(羽根車)を回して電気を発生させます。

回転の原理は燃焼の際に発生するガスで回すものや、水を沸騰させ水蒸気で回すものが一般的です。同じように風力発電も水力発電も、この回転による運動エネルギーを利用して電気を取り出しています。

何故回転による運動エネルギーが電気を生み出すのか? という疑問ですが、こちらは小学生の頃に理科の授業などで実験した方もいるかもしれませんが、電線を渦巻き状にしたコイルに対して磁石を通過、あるいは回転させると電流が発生します。

いわゆる「電磁誘導」を利用した一般的な発電方法で、ほとんどの巨大発電装置はこの電磁誘導の原理を利用して電気を取り出しています。

…しかし、燃料電池の発電方法はまったく違うのです。

燃料電池の発電方法

燃料電池とは水素燃料の持つ”化学エネルギー”を直接電気に変換するものです。

こちらも小学生の頃に実験された方も多いかもしれませんが、水などの液体に2つの電極(陽極と陰極)を接触させて電圧を加えると化学反応が起こります。扱う液体が水の場合、陽極には”酸素”が発生し、陰極からは”水素”が発生します。いわゆる「水の電気分解」の仕組みです。

もうお気付きかもしれませんが、燃料電池はこの化学反応を「逆」利用して電気を発生させています。水素と酸素を装置の内部で反応させることにより、発生した電気エネルギーを取り出して活用しているのです。

燃料電池はクリーンなエネルギーシステム

もちろん、反応後に生成されるものは”水”だけ。実際には高温の状態で生成されるため、排出するのは水蒸気か温水となります。ガソリン自動車のように、燃焼後の排出ガスには地球温暖化に影響を及ぼす二酸化炭素だけでなく、一酸化炭素などの有害物質も含まれますので、水だけしか排出しない燃料電池がいかにクリーンなエネルギーシステムであるか理解できると思います。

また、火力発電などの発電装置では、電気エネルギーを取り出す工程まで達する間、燃焼による損失や回転による損失など様々な「エネルギー損失」の問題が浮き彫りとなります。

反対に、燃料電池の場合は水素燃料の化学反応から電気エネルギーの取り出しまでストレートなため、火力発電のようなエネルギー損失を気にすることはありません。無駄なプロセスを強いられないため、非常に効率的に電気を得ることができます。

Photo credit: California Air Resources Board via Visualhunt.com / CC BY

燃料電池のメリットとデメリットとは

究極のエネルギーシステムとして期待されている燃料電池ですが、メリットもある一方でデメリットも存在します。活用法と課題を比較することにより、今後の改善点が見えてくるかもしれません。

燃料電池のメリットと活用法

安定的に使用できる

乾電池のように使い捨てではなく、水素と酸素を送れば安定的に活用できます。ただし、燃料電池自体は寿命があるため注意が必要です。

発電の効率が高い

燃料電池は化学反応を利用して電気エネルギーに変換します。燃料の燃焼や回転系の装置を回すなどのプロセスを省略するため、非常に効率的で作業工程による損失も少ないです。

クリーン

水素と酸素が反応して水が生成されるだけなので、環境にとても優しい。

排熱利用もできる

燃料電池は水素と酸素が反応する際に高温を発します。この時に発生した熱を再利用して発電や暖房、給湯などに活用できるとのことです。この排熱を再利用するシステムのことを「コージェネレーションシステム」と呼んでいます。

騒音が発生しない

燃料電池にはトルクを発生させる装置(エンジンやタービン)などが必要ありません。このためほとんど騒音が発生せず、自動車に搭載すれば非常に静かな運転を楽しむことができます。

Photo credit: pestoverde

燃料電池のデメリットと課題

高額なコスト

大手家電メーカーでは家庭用燃料電池を販売していますが、現在の段階では平均で200万円以上するため、一般家庭の普及にはまだまだハードルが高い状態です。発売当初は300万円以上がほとんどでしたが、年々低価格化が進んでいるため大手家電メーカーの開発力に期待したいところ…。

また、FCV車の価格もトヨタの「MIRAI」で720万円以上、ホンダの「CLARITY FUEL CELL」で760万円以上なので、現状では購入する方も富裕層が中心となりそうです。
※ただし、補助金などの制度(200万円ほど支給)を利用すれば価格は500万円前後に下がる可能性があります。

MIRAI – トヨタ MIRAI | トヨタ自動車WEBサイト
クラリティ FUEL CELL | Honda

寿命が7~8年ほど

燃料電池にも寿命は存在します。平均的に7~8年ほどで効率が大幅に落ちてしまうそうです。

一般の家庭や自動車用に使用されている燃料電池は「固体高分子形燃料電池」と呼ばれていますが、こちらは固体高分子膜を電解質として用いる発電装置のことで、触媒に”白金”を使用しています。

この白金が高額コストの元凶であり、装置の寿命にも影響するため、各研究所では白金の使用量を抑えながら有効活用する研究が進められているそうです。また、白金の代替触媒としてコバルトやニッケルを用いた燃料電池の開発も行われています。

水素を製造する時に二酸化炭素が発生する

燃料電池自体は非常にクリーンなシステムとして注目を集めているのですが、水素を製造する工程にはまだまだ改善の余地があります。それは現在の方法では、水素を製造する際に二酸化炭素が発生してしまうためです。

水素を製造することを「改質」と呼んでいますが、この改質の方法で最もポピュラーなのが「水蒸気改質」です。

水蒸気改質は大きな吸熱反応でもあるため、700~1100℃ほどの高温を必要とします。大量の燃料(天然ガスやLPGなど)と熱エネルギーを消費するため、結果として膨大な二酸化炭素や窒素酸化物を排出してしまっているのです。

日本でもこの課題に対して各大手メーカーが積極的に取り組み、ガスを発生させない水素製造法の研究が行われています。実際にドイツでは二酸化炭素フリーの風力発電による水素を製造するプロジェクトが進んでおり、これらの国から輸入する選択も考えられているとのことです。

何故FCVの普及は進まないのか?

