欧米とは違う?日本製コネクテッドカーのカラパゴス化

欧米とは違う?日本製コネクテッドカーのカラパゴス化

かつて日本の携帯電話市場は、世界的に見れば異常なほど高性能・多機能化したことによって国際的な市場とあまりにも異なる進化を歩み、結果的にスマホ市場に乗り遅れたガラパゴスケータイ「ガラケー」という言葉を生み出しました。

そして今、自動車とITを掛け合わせた「コネクテッドカー」の分野においても、このガラパゴス化が危惧されています。

ガラパゴス工業製品の代表「ガラケー」

Photo credit: Stuart Frisby

南米エクアドル共和国の沖合にある、ガラパゴス諸島。これまで一度も大陸と陸続きになったことがないと言われる島で、生態系などが独自の進化を遂げたことで知られています。

そんなガラバゴス諸島の特徴をもとに、工業製品などの世界でも市場の特異性から国際的には異質な進化を遂げたものを、日本では「ガラパゴス〇〇」と呼び、ガラケーはその代表格です。

ガラケーは正確には「フィーチャー・フォン」と呼ばれる高機能携帯電話で、「携帯電話」の枠を超えた小型モバイル端末として異常な高性能・多機能化を果たしました。しかし「電話」として考えた場合には不要な機能が多く高価なため、世界的に少数派だったのに対し、日本では販売奨励金がバラまかれて急速に普及。

その結果、日本がフィーチャー・フォンの主要市場となって電機メーカー各社が「日本国内向け限定仕様のフィーチャー・フォン」を作り続け、日本は携帯電話におけるガラパゴスとなったのです。

その間にiPhoneやBrackBerryなど初期のスマホが登場、フューチャー・フォンを駆逐していきます。

Androidの登場により低価格スマホも現実になったところで、ようやく日本市場が世界の流れから取り残されていることに気づき、ガラパゴスケータイ「ガラケー」という言葉が生まれたのでした。

自動車でもしばしば起きるガラパゴス化

Photo credit: Ben Crowe

実は日本市場、あるいは日本の国民性というのは世界的に見るとかなり特異なようで、携帯電話以外でもしばしば「ガラパゴス化」が起きます。自動車業界もそのひとつで、日本に住んでいる限りそうそう意識することはないのですが、ここまでかなり異常な進化を遂げています。

70年代中盤までは欧米の模倣や、それを参考に日本の道路事情に合わせた自動車が多く、日本特有の車はあまり誕生していません。

しばしば軽自動車が日本特有のように語られることがありますが、実際には欧州でマイクロカー、バブルカー、あるいはキャビンスクーターと呼ばれる簡素な超小型車が存在しています。それは現在でもクワドリシクルと呼ばれるフランスの超小型車など、日本の軽自動車と同じように「自動車らしく」進化していきましたので、軽自動車は意外と日本独自のものとは言えないのです。

違いといえば、普通車並の動力性能や高速道路の走行性能など、高性能化が進んだことですが、これは普通車の進化と同時に起きていますから、軽自動車だけではなく、日本車全体に共通する現象と言えます。

4WDスポーツ車を誰もが買えてどこでも見られる国

それでは日本車で何がガラパゴス化かというと、まず70年代後半にターボチャージャーが登場すると、大型車から軽自動車まであらゆる車にターボ車が存在する時期がありました。

さらに、80年代後半から4WDがヒットすると、あらゆる車に4WDが設定され、当時はRV(レクリエーショナル・ビークル)と呼ばれていた現在のSUVが、あらゆる車種に設定されます。

90年代には4WDとターボを両方備えた車が登場しますが、世界的には「4WDターボのスポーツセダンやスポーツクーペ」とは高級スポーツモデルを指していました。

日本のように4WDスポーツ車を誰もが買えてどこでも見られる国というのは、かなり特異だったのです。

なぜ「ガラパゴス化」が生じるのか

Photo credit: Matias Tukiainen

ガラケーにしろ、自動車にしろ、なぜ日本では「ガラパゴス化」が、それも極端な形で生じるのでしょうか?以下の説明が端的でわかりやすいです。

ガラパゴス化のメリットは、非常にニッチな市場に対して高機能かつ満足度の高い商品を開発できることです。デコメールや絵文字、ワンセグ・メガピクセルカメラ・防水機能などガラケー時代に登場した多くの機能・サービスは、ガラパゴス化の結晶とも言える物です。(とはサーチ「ガラパゴス化とは?」より)

これは携帯電話の例ですが、自動車でも同じことが言えるでしょう。

4WDターボ車は、湿度が高く雨や湿り気が多く、高温から低温まで四季によって異なる気温差など、ある意味厳しい自然環境の宝庫とも言え、さらに国土の大半が山がちでアップダウンが激しい日本という市場にはピタリとマッチしていました。

つまり、「日本市場で日本にピッタリと合う製品やサービスを追求していったら、ガラパゴス化していた」ということになります。

ガラパゴス化が通用しなくなった日本

Photo credit: N i c o l a

日本が世界屈指の有力な市場であったうちは、ガラパゴス化していても良かったのですが、最近はそれが許されなくなりました。前述の「とはサーチ」ではガラパゴス化のデメリットを、わかりやすくこう紹介しています。

一方、ガラパゴス化にはデメリットも指摘されています。それは、国際市場における価格競争力の低下です。世界的な標準化が進むにつれてスケールメリットを活かした安価な製品が登場しシェアを拡大させます。ガラパゴス化が進んだ日本の製品は高機能ですがその分価格も高く、特に中国やアジアなど平均所得の低い市場ではほとんど売れません。

