IVI(In-Vehicle Infotainment)とは何か?

IVI(In-Vehicle Infotainment)とは何か?

車両の状態や周囲の道路状況など、車にまつわるデータを取得し、ネットワークを介して集積・分析することにより新たな価値を生み出す。そんな次世代の車、「コネクティッドカー」。自動運転技術が高レベル化するうえで、コネクティッドカーの普及は前提条件の1つとなりますが、市場が成長していく過程で重要視され始めた「IVI」というワードをみなさんはご存知でしょうか。この記事では、IVIとは何かを徹底解説します。

コネクティッドカー市場を牽引するIVIとは?

In-Vehicleを直訳すると「車載」、そして、Infotainment(インフォテインメント)は「情報(インフォメーション)+娯楽(エンターテインメント)」を意味する造語です。つまり、IVIとは車載したIT機器により、情報と娯楽の双方を提供するシステムのことを指します。

既存システムとの相違点

従来のデバイスからドライブ中に得られる情報と言えば、カーナビゲーションによる経路案内や、ラジオから流れてくる渋滞や事故などの道路交通状況に関するものが一般的です。また、娯楽要素としては、カーオーディオや車載DVD、TVチューナーなどが挙がりますが、最近ではタブレットを持ち込むなど、別のデバイスで情報を入手したり、音楽・映像などを楽しんだりしている方も多いでしょう。

一方、IVIシステムの利用範囲は車内だけにとどまらず、家庭・オフィスといった車外環境からのシームレスな接続や、他の外部機器との連携よって情報・娯楽を高度に融合させた、多岐にわたるサービスの提供が想定されています。ハンズフリー・ドライブが実用化され、自動車が単なる移動手段から「走るモバイル」へと進化を求められている今、各自動車メーカーは早期開発・市場投入を目指し、力を注いでいます。

IVIで何がどう変わっていく?~IVIの仕組みと搭載により実現する主な機能~

IVIシステムは、心臓部と言えるユーザーインターフェイスを軸に、ネットや他機器との接続で得た情報・娯楽コンテンツの「入力」と、適切なタイミングでの「出力」を複合的に行う仕組みで成り立っています。従来のシステムは入・出力操作をすべて人が担っていましたが、IVIシステムはデバイス自身の判断で行うことを目指し、開発が進められているのです。

ボタン・スイッチ・マイクなどを用いた、人によるインプット機能も従来通り利用しますが、将来的には、車載カメラや各センサで収集したデータをIVIシステムが分析し、車載装備から「自動出力する機能」を有するようになるのです。

たとえば、車内カメラがドライバーと乗客の身体的特徴を把握・分析し、もっとも適切な姿勢になるよう座席を自動調整したり、自動運転技術や安全運転支援システムと連動してハンドルや車速のセルフチェックをしたり、制御を行ったりすることも可能になるのです。

さらに、USB・Bluetooth・Wi-Fiで入手したユーザーの閲覧履歴データをもとに、IPTV・IPRADIO・VOD(ビデオオンデマンド)などをIVIシステムが自動でストリーミング・提供する機能も技術的に実現可能な段階に入っています。

また、既存のナビゲーションでは経路案内で「300m先○○(交差点名)を右折」とアナウンスされますが、交差点名がない交差点もありますし、小さな看板表記を確認するため走行中に視線を逸らすのは危険な行為です。一方、IVIシステムを搭載したカーナビでは、「300メートル先にある△銀行側へ左折」など、具体的な案内も可能になるほか、受信したメールの音声読み上げによる確認もできるようになります。

これらの機能は、ドライブを快適で楽しいものにするだけではなく、車載デバイスおよびスマホなどを操作しながらの運転、いわゆる「ながら運転」を起因とする交通事故の減少に、大きく寄与すると考えられるでしょう。

これからのコネクティッドカー市場はどうなる?

マーケティング調査会社大手(株)富士経済が、今年7月発表したプレスリリースによると、「ネットとつながる車」の新車販売台数は、2018年見込みで30%を超え2022年時点で50%弱、2035年には90%ほどに達すると予測されています。

そんな中、同社は現在主流であるスマホやタブレットなど、持ち運び可能なITモバイルを介した「連動型IVI」ではなく、車自身のデバイス化により常時接続可能な、「エンベデッド型IVI」を搭載するコネクティッドカーが、市場において大きく伸長すると分析。

さらにエリア別の進捗状況では、自動車メーカーがテレマティクス事業に積極的な動きを見せる、欧米・北米が一歩リードしており、近年市場が膨張傾向にある中国について、「2022年には世界最大の需要地になる」と指摘しています。

ただし、少子化や若者の車離れを起因とする、新車販売台数の低迷が顕著な日本については、国内メーカーが揃って自動運転レベル3の実現を目指している、「2020年初頭」にはピークを超えるとの見解を示しています。つまり、トヨタをはじめとする国内自動車メーカーは、レベル3相当の自動運転車をリリースする時点で、エンベデッド型IVIを搭載したコネクティッドカーの販売にこぎつけないと、世界市場で大きく後れを取ってしまう可能性が大きいということです。

反対に、多機能かつ高精度なIVIシステムが2020年までに完成し、搭載コネクティッドカーが公道を多く走行する状況を生み出すことができれば、日本は世界をリードするスマート・ドライブ先進国になる可能性も考えられるでしょう。

