自動運転の普及が待ち望まれる理由とは
現在、自動運転システムを搭載しているテスラ社の「モデルS」は、価格が800万円以上となってしまうため、一般の方には無縁のように思えます。また価格だけでなく、安全性の視点から考えてもまだまだ不安な要素が多く、居眠り運転ができるほどの技