世界最速? 中国発の電気自動車メーカーNextEVの「EP9」とは

世界最速? 中国発の電気自動車メーカーNextEVの「EP9」とは

中国の新興EV(電気自動車)メーカー、NextEV。同社が市販車ブランドとして立ち上げた「NIO」から送り出されたスーパーEV「EP9」はまさに魂を震わせる存在といえるかもしれません。

何しろ絵に描いた餅ではなく、実際に走っているのです。それもニュルブルクリンク北コースでのEV最速記録を引っさげているのですから、決してハリボテではありません。

今回は注目を集めるNextEVという電気自動車メーカーについて紹介していきます。

先進的と言わざるをえない、中国のEV技術

数年前まで中国のモーターショーで中国のメーカーが展示しているクルマには「どこかで見たようなもの?」ばかりが目立っていました。

そのため「未だに中国は自動車産業で立ち遅れている」「日本の自動車メーカーより優れた製品を作れるはずがない」と考えていらっしゃるかたもいるのではないでしょうか。確かに中国の国産製品はどこかで見たようなものも多数存在しますが、決してそれだけではありません。

例えば世界初の量産型PHV(プラグインハイブリッドカー)を作って販売したのはどこかと言えば、中国のBYD(比亜迪汽車)という自動車メーカーでした。このBYDはそもそも世界屈指のリチウムイオンバッテリーのメーカーで、それゆえEVやPHVなど、充電式の自動車にとても力を入れています。

確かに他の華やかな車の中で、EVの販売台数が多かったわけではありませんしかし、その中でも着実に力をつけてきたメーカー、そして新たにチャレンジしようというメーカーもあり、その中で大きな花火を打ち上げたのが、今回紹介するNextEVのスーパーEV「NIO EP9」です。

あっという間に開発され、大記録を作ったEP9

NextEVという企業は2014年に上海を本拠として立ち上げられた新興EVベンチャーですが、市販車では「NIO」というブランドを使うことにしています。そのNIOのイメージリーダーとして、スーパーカーならぬ「スーパーEV」が開発されていることは以前から伝えられており、イラストも公開されていましたが、その一方で半信半疑の声も多かったのです。

通常、自動車は少量生産のスーパーカーでも数年かけて開発され、デザインが公開されても中身の無いハリボテであることもあります。姿形がわかって予想スペックが公表されても、走る姿はなかなか見られないこともよくありました。

そのため、2014年創業のNextEVが実際に車をお披露目できる日はいつになることか、そう思った人がいても不思議なことではありません。ですから、2016年秋にイギリスでNIO EP9の走る姿が目撃された時は、本当に驚きの声をもって迎えられました。

これだけの短期間に公道テストを行うだけでも大したものでしたが、直後にはドイツのニュルブルクリンクサーキット北コースに現れます。

ここは世界屈指の高難易度サーキットであり、世界中の自動車メーカーがテストに使うだけではなく、その性能をアピールするため「世界最速」を目指したタイムアタックでも頻繁に使われることで有名です。

そしてここでNIO EP9は「7分5秒120」という、EV世界最速記録を叩き出します。

これがどれだけすごいかと言えば、日本のスーパーカーである日産 GT-Rもレクサス LF-Aも全くかなわず、ポルシェ 918スパイダーや、ランボルギーニ アヴェンタドールSVなど特別なスーパーカーしかその上にいない、それほどの速さなのです。

自動車というより、SF映画を思わせるプロモーション

NextEVは新興ベンチャーとして多くの投資を集めているとはいえ、EP9を積極的にプロモーションに使っており、NIO公式サイトにアップされた動画には圧倒されます。

Circuit Paul Ricard from NIO on Vimeo.

EVから連想させる「風のごとく静かに駆け抜ける」というよりも、「嵐のごとくモーターの轟音とロードノイズをうならせながら駆け抜ける」ことを強調させるために、モーター音を積極的に挿入。その音は自動車のプロモーションというよりも、SF映画に登場する未来の乗り物が発する音そのものです。

これが演出による効果音では無いならば、EP9はかなりドライバーの闘争心を熱く刺激する、ホットなスーパーカーと言えるでしょう。

未来のスーパーカーというものが実在するならば、このようなマシンに違いない、そう思わせるだけでも、このNIO EP9を使ったプロモーションは大成功と言えます。しかもプロモーション動画で語られている通り、EP9は決してCGなどで描かれた未来予想図などではなく、現実に存在して荒れた路面を果敢に攻めているのです。

純粋に自動車メーカーとして、ここまで仕上げたのは賞賛に値するのではないでしょうか。

仮にEP9の全てが中国オリジナルでは無いとしても、単なる模倣の組み合わせで並のスーパーカーを蹴散らすようなタイムを出せるほど、ニュルブルクリンクサーキットは甘くはありません。

EP9のスペックで注目したい3つのポイント

さて、そのEP9のスペックを公式サイトから見ていくと、重要なポイントは、3点ほどに集約されます。

1. 最高出力1MW、馬力換算では1,360馬力に達するパワーユニット

これは4つのモーターを2つ1組にまとめ、軽量なカーボンモノコックフレームの前後、つまり車体左右中心軸に集約した上で、ドライブシャフトを通して4輪を駆動します。

もちろん4輪の駆動力は独立した制御が可能で、ブレーキの独立制御と合わせて、コーナリング時には挙動を乱すことなく吸い付くように走れます。そのため、高速コーナリング時には戦闘機並の横Gがかかるほどの高機動性を持つと説明されており、プロモーション動画でもそれを裏付けるシーンが多いです。

2. 優れた重量バランス

左右に分割搭載された脱着の容易なバッテリーなど重量物が全て前後輪の間(ホイールベース内)に搭載されたことで、非常に優れた重量バランスを実現しています。

3.F1マシンなみのダウンフォース(路面に車体を押し付ける力)

非常に優れた空力性能や可変式リヤウイングにより、F1マシンなみのダウンフォース(路面に車体を押し付ける力)を持っています。

このダウンフォース性能と優れた重量バランスは見逃せないところです。

通常、強力なダウンフォースとは「空気抵抗」にほかならないため、これに抗するため強力なパワーを必要とします。あるいは、日産 GT-Rのようにあえて重く作り自重で路面に押し付け、ダウンフォースに頼らない代わり空気抵抗の少なさを狙うか、どちらかです。

EP9はEVゆえに重いバッテリーを積んでいますから、ストレートや高速コーナーはダウンフォースで、低速コーナーはその重量で路面に吸い付き、4輪のモーター独立制御を駆使して合計1,360馬力を最大限に発揮しているのでしょう。

最高速度は313km/h、0-200km/加速7.1秒とどちらも「世界最速」とはいきませんが、特に加速は並のスーパーカーで叶うクルマはほとんどいません。

EVとしては45分の充電で最大走行距離は426kmに達しますが、スーパーカーで燃費を気にする人はそれほどいないでしょう。

今後は、まずテスラのモデルX対抗のSUVを開発?

Photo credit: Don McCullough

このスーパーEVですが、2016年11月22日に正式公開はされたものの、市販計画についてまだ具体的な話になっていません。

「1億円で6台ほどの限定販売」という不確実な情報もありますが、1億円オーバーのスーパーカーとして考えた場合、それほどの少量生産で終わるのは珍しくないでしょうから、現実に販売されてもその程度かもしれません。

「Automotive News」が12月3日に報じた記事によれば,2018年から2019年にかけ、テスラ モデルXに対抗するSUVモデルで、NIOの本格市販EV第1号を狙っていると言われています。フル充電時の走行距離が約530kmに達するほか、モデルX並の性能を備えた上で価格はトヨタの同クラス車並に抑えるそうです。

同クラスというとトヨタ車よりはレクサス RXあたりと考えると、最高56,495ドル(RX450h F SPORT 約666万円)となります。テスラのモデルXが88,000ドル、EVゆえの連邦税額控除などから実際には75,900ドルからになる事を考えると、NIOのSUVはずいぶん安くなりそうです。

いかに投資を集めて中国と米国で売るか

ここまで順調に進んできたNextEVとNIOブランドですが、勝負はこれからです。

テスラに対抗可能なEVメーカーとしてNIOブランドを育て上げるには、EP9によるスーパーEVのイメージも大事ですが、今後は生産能力、開発能力、販売能力を見せなければいけません。テスラも開発や販売はともかく、ネバダ州に建設中の巨大バッテリー工場、ギガファクトリーが本格稼働するまでは生産能力不足に悩まされている真っ最中です。

NextEVの今後のためには、投資家に実力を見せていくしかいでしょう。

NextEVは共同経営者として2015年に迎え入れたマーティン・リーチ氏(元欧州フォード社長などを歴任した実業家)を、2016年11月に病で失っています。自動車業界の中で多彩な経歴の持ち主であり、かつてマツダがフォード傘下だった時代には、商品開発本部長としてロータリーエンジンの継続に尽力したことで、日本でも知られていました。

豊富な経験と人脈はNextEVでも大きな力の源になっていたと思われますから、リーチ氏を失った影響が今後どのように出てくるかという懸念もあり、同社にとっては次の明るいニュースが待たれるところです。

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