国内外・IVIの最新動向をまとめてみた

車内エンターテインメントである、ICE(In-Car Entertainment)システムに関しては、

  • フォード・・・「Ford Sync&My Ford Touch」
  • トヨタ・・・「Entune」
  • キャデラック・・・「CUE」
  • FCA・・・「Uconnect」

など、国内外のメーカーが独自システムを開発しています。しかし、これらの車内エンターテインメントシステムに対する法規制が、運転中のスマホや携帯電話使用ほど行われておらず、「ながら運転」を助長するという問題が新たに浮上しているのです。

この問題を解決するのも、IVIシステムに課せられた大きな使命であり、国内外では開発への動きがさらに強まっています。

ダイムラーAG IVIシステムにQt技術を採用

信頼性が高く、応答性に富んだユーザーインターフェースUIの開発で定評がある、The Qt Companyは2018年5月、同社のQt技術がダイムラーAG・メルセデスベンツのIVIシステム、「MBUX」に採用されたことを発表しました。

MBUXとは、自然言語対話型オンライン音声認識であり、「ハイ、メルセデス!」の呼びかけで起動し、通常会話のように話しかけるだけでエアコンや室内照明の操作などを自動に行える機能。Aクラスを皮切りに、順次搭載モデルがリリースされています。

安全運転への寄与や機能性だけではなく、エンターテインメント性も充実。たとえば「ピザが美味しいレストランを探して!」と言えば、AIがYelp!(海外の食べログ的なサービス)のレーティングにもとづき、候補となるレストランを数件リストアップ。続いて、「どこへ行きますか?」と反応が返ってくるので、「3番目のお店に案内して」と応答すれば自動的にカーナビが起動し、ガイダンスが始まるというような使い方も。このMBUXの中核を担う基盤として、Qt技術に白羽の矢が立ったのです。

同社で、エグゼクティブバイスプレジデントを務めているジュハペッカ・ニエミ氏は、

「多くの大手自動車メーカーや一次サプライヤーが、簡単なローエンドのソリューションからハイエンドモデルまで、自社IVIにQt技術を選んでいることを、心から嬉しく思います。」と感謝の意を示すとともに、ユーザーが期待する品質の最高水準を満たしたうえで、さらに一歩先を超えていくようなUIの開発に、自動車メーカーと取り組んでいきたい考えを表明しました。

ゲストOSに仮想動作環境を提供・管理する「Qualcomm」の次世代商品

半導体メーカーのQualcomm(クアルコム)は、毎年米国・ラスベガスで開催される世界最大のテクノロジイベント「CES 2019」に先立って実施した記者会見の席で、「Snapdragon Automotive Cockpit Platform」と名付けられた、最新の自動車向けIT製品を発表しました。

前年度の同イベントではデモカー展示で話題をさらい、既に多くの自動車メーカーからIVI向けに採用されている、「Snapdragon 820A」の次世代型商品にあたり、以下の3グレードを展開していくと明らかにしました。

  • Paramount・・・高い処理能力を必要とする「ハイエンドモデル向け」
  • Premiere・・・スタンダードな機能を有する「メインモデル向け」
  • Performance・・・リーズナブルな価格帯で提供される「エントリーモデル向け」

また、従来世代では対応していなかった仮想化アクセラレータ機能に対応しており、1つのSoCで複数OSのメモリ空間を分離して管理・運用する、「Hypervisor機能」の利用も可能となっています。

これにより娯楽要素はAndroidで、運転に関わる情報はRTOSやQNXなどのセキュアOSで運用といった具合に、1つのハードウェアで異なるユースケースを並列処理したり、複数機能の実装できたりする「高次元IVIシステム」の実現が近づいたのです。

サムスン製SoCがアウディの次世代IVIシステムに採用

2019年1月、韓国最大の家電・電子機器メーカーであるサムスンは、同社初の自動車向けプロセッサ「Exynos Auto V9」が、2021年以降販売予定のアウディ新型モデルに搭載される次世代IVIシステムに採用されたと発表しました。

これは、同社がこれまで提供してきたスマホ向けプロセッサーSoC「Exynos」をベースに、複数のディスプレイにコンテンツを表示する、高度なIVIシステム向けへと再設計されており、ドライバーや乗客を支援し、安全で楽しい車内体験を提供できるとしています。アウディのアーキテクチャ・プラットフォーム開発責任者のアルフォンス・ポンペラー氏は、「Exynos Auto V9が(搭載されれば)、将来の車載インフォテインメントを形成する、次世代プラットフォームを強化できる」と喜びをあらわにしました。

「没入型運転体験を提供する」と銘打たれた同商品には、強力なオクタコアCPUとトライクラスターGPUを組み込まれ、複数ディスプレイで複数のOSとデジタルコックピット機能を、同時かつシームレスにサポート可能であるとされています。

まとめ

今回紹介した事例の他にも、トヨタはすでにコネクティッドサービスの「T-Connect」を本格スタートしていますし、日産・三菱・ルノーアライアンスグループはMicrosoftと、ホンダはソフトバンクと提携し、IVIシステムの研究・開発体制を強化しています。

技術的にも法的にも、「完全自律運転」の実用化はまだ先の話になりますが、ドライバーが一切操作しなくとも運転に関わるあらゆる情報の入手と活用、映像・音楽コンテンツを楽しむことができる「スマートドライブ社会」は、遠からず到来すると考えています。

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