さらに、日本も今後、少子化・人口減少の流れで市場が縮小していく可能性が高く、国内需要のみに頼った戦略では生き残りはより一層厳しくなることが予想されます。日本のメーカーが生き残るためには国際競争力を高めた商品を開発しグローバリゼーションを推し進めることが必要不可欠だと言えます。

つまり、少子高齢化社会で活力を失いつつある日本はもはや有力な市場ではなく、他の市場でスタンダードとなった製品には価格面で勝てません。活力を失いつつある市場では製品の進化も止まるため、やがて性能面でも勝てなくなる可能性もあります。

実際に、多くのガラケーはこうして海外のスマホに駆逐されていきました。(残っているものもありますが)

自動車も、気が付けば「日本国内専用車種」あるいは日本市場を最優先した車は、今や軽自動車を除けばあまり作られていません。年々、「何でこのメーカーは海外受けする車ばかり作るのだろう?」と疑問に思う人もいるかと思いますが、今後日本という市場の旨味が減っていくのであれば、それは仕方がないことでしょう。

コネクテッドカーにも文化の相違によるガラパゴス化の波が

自動車のIT化が進む上で登場する「コネクテッドカー」というキーワードでも、現在明確なガラパゴス化が指摘されています。そもそもコネクテッドカーの出発点とその後の進化が、欧米と日本では異なるという指摘です。

欧米での出発点と進化

欧米でのコネクテッドカーの出発点とこれまでの進化をざっと紹介します。

  • 事故や故障の際の迅速な救援を求めるために登場。
  • カーナビアプリや地図情報などを提供
  • 長距離移動が多いため、車内での時間の過ごし方が大事
  • 同乗者を退屈させないため、さまざまなコンテンツを準備
  • 同様に、自動車そのものをWi-FIスポット化して、タブレットなどIT機器を利用可能にする

日本での出発点と進化

一方の日本におけるコネクテッドカーにまつわる状況は以下のとおりです。

  • 以前から詳細な地図情報がほぼ全国で整備済
  • 地図情報を活かし、事故や故障の際の救援はJAFなどロードサービスが発達済
  • 同様に世界でいちはやくカーナビが登場し、急速に普及
  • 短距離でも渋滞を回避するなど迅速、正確に移動できる事が大事
  • 道路交通情報や渋滞情報、抜け道情報などが重要視され、VICS(道路交通情報通信システム)などが発達
  • 高機能化してAV機器の一部でもあるカーナビにより、TV視聴やDVD、BD視聴などのコンテンツも普及済

大きな違いはどこか?

  • 元から地図情報が充実している日本では、コネクテッドカーにそれを求める意義が小さく、高機能カーナビの欧米では逆に需要が旺盛。
  • カーナビを駆使して目的地に着く事が重要な日本では車が「移動手段」なのに対し、欧米では長い時間を過ごす「生活空間」。

このように、サービスの進化の歴史や自動車文化の背景が異なるため、コネクテッドカーのガラパゴス化も避けられないのではないかという見方があるのです。

カーナビ中心の日本コネクテッドカー市場

Photo credit: Mic

日本でもPND(小型のカーナビ)がスマートフォンアプリで置き換えられる傾向があるなど、一部のユーザーの間では「欧米型」とも呼べる自動車文化が台頭してきてはいます。

しかし、現実には販売される新車のほとんどには純正カーナビが装着されており、そのディスプレイを使ってバックモニターやインフォメーションディスプレイとしての活用、TVや映像メディアの視聴にと「オールインワン」な使い方をされているのが実情です。

カーナビが必要な時というのは目的地までの経路を知りたい時であり、それ以外の用事でカーナビで済まないものはスマートフォンで補助すれば解決します。

そうなると、日本ではコネクテッドカーであることを商品の魅力として訴求しにくく、結果的にコネクテッドカーの普及が遅れているのではないか。いや、既に遅れているという意見もあります。

ガラパゴス化から抜け出すキッカケはどこにある?

保険会社やカーリース会社を中心に、カメラやセンサーを使った安全運転指導や事故時の迅速かつキメ細かい対応という付加価値を付けた製品が販売されてはいます。しかし、それを除けば日本国内において、具体的に「コネクテッドカー」を売りにした自動車、あるいは周辺機器の販売というのはまだまだ本格化していません。

いわば高機能カーナビとそれを使って交通情報センターやメーカーのサービスセンサーに接続するという形で、日本独自のコネクテッドカーが実現されてしまっているのが現状です。

ガラケーのように、これまで他の分野では過去と同様、海外発のサービスが登場することで徐々に国内のサービスにも変化の波が訪れてきました。この流れがこれから自動車においてもくるのかもしれません。

具体的には、国産車メーカーが日本市場向けだけのために純正カーナビを装着し続ける事ができなくなり、欧米型のコネクテッドカー用車載機を搭載する日。つまり、現在よりレベルの高い運転支援システムや自動運転システムが登場し、日本仕様も海外仕様と統一された地図データを使うようになり、現在の高機能カーナビがガラケーのようにその役目を終える日がくるのではないかということです。

海外発のコネクテッドカーが出回りはじめるあたりから、日本の新車開発にも影響を及ぼし始めると考えるのであれば、今後2〜3年というスパンでもそれなりの変化は見られる可能性はあると思います。