インタビュイー:大阪デリバリー株式会社 取締役副社長 木田晴孝さま
お客様の要望から事業を拡大
まずはお木田様のご略歴をお聞かせ願えますか。
私は2005年に大学を卒業して新卒で日本駐車場開発に入社。そして2016年の年末に同社を離れ、17年1月1日付けで大阪デリバリー株式会社に入社しました。前職では4年目からは地方拠点の支社長、6年目に東京中央地区の支社長を任されました。そして、9年目東京で営業部長を3年担当。その年に、日本自動車サービス開発という100%子会社の役員を兼任することになりました。
次に、大阪デリバリー株式会社の事業をご紹介いただけますか。
弊社の事業は物流サービスの提供、物流人材の提供、物流のスペースの提供と大きく3つございます。最近、物流の世界では様々な機器やシステムなどが次々と開発され、自動化・省人化が進んでいますが、未だにそれを扱うのはヒトです。弊社は物流の底辺部分、縁の下を支える重要な役割を担っています。人が作り出すサービスを、人が中心になって、人の手で届ける。システム化が進もうとも、とことん人を追及する企業です。
物流人材の提供とは、いわゆる派遣のことです。派遣=登録型(日雇い)のイメージが強く、派遣業法はルールの変更が頻繁にございますが、私たちはコンプライアンスを重視して、スタッフを日雇いの登録ではなく雇用しています。
雇用形態は「派遣」になりますか?
弊社では雇用契約を締結したスタッフが中心です。雇用となれば雇用契約を遵守しなくてはなりませんし、契約内容に則った雇用にしなければ違反となってしまいます。他の派遣会社が登録型を中心にするのは、そうした条件を踏まえつつ、いつ発注がくるのかわからないからです。私たちは、単発ではなく、物流業界の現場に特化したレギュラー型の人材派遣をしています。
弊社の特長は、その業務自体を任せいただくことを見据えて人材を派遣している点です。案件やお客様のニーズにもよりますが、まずは現場の課題を抽出し、人材が不足している部分を補い、その流れから業務をまるごと請け負う。つまり、派遣から入って、そのまま物流サービス(請負)移行する流れが多いところです。発注があったから穴埋めのために人をおくるという無機質な派遣ではなく、同じ目線に立って現場や環境を改善したいと思っています。
この流れは、お客様の要望から始まりました。とある業者で、とにかく人手が足りず、半年ほどかけて徐々に人員を増やされたとのことですが、これ以上は難しいとギブアップ。そのとき、弊社のシェアは2-3割くらいでしたが、荷主さんのほうから、「現請負業者のスタッフを大阪デリバリーさんに転籍させて、当センター業務をすべて請け負ってもらえないでしょうか」とご相談いただいたのです。
他のケースでも、作業の段取りが構築されていないまま新規で倉庫を借りた荷主様から依頼を受け、弊社の社員を4〜5人参加させて、業務工程から一緒に作り上げていったこともあります。ただし、この場合作業料にもとづいた委託費をいただくことが難しかったため、その間は派遣で支払っていただき、ある程度オペレーションのフローが出来上がってきたところで、業務委託へと契約形態を移行しました。派遣と業務委託は責任の所在が少し異なり、派遣の場合は発注主が業務における責任を取りますが、業務委託の場合は責任主体が私たちになります。ですので、どうせなら派遣のうちから私たちが責任を取るのだというスタンスで入っていこうと。
人だけではなくスペースも求められるようになったため、一部で倉庫を借りるようにしたり、和歌山県に自社で倉庫を購入してスペースを提供できるようにしたり、徐々に業務範囲を広げています。
大阪デリバリーならではの取り組みには、会社から社員への熱い思いがあった。
大阪デリバリー社は、「SPREAD ORANGE」「eSports」などユニークな取組みをされていますよね。
私たち中小の物流下請会社は、今、非常に厳しい状況に置かれています。毎年、求人倍率や求人費用が上がっていますが、とにかく人が足りない。それにモノがたくさん動けば物流会社は忙しくなりますが、ECが盛り上がる一方でスーパーなどの小売は縮小したりと、業種業態によっての物量増減が顕著であります。私たちは商品の出荷量で契約することが多いので、モノの数が減ってコストが上がると、結果的に利益が下がってしまうのです。
このような環境下で、どう生き残っていくべきか。既存の業務の収益改善はもちろんですが、それだけでは限界がありますし、そもそも風向きがよくありません。ですのでやはり月並みですが、弊社としては会社として規模の拡大を追っていくしかありません。。そこで重要となるのが“人財”です。経営する人財、マネージメントする人財、派遣する人財、全てにおいて人の力が必要不可欠ですから。
それがe-sportsとどうつながっていくのでしょう。
少し表現難しいですが…私たちのような中小下請企業は、基本的に収益が低い。間に何社かが入るためそもそも利潤が薄く、薄利多売のビジネスになってしまうのです。そうなると、他社と比較して給与水準が低いとか、福利厚生が弱いとか、従業員にとって魅力的な環境が作りづらくなります。それなのに、業務は地味で、世の中を底支えする裏方の仕事です。待遇もいいとは言えないし仕事内容はきつい、労働環境もあまり整備されていない。立ち位置的にも声を上げづらいし、繁忙月は残業時間が膨れ上がることもありますし。ネガティブな印象ばかりが表面に出てしまうのです。
