ドライバーの多くは自動運転車に不安を抱いている
今、世界中の自動車メーカーが、自動運転車の実用化に向けて実験や試験走行などを行っていますが、その一方でドライバーの大多数は「自動運転車は本当に安全なのか?」という不信感を抱いています。
日本のJAF(日本自動車連盟)に相当する組織である「アメリカ自動車協会」(AAA)が、自国のドライバーを対象にアンケートを実施したところ、およそ75%のドライバーが「人が運転する車よりも自動運転車の方が安全ではないかもしれない」と、自動運転車に乗るのは危険なことだと思っていることが分かったそうです。
それを受けてIntel交通ソリューション部 GMのエリオット・ガルベス氏は、一般人に自動運転車を利用してもらうためには「車と乗客(自動運転車に乗る人)との信頼関係の構築」をすることが重要であるとの見解を示しています。
具体的にはシートの周りに自動運転車が検知したさまざまな情報を表示させ、車がとる行動の根拠が分かるようにすることが、乗客の心理的ハードルを下げることに繋がるだろうと考えているのです。
自動運転化の普及拡大で車内エンターテイメントが大きなビジネスになる
そして自動運転車に対する心理的ハードルを下げるためにできるもうひとつの手段が、「車内エンターテイメントの充実化」です。
みなさんは飛行機に乗ったときに、機内でどのように過ごしていますか?多くの飛行機では乗客ひとりひとりに専用のモニターが用意されており、それを使って映画鑑賞をしたり、音楽やゲームを楽しんだりすることができるようになっていますが、その目的は乗客の退屈を紛らわせること以外にもうひとつあります。
フライト中の機内は常に揺れており、座席の居心地も高級なクラスを選ばない限り決して良いものとは言えません。そのため、乗客をそれらの要因から気を逸らさせるための道具が必要だったのです。
つまり飛行機のモニターには、乗客が飛行機を利用する上での心理的ハードルを下げる役割があり、それと同じように自動運転車でも車内エンターテイメントを充実させることが、乗客の不安を取り除くことに繋がるだろうと考えられています。
自動運転車の普及は、車内エンターテイメントを手掛ける企業にとっては、今後の大きなビジネスチャンスでもあるのです。
2016年に日本上陸!「Android Auto」と「Car Play」
そんななか、今年になって車内エンターテイメントの充実化に大きな貢献をしてくれるであろう、「Android Auto」と「Car Play」、ふたつの「IVI」(車載インフォテイメントシステム)が日本に上陸しました。
IVIとは、自動車内での「情報」と「娯楽」の提供をしてくれる車載システムのこと。
近年ではスマートフォンを車に接続して、マップ、ミュージック、音声通話といった運転のサポートや運転中の娯楽になるアプリを車載用ディスプレイで操作しながら利用するものが、その主流となっています。
Googleの「Android Auto」は、2016年7月13日より日本で提供を開始しています。
Googleによって開発されたプラットフォームである「Android」をベースとした車載機器用ソフトで、車載機の画面上でAndroidスマホのアプリを操作することができます。
Android Auto対応済の車種を販売している日本の自動車メーカーには、ホンダ、日産、マツダ、スバル、スズキなどがあります。
Appleの「Car Play」は、Android Auto よりも一足早い2016年春ごろに日本に上陸。
アップル社が開発したiPhoneをテレマティクス装置と連動させるシステムであり、車載ディスプレイを使ってiOSアプリケーションにアクセスすることができます。
公式ウェブサイトによると、すでに国外製のものを含む100以上の車種で使用可能になっているといいます。
現在の車内エンターテイメントの問題点
しかし車内エンターテイメントのレベルは、現時点では決して高いとはいえません。ドライバーが心地良くIVIを利用するためには、解決すべきいくつかの問題点があるからです。
標準化の欠如
車載エレクトロニクス機器をデザインしているのは、専門業者ではなく自動車メーカーです。加えてそれぞれのメーカーがデザインに対して異なった哲学を持っているため、同じ目的で造られた機器であるにも関わらず、操作性がまったく違うものとなっているのです。
テクノロジーの寿命(入れ替わりの早さ)
ひとつの自動車が構想の段階から製品化されるまでには、早くても3年、遅いと5年かかるといわれています。
そのため最新型の車に取り付けられているカーナビやステレオであっても、多くの場合は発売開始された時点で、すでに「最先端のもの」ではなくなってしまっているのです。
購入後すぐに新しいものと取り換えれば最新型の機器を使用することは可能ですが、それでは多くの金銭的、時間的コストがかかってしまいます。
通信料や通信速度の問題
「Android Auto」や「Car Play」はスマートフォンを使って接続をするわけですから、当然通信料がかかります。
もしカーナビアプリのような常に通信を行うアプリを使用すれば、データ通信量は相当なものになってしまうかもしれません。
ハンドルの代わりに置かれるエンタメ空間
もし自動運転車の普及が急激に拡大し、それに乗り慣れることで周りの状況が気にならなくなるようになれば、乗客は車内で過ごす時間をより有意義なものにしようと考えるようになります。
そのときにはハンドルやブレーキペダルの代わりに車内エンターテイメントを楽しむための機器が正面などに設置され、飛行機に乗ったときと同じように移動時間が「エンターテイメントコンテンツを消費する時間」へと変わるだろうと予想されています。つまり、今後10年20年のタイムスパンで車内のレイアウト自体が今の車とはガラリと変わってくる可能性もあるということですね。もちろん、ARやVRなどの技術も取り入れられていくでしょう。そういう意味で、ドライブや車内エンターテイメントは今後劇的に進化していく可能性がある領域と言えそうです。