FCVの普及が進まない原因は、まず高額な設定価格にあります。基本価格は700万円以上となり、補助金などの制度を利用しても500万円以上を支払う必要があります。500万円以上ともなればハイグレードな高級車が購入できる価格です。

車種も限られてしまうため、デザインの選択肢が少ないのもデメリットの一つ。車種が少ないEVも同じ立場ではありますが、こちらはFCVよりも遥かに低価格化が進み、なおかつ補助金などの制度を利用すれば200万円台前半で購入が可能なため、ファーストカーだけでなくセカンドカーとしても十分活用できるメリットがあります。

また、水素燃料を供給する水素ステーションの少なさもFCV普及のネックとなっています。EVに対応した充電スタンドは全国のガソリンスタンドに設置が進みつつありますが、水素ステーションは施設の建設コストが高額となるため、全国的な普及には至っていない状態です。

水素を貯蔵する方法にも問題点があります。水素は分子が非常に小さいため、少しの隙間があるとすぐに外へ漏れてしまいます。貯蔵する蓄圧器も技術が進化したことで、高耐久・高密閉な状態で水素を保存することができますが、水素は金属に入り込んで強度を弱めてしまう性質があるため、蓄圧器に使用する金属素材も高額になる可能性も。

使用する蓄圧器は高圧にも耐えなければなりません。水素自体は密度の低い気体なので、蓄圧器に詰め込むために圧縮する必要があります。このため、内部は400気圧以上と高圧になり、現在では700気圧に耐える蓄圧器も開発されているそうです。この蓄圧器も開発途上の段階なので、全国的な普及が見込めるコストダウンに至るには、まだまだ先の話かもしれません。

水素ステーションについて

水素ステーション

Photo credit: pixelfreestyle

水素ステーションは「オンサイト型」「オフサイト型」「移動式ステーション型」の3つのタイプに分かれます。

オンサイト型は都市ガス(天然ガス)やLPG(プロパンガス)などを原料にして水素を製造する装置が設置されています。水素製造装置(改質器)、圧縮機、蓄圧器、プレクーラー、ディスペンサーと設備投資が必要ですが、原料さえあればいつでも水素を取り出せるため便利です。また、天然ガスなどの原料も貯蔵が容易というメリットがありますが、改質(水素を製造)する工程が必要となりますので、システムの立ち上げに時間を要する問題があります。

一方でオフサイト型は、近くの製油所や工業プラントなどで大量に製造されている水素の一部を運んでくる方式を選んでいます。ガソリンスタンドと同じ要領なので、水素製造装置は必要ありません。オンサイトと比べると「水素を安全に運ぶ」という手間が掛かりますが、近くの工場が水素を大量製造していれば、それだけ安価に手に入れることができるため、ステーションを運営している側にとってのメリットは大きいです。

移動式ステーションでは、大型トレーラーに「水素供給設備」を積んだ方式のステーションです。水素ステーションがそのまま移動するタイプなので、トレーラーが移動する場所さえ覚えておけば、すぐその場で水素燃料が手に入ります。全国のステーション普及率が低い今の時期には、設置コストも安価で済み柔軟な対応ができるため、メリットの大きいシステムです。

水素ステーションの仕組みについて詳しく知りたいという方は、「水素エネルギーナビ」というサイトがとても丁寧に解説をしているので、是非チェックしてみてください。

燃料電池のこれから

自動車業界での活躍が見込まれている燃料電池ですが、他の製品にも活用される可能性を秘めています。燃料電池の特許技術は、すでにトヨタが無償開放しているので各社が自由に研究することができる状態です。そして、最も活用が期待されている分野が、携帯電話やパソコンに使用されているバッテリーとの併用。

現在では、燃料電池が内蔵したカートリッジをUSBに挿入して電気を供給するという方式を取っており、使い切るとそのカートリッジを廃棄する必要があります。この「カートリッジタイプ」では従来の充電池や乾電池とそれほど変わりがないため、今のところ目新しいところはなく利点は少ないように見えます。

しかし、今後技術が進化すれば新しい形式が生み出される可能性があります。カートリッジタイプではなく、直接原料を入れて発電する装置のことです。すでにドイツの会社ではライター用のガスなどで電気を発生させる小型燃料電池を開発しているので、技術が進化すれば電気容量の豊富な「持ち運べる」燃料電池が誕生するかもしれません。

燃料電池の世界はまだまだ進化の途中といった段階です。日本での本格的な普及は先の話になりそうですが、そのクリーンな性能から開発に力を入れている国も少なくありません。改善点も多く競争の激しい技術分野ですが、日本の大手メーカーの今後に注目ですね。

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