そのため、求職者に対して会社の実務や福利厚生、待遇をウリにすることが難しいのですが、ちょっとした工夫や視点の転換によって、弊社に所属する理由を作りたいと思っています。会社の経営理念に「関わる人すべての基盤となる会社に」を掲げていますが、これは従業員に対しては、会社がみんなの居場所になってくれたらいいな、という思いからくるものです。
思い通りのキャリアパスを描けなかった人、自分の意見をなかなか前に出せなくて組織に馴染めなかった人など、弊社には様々な背景を持った人がいます。仕事内容には幅がありますので、たとえ不器用な人でも輝くことができますし、私たちとしては、どんな方でも弊社には居場所があることを伝えたい。誰にでも対等に働く環境を提供できるのが弊社の強みですので、どんな人に対しても居場所を提供したいですし、今まで気づけなかった能力や魅力を存分に発揮いただければいいなといつも心から思っています。
このような方針から、私はなるべく従業員の仕事以外の一面、仕事で見せない側面を普段からキャッチできるように、積極的に話しかけるようにしています。そうしたコミュニケーションをとっていると、弊社にはバーチャルな世界ではコミュニケーションを活発に取っている人、エッジの聞いたゲーマーがたくさんいるとわかってきて。ざっくりとゲームに関するアンケートをとったところ、なんと200人中70人がゲームを好きだというじゃないですか。人と関わることが少し苦手、しかしゲームという舞台でなら活躍できる。ならば、むしろみんなのもう一つの居場所を会社に持ち込めばいいんじゃないか。ゲームがメインで、お仕事はサブでもいいじゃないかと。
もちろん、仕事をメインにする人にも活躍いただきたいので、そういう方にも活躍いただける環境を提供しています。それぞれにあった環境を会社として用意することで、会社も従業員たちもお互い利害一致するようならば、ゲームを導入しよう。そうして導入したのがe-Sportsでした。
会社が選ばれる理由、会社にいる理由を一つでも多く作るために、たまたま目についたのがe-Sportsだっただけなんです。とはいえ、会社のお金を多少使って立ち上げるには、興味がない人たちに説明ができないと、不平等が生まれてしまいますので、「やるからには徹底的にやろう」と、プロとして勝負の世界に打って出ることにしました。去年の夏に発足し、半年間は練習に費やしましたが、今年からは大会に出て勝ちを求めに行こうと動いています。そうやって、彼らの存在価値を見出していきたい。
私としてはこの活動自体が一つのコンテンツになりますので、話のとっかかりやセールスポイントとしてPRさせていただいております。
本業よりも売上の多い部門になってしまうかもしれませんね。
賞金が3億円という大規模な大会もありますが、そこで優勝できる人というのは、朝から晩まで1日中ゲームをしているような方だそうです。となると、練習量が多い方が勝てる確率が高くなる。しかし、私個人は世の中のスポーツって全てがそうじゃないと思うんです。限られた時間の中で、わが社なりに成果を求めていきたいですね。
一社単独ではなく、一丸となって物流業界を推進する
今後の事業展開はどのようにお考えですか。
どこまでいっても、私たちは物流作業の会社ですし、大きな業態転換をするつもりありません。引き続き、今の業務を一歩ずつ前に進めて行きたいですが、淡々とこなすだけではなく、私たちはこのようなサービスを提供している、こんなユニークな取組もしているということを、もっと多くの企業や求職者に伝わるように、手を変え、品を変えアプローチしていきたいですね。
これから弊社のウェブサイトを改修しますので、そうしたイメージが想起しやすくなるかと思いますし、e-sportsに続く第二弾を仕込み始めているところです。さまざまな価値観の人を抱え、「大阪デリバリーは人手不足が叫ばれている物流業界でも安定した人材供給が可能です」と荷主や同業者にアピールし、人が集まりやすい会社として認知されたい。当面は変化球を考えず、今、取り組んでいることを着実に前へと進めていきたいと考えています。
e-sportsはかなり変化球のように思えますが…。
色をつけたい訳ではないんです。単純に従業員が喜んでくれるし、採用活動でもウケがいいから、こういう活動があってもいいだろうって。多少の資金投資はありますが、その分、人が来てくれたり定着率が上がったりすることで、求人費用を上回る効果は出せますから。
配送・運送・ロジスティクスなど、物流関連の業界に対して伝えたいことはございますか。
一社単独で利益を独占する時代は終わりへと向かっています。派遣も物流もそうですが、課題は数え切れないほど多くある。それをみんなで助け合うことで解決へと導いていきたいですね。最近「サステナブル」や「SDGs」という言葉が頻出しているじゃないですか。正直言いますと、私たちのような規模の会社は、SDGsを意識する余裕がありません。余裕が無ければ無いほど、一社単独の利益にしがみつきがちになりますが、この概念が私たちのようなアナログな中小企業にもっと広がれば、何かが変わると思うんですよ。
今だと、テクノロジーの力でいろんなものをスムーズにつなげることができるでしょう。スタートアップやテック系の会社さんたちが、テクノロジーをもたない中小企業をつなぎあわせて、みんなで一丸となって前に進む。それが私の内なる思いです。