自動運転車におけるセンサーの重要性と技術

自動運転車におけるセンサーの重要性と技術

多くの人が関心を持つ、自動運転車。現時点では運転をサポートしてくれる機能を持つ段階で完全な自動運転車は実現していませんが、その技術は着実に進歩してきています。
自動運転システムを支える技術の1つとして外せないのが、「センサー」です。自動運転車の開発に力を入れいているテスラモーターズ(以下テスラ)では、オートパイロットを搭載した車を開発していますが、車体には10個以上ものセンサーが内蔵。「カメラビュー」「レーダー」「超音波センサー」など様々なセンサーが機能し、オートパイロットのシステムを支えています。

仮にセンサーがこの世に存在しなかった場合、各企業が開発している自動運転システムはどのような状態になるのでしょうか? 今回はこのセンサーについては紹介します。

自動運転システムにおけるセンサーの仕組み

自動運転システムは、周囲を検知するセンサーを通して「歩行者はいないか?」「対向車はないか?」「道路標識の指示は何か?」といった情報を画像処理、もしくは反射波を測定するなどして確認します。

検知したデータはクルマの内部に搭載しているコンピューターに送信され、高速で分析が行われます。次に分析したデータを駆動するそれぞれのパーツに伝えることでクルマの動作が決定。「ステアリングを動かす」「ブレーキを踏む」「車線変更する」といった基本的な運転操作が、機械を通して行われます。

こうした一連の操作を機械・電気仕掛けで行うものを「機構制御のバイワイヤ化」と呼んでいますが、今ではクルマのステアリングやアクセル、ブレーキなどはバイワイヤ化の恩恵により、自動的に操作可能に。

つまり、現代のクルマは機械装置や電気信号で「曲がる」「加速する」「止まる」などの基本動作を行える環境がすでに整っており、後は周囲を検知するセンサーや脳の役割を持つコンピューターが更に進化すれば、人の手をまったく必要としない「完全自動運転」の技術が実現できるのです。(もちろん技術的な話で、法制度や倫理観的な問題は別で解決しなければいけないですが)

センサーが果たす役割

今回の主題となる「センサー」は、人間で例えるなら「視覚」や「触覚」の部分に該当するものです。人は外部から受ける刺激の8割は視覚情報によるものだと考えられています。この8割の刺激が遮断されてしまえば、周囲の状況を把握できないことはもちろん、物を掴む、食事をする、外を歩くといった当たり前の行動がとても難しくなってしまいます。

目を閉じて視覚が遮られれば、次に残るのは味覚、嗅覚、聴覚…そして触覚です。触覚は物体に触れた時に刺激を受け取る感覚ですが、人が目を閉じて障害物を避ける時は、自然とこの触覚に頼る傾向にあります。視覚と触覚から集めた情報が人の行動に大きく影響しているのです。

つまり「視覚」や「触覚」の役割を持つセンサーをクルマに搭載すれば、周囲の状況が把握できるようになるため、自動運転システムの実現が可能です。反対にセンサーがなければ状況判断ができなくなり、衝突事故や移動する方向を見失ってしまうなどの問題が生じてしまいます。

自動運転システムはセンサーが「命」といっても過言ではなく、一つひとつのセンサーがちゃんと機能することで初めて安全な自動運転ができるようになるのです。

テスラのオートパイロットで使用されるセンサー

Photo credit: mariordo59

自動運転システムの技術において業界で最もリードしているのが、冒頭でも紹介したアメリカのテスラが開発しているオートパイロットです。「モデルS」のオートパイロットには、以下の3つの機能を持つセンサーが各所に搭載されています。

カメラビュー

モデルSにはフォワードカメラ、フォワードフェーシング・リアフェーシングサイドカメラ、リアビューカメラという3種類のカメラが搭載されています。

特に注目に値するのがフォーワードカメラの機能性。こちらのカメラはフロントガラスの上部に設置されており、「ワイド」「メイン」「ナロー」とそれぞれの役割を持ち、視野の広さ調整から遠くの物体を検知する機能まで、さまざまな状況に対応できる技術が備わっています。

レーダー

天候の影響により視界が悪い状況の場合、カメラだけでは検知できない物体を探し出すのがこのレーダーの役割です。激しい雨、濃霧や降雪時を走行中でも、前方車両を正確に検知して安全に対応する役割を担います。

超音波センサー

文字通り周囲に超音波を発しながら車両を検知するセンサーのことです。主に走行中の車線に入ってくる車両を検知する役割を果たしますが、他にも駐車時のサポート役として機能することもあります。超音波とは人の耳には聞こえない振動波なので、通常では感知できない物体の位置まで把握することができます。

基本的に自動運転システムは、先行車両を認識してアクセルやブレーキを制御したり、車線変更などを行うことを主な目的としている技術。これらの判断を行うのは、システムに組み込まれるアプリケーションとなりますが、センサーは外部の情報を取り入れるための非常に重要な役割を持つ装置です。

従来のクルマにもセンシング機能を持つ機器が搭載されていますが、自動運転システムでは更に精度の高い製品を用いる必要があるのです。

国産の自動車に搭載されているセンサー

自動運転システムと聞くと、内蔵するコンピューターがすべてを判断して公道を運転することを思い浮かべるかもしれませんが、実際はそのレベルまで達しているクルマは今のところ存在しません。自動運転を達成するにはさまざまな技術の制約があるため、世界のエンジニアが壁を乗り越えようと日々研究に努めています。

