保険業界に変革をもたらした OctoTelematics
OctoTelematics(以下:Octo)は、CEOであるファビオ・スビアンキ(Fabio Sbianchi)氏が2002年にイタリアで設立した会社です。自動車に関わる様々なデータを収集、分析し自動車業界や保険会社が抱える問題を解決するテレマティクスサービスを提供しています。
上述したテレマティクス保険もその1つです。この仕組みを活用することで自動車保険会社が運転中の情報データに基づいて保険料を試算することができるため、従来の自動車保険よりも正確に事故率を予測できると期待されています。(テレマティクス保険の成り立ちや仕組みについては、過去にも詳しく紹介しているのでそちらもご覧ください)
近年のOctoは、世界で最も有名な保険テレマティクス・プロバイダーとしての地位を確立し、60以上の保険パートナーと510万人のユーザーを抱えるまでに成長しました。テレマティクスサービスを提供する代表的な会社として、世界的にも注目を集める存在です。
テクノロジーを駆使した先進的な取り組みをいくつも行ってきたOctoですが、一例をあげると「気象データ」を活用したサービスがあります。同社ではドライバーの技術を把握するための研究が進められており、走行中のスピードやブレーキ回数、加減速の状況などをトータルに記録して評価を行うシステムを開発しています。これらの要因の中に「気象データ」を加えることで、天候の影響による道路状況を考慮した正確な運転技術の評価が可能となりました。
「天候って運転の技術に影響があるものなの?」と思われるかもしれませんが、事故リスクの予測精度を高める要素として、気象データはとても重要です。凍結や雨による路面の滑りやすさ、豪雨、雹、雪などの影響による視界の悪さなど、悪天候は交通安全に大きく影響します。アメリカの連邦道路管理局によると、2002年から2012年の間に起きた気象の影響による事故は、年平均で130万件ほど発生しているため、運転評価の判断材料としていかに気象データが重要か理解できるのではないでしょうか。
またOctoは独自のアルゴリズムを活用し、ドライバーの行動と連動して保険料を算出するモバイルアプリ「Octo U」を無料配布しています。
このOcto Uアプリは、GPSの位置情報システムを活用し、走行距離やスピード、ブレーキ、加減速の状況などを記録して、ドライバーの運転技術を総合的に評価。先にも述べた天候による影響や渋滞の状況なども加味して判断を行い、そのスコア値に適した自動車保険会社の見積もりを提示します。ドライバーはその中から自分に最も相応しい保険を選ぶことができるのです。
また、Octは保険会社側のオペレーションを効率化するためのサービスとして、事故時のデータを解析することで事故要因の特定や過失割合を決める際に役立つデータを提供したり、保険金請求管理プロセスを簡略化するようなものも提供しており、保険会社側から高い評価を得ているようです。
テレマティクス保険の需要
伝統的な自動車保険では各ドライバーの情報を収集し、それに基づいて保険料を決めるということが困難な状況でした。そんな状況がテレマティクスの台頭により、ドライバーの運転技術や行動パターンを把握することができるようになったことで、大きく変わってきています。
ドライバーとしても「優良評価」を受けた場合は、月に支払う保険料が少なくなるというメリットがありますし、保険会社としても他社の保険や従来型の保険の仕組みに必ずしもハッピーではなかった人たちや、そもそも自動車保険に加入していなかった人たちなどを新たに開拓できる良いきかっけにもなります。テレマティクス保険は双方にとって利益を生み出すシステムとして、今後さらに成長し続けることが期待されています。
その先駆けとなったOctoは、今ではレンタカー・サービスや運送業者の車両管理、自動車製造業などにも事業を拡大しテレマティクスサービスのパイオニアとして活躍中。「Octo U」をはじめ、各デバイスに対応したアプリケーションも急速に増やしており、車両に搭載されたシステムが保険料や請求コストの試算、不正の管理などに活用されています。
現在本社はロンドンにありますが、創業の地イタリアに加えドイツ、スペインなどの欧州各国、ボストンやサンパウロなどアメリカの都市にも拠点を増やし、存在感は増す一方です。
このように、欧米ではテレマティクス保険の需要が高まっていますが、それに比べると日本ではまだそこまで知名度は高くありません。
日本でのテレマティクスサービスのこれから
たとえばソニー損保が「やさしい運転キャッシュバック型」というサービスを2015年に開始しましたが、こちらは車に搭載する「ドライブカウンタ」という機器を通してブレーキの踏み込み具合を評価し、保険料をキャッシュバックするといったシステムです。
他にも、東京海上日動が新しいテレマティクス・サービスを開始し、「ドライブエージェント」を開発するなど少しずつ知名度を高めていますが、現時点では欧米ほど急速に拡大していません。
この辺りは欧米と日本において自動車保険の仕組みや金額が異なり、結果として保険の加入率にも大きな違いがあることも関係しています。たとえば日本では強制加入による自賠責制度があるため、国内の自動車保険加入率は100%を維持していますが、自賠責制度の強制加入がないアメリカでの自動車保険加入率は66%とかなり低い状況。
また日本の自動車保険料はとても安く年間の平均で7万円前後となるのに対し、アメリカでは10万円前後と高額になるため、これらの要素が加入率を下げている原因となっています。各ドライバーにとってのテレマティクス保険は、従来の保険料を安くする効果が期待されているため、特に欧米では急速に需要を高めています。
そして個人の運転技術によって保険料が下がり、走行データの分析によって評価ができるので、車両を管理する企業側にとってもメリットは大きいです。テレマティクスは地図情報や検索サービスといった便利な側面に見られがちですが、「車両の走行管理」や「従業員の評価」といった面でも大きなインパクトをもたらします。
だからこそこれらのテレマティクスサービスは、日本ではまさにこれから急速に成長していくと考えられる「伸びしろ」が大きい、おもしろい市場です。スマートドライブでも個人のドライバー向けに「SmartDrive Families」を、法人向けに「クラウド車両管理システム SmartDrive Fleet」というアプリケーションをそれぞれ開発しています。
テレマティクス保険についてもアクサ損害保険とのテレマティクス保険共同開発プロジェクトを行っており、まさにこの市場でチャレンジをしているところです。
自動車×テクノロジーというと、どうしても自動運転ばかりが脚光をあびがちですが、それよりも前にまずは自動車とITが繋がった「コネクテッドカー」や今回紹介した「テレマティクス」サービスがさらに普及していくことも予想されます。そしてその領域のパイオニアとも言えるOctoTelematicsの動向からは今後も目が離せません。