インテル、自動運転車プロジェクトに本腰を入れる
インテルが自動車ショーでこうした発表を行うというのも、時代の流れというべきかもしれません。
これまで半導体メーカーとして数々のコンピューターやサーバー用のCPUチップセットを開発、名声を欲しいままにしてきたインテルが、CESのような消費者向けエレクトロニクスの祭典ではなく、自動車の祭典で重要な発表を行ったのです。
これはインテルが既に頭打ちとなっているパソコンやスマートフォンなどの端末ではなく、自動車産業でこれから大変革を起こす自動運転車と、それを使った交通システムなどインフラ産業こそが、今後の飛躍の鍵と捉えている証拠でもあります。
今後自動車が自動運転車となる上でAI(人工知能)が大量のデータを超高速通信でやり取りをおこなうことになりますが、Intel CEOのBrian Krzanichによると1台の自動車から1日に生成されるデータは4テラバイト以上になるとのこと。大量のデータを処理することも、通信インフラ上を流すことも、全てが空前の大プロジェクトになるでしょう。
これら全てを供給、実行する能力をインテルは持っており、NVIDIAのような自動運転用AIで急進しているチップセットメーカーや、コネクテッドカーのインフラを担う通信サービス業者に対抗、あるいは協業をアピールしていこうという狙いがあると見られています。
そのため、具体的な動きとして同社はドイツのBMWやイスラエルのモービルアイと提携を決めていますが、その目標は5年後を目処とした完全自動運転車の実現です。今回の2年で2億5,000万ドル(約283億円)の投資は、初期の土台を作るためのステップに過ぎないとも言えるでしょう。
これからインテルがパートナーと成し遂げようとしていることを考えれば、最終的にはケタ違いの、より大規模投資が待っていると予想されます。
当面の目標はBMW車の全自動運転
2016年11月に大規模投資の発表を行ったのに先立ち同年7月、既に同社は重要な発表を行っていました。
上述した通りドイツの自動車メーカー大手BMW、そしてイスラエルの自動運転車関連部品の開発・製造会社であるモービルアイと共同で、2021年に自動運転車を実現すると表明したのです。
それも、既に実現しているレベル2自動運転(ハンドルに手を添えたドライバーをサポートして車を動かす運転支援)でも、実現間近でBMWでもアウトバーンでの実験走行を繰り返しているレベル3自動運転(ハンドルを話して運転は車に任せてもいいが、ドライバーは運転席で待機が必要)でもなく、その上のレベル4やレベル5が目標です。
もちろん過程としてレベル3のクリアは必須で、しかもアウトバーンのような高速道路ではなく、一般道でも実現の必要があります。
その先にあるのが、ドライバーが一切の操作を行わずとも完全自動運転を行うレベル4で、さらにはそもそもドライバーが不要なロボットカー、レベル5自動運転までをも見据えているのです。
これをインテルはBMWとモービルアイとの共同で、2021年までに実現するとしています。
インテルの持つ強みをさらに強化
自動運転の実現には、大きく分けて3つのシステムが必要です。
- 各種センサー情報と位置情報を処理し、ハンドルやアクセル、ブレーキを動かす、ドライバーの代わりとなるコンピューター(AI)
- 車とサーバーの間で安定した大容量超高速通信を可能にする次世代通信インフラ
- 膨大な情報を処理して学習機能をサポートし、車から入力された情報から高精度3D地図更新を行うクラウドサーバー
インテルの強みとは、この3つ全てが同社のテリトリーとも言うべき、得意分野であることです。
- 車載コンピューター用プロセッサは既に自動車メーカーに提供しており、自動車用部品として必要なノウハウを既に持っていること。
- 5G通信(次世代通信インフラ)については本格的な実用化は2020年代前半と見られてはいるものの、同社は主力開発プレイヤーとして先行しており、実験段階から深く関わるポジションにあること。
- サーバーについては同社のサーバー用プロセッサ「Xeon(ジーオン)」で圧倒的なシェアを誇っており、自動運転車のために必要となる膨大なサーバー群に対して、必要なプロセッサの供給能力を持ち、現実的な価格でサーバーを提供できること。
個々においては優れたライバルが存在しますが、始めから終わりまで全てのソリューションを提供できる「E to E」(End to End)ビジネスが可能なのが、同社最大の強みと言えます。
ある意味で、そうした強みを自動運転車向けに強化する「2年間で2億5,000万ドル」という数字は、インテルならではの「とても安上がりな投資」なのかもしれません。
1日1台4TB!情報の洪水をさばけ!
もっとも、インテルをもってしても大規模投資を要求されるほど、自動運転のハードルは高く厚くなっています。
その最大の課題が膨大なデータ量です。
レーダーや超音波ソナー、カメラによる映像など各種センサーから送られてくるデータは車を安全に走らせるだけではなく、リアルタイムで高精度な3D地図データを構築し、フィードバックするためには不可欠。そして走行状況による路面や交通状況などのデータもそうですし、車内のドライバーをはじめとする乗員のデータも必要でしょう。
これらはセンサーの性能が向上し、数が増えて正確なデータを送れるようになればなるほど膨大になります。
車載コンピューターのAIはその全てを送らなくても済むよう、保存されているキャッシュの中から重複するデータは送らないようにしたり、不要なデータはカットするような処理を求められますから、データの増加はAIの発展との競争です。
それらがうまくいったとしても、1日に1台のデータが送信するデータは4TBもの大容量になるだろうと言われています。全部で4TBではなく、たった1台での数字ですから、自動運転車が街中を走るようになれば、天文学的数字に達するのではないでしょうか。
この情報の洪水を処理するための車とサーバー側双方のプロセッサ。そして通信インフラを整備しなくてはなりませんが、それをあと5年で達成するというのですから、インテルの自信も相当なものです。
巨人インテルに乗り換えたモービルアイ
ところで、新しくインテルとタッグを組んでいる企業の1つ、イスラエルのモービルアイと言えば、テスラのレベル2自動運転システム「オートパイロット」の中核部分を供給してきたメーカーです。
しかしテスラは将来的にレベル5自動運転まで対応可能であるという「オートパイロット2.0」を自社開発することにして、モービルアイとの提携解消を決めてしまいました。
その背景は明らかではありませんが、独立独歩の道を歩むテスラに決別し、日産など多様なメーカーに自動運転技術を売りながらインテルやBMWというビッグネームとも重要な提携を行っているモービルアイの姿からは、こうした「自動車業界再編の形」もあるのだということがわかります。
技術やサービスで独自路線を行くテスラのような例もあれば、インテルのような大手の動きに敏感に反応し、合流しようとする動きは今後も出てくるでしょう。
先に書いたように、インテルは技術的にも企業規模的にも非常に魅力的なパートナーですから、今後は「インテル陣営」のような自動運転車開発における、ひとつのメインストリームに発展していくかもしれません。