日本では「自動ブレーキシステム」が一時期話題となりましたが、このシステムも自動運転の一部といえるでしょう。カメラとレーダーの組み合わせによるものが多く、トヨタ、日産、マツダ、スバルなどが販売する車両に搭載されていることで有名です。

特にマツダの「アクセラ」では、国土交通省の調査による自動ブレーキ性能の評価点は総合でトップを記録。またTVCMでお馴染みのスバル「アイサイト」も評価が高いため、こちらの2社の自動ブレーキシステムは、今後も技術を競い合いながら更なる進化が望めるのではないでしょうか。

マツダ「i-ACTIVSENSE」

マツダの「i-ACTIVSENSE」もテスラと同じカメラやレーダー、超音波センサーなどを駆使してブレーキ判断を行っています。2016年の予防安全性能評価において、マツダのアクセラは「ASV++」を獲得したため、その安全性能は折り紙付き。この評価制度は対車両や歩行者に対する反応、車線のはみ出し警報、後方視界情報提供装置の安全性などを確認するため、ほぼ全方位におけるシステムの反応を評価します。

近年ではAT自動車の誤発進が問題となっていますが、マツダはこの課題にも対応するシステムを構築。超音波センサーが近距離の物体を感知して、警報音を鳴らしてドライバーに知らせる機能を搭載しています。

スバル「アイサイト」

スバルのセイフティシステムの一つである「アイサイト」では、フロントに設置するステレオカメラが優れた認識性能をもつ機器として有名です。他社のクルマではカメラとレーダーの組み合わせが標準となっていますが、スバルではこのステレオカメラ単体で運転をアシストするため、最先端のカメラを駆使するシステムとして注目されています。

クルマや歩行者、二輪車などを認識することはもちろんのこと、白線や道路の形状まで把握するため驚く機能が満載です。また、ステレオカメラは動く物体をカラーで検知し、先行者のブレーキランプなどをセンシングすることが可能なため、より人間の視界に近い状態で判断を行うことができます。

基本的にオートパイロットも自動ブレーキシステムも、現在ではアシストの領域に留まっているため、運転を行うのはあくまで人間だということを忘れてはいけません。搭載するセンサーはどれも優れたものばかりですが、これらに頼りっきりではいずれ事故を起こします。近年ではアシスト機能も標準装備となっているため、運転の責任を負うのはあくまで人間側だということを肝に銘じておく必要があります。

今後の自動運転のカギを握る「LiDAR」の技術

自動運手システムで活用されるセンサーには「光学式カメラ」や「ミリ波レーダー」などがありますが、今後は「LiDAR(ライダー)」も加わる可能性が考えられます。

LiDARとは、光(レーザー)を用いて距離をセンシングする技術のことで、短い波長の電磁波を照射するため、従来の電波レーダーよりも精度の高い検出が行えます。元々は地質学や物理学の分野で活用されていた技術ですが、センシング機能に優れていることが認められたため、自動車業界から熱視線を受けました。

Photo credit: Oregon State University via Visualhunt.com

テスラのCEOイーロン・マスク氏はLiDARの搭載には今のところ懐疑的であり、カメラやレーダーを駆使すれば自動運転の実現は可能だとコメントしています。しかしGoogleは、3D地図を作成する上で赤外線によるLiDARの技術は必要だと考えているため、今後も注目され続けるセンサーであることは間違いないでしょう。テスラのモデルSは2016年に致命的な死亡事故を起こしている点から、改善のカギを握るのはもしかしたらLiDARによるセンシング技術かもしれません。

各企業が開発しているセンサー

自動車に関わるセンサーだけを考えれば、搭載可能なものは既にたくさん存在します。特にカメラ技術は進化の一途を辿っており、今後も自動運転システムに大きく関わってくることは間違いないでしょう。自動運転用のカメラ開発企業の中には、ソニーやパナソニック、ケンウッドなどがあるため、まさに業界の垣根を越えた開発競争が行われている状態です。

出典 : MOBILEYE

最近までテスラと業務提携していたMobileye(モービルアイ / イスラエル)では、後付けが可能な衝突防止補助システムを開発しており、フロントガラスに取り付けたカメラが先行車両や歩行者を検知して警報音を鳴らす製品を販売。さすがにステアリングやブレーキの操作はできませんが、「警報音を鳴らす」くらいであればすべてのクルマに搭載が可能とのことです。

一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)では「センシング技術委員会」を設置しており、自動車だけでなくITやエレクトロニクス産業の発展に伴う調査を実施。自動運転におけるセンシング技術は「物体を検知する」ことに重点を置いています。

委員会にはアズビル、オムロン、セイコーインスツル、ソニー、東芝、日本電気、パナソニック、富士通研究所、三菱電機、村田製作所などの企業が関わっているため、これらの中から新しいセンシング技術が生まれ、将来の自動運転システムに活かされるかもしれません。

進化し続けるセンシング技術に注目

自動運転システムとセンサー技術は切っても切り離せない関係にあります。またセンサーの技術進化はもちろんのこと、「LiDAR」のような従来のシステムに搭載されてないセンシング技術に注目することにより、自動運転システムの更なる向上が望めることも面白い傾向かもしれません。

今後もセンサー開発による市場の拡大は大いに考えられるため、国内企業の中から自動運転に特化した新しいセンシング技術が生まれることを願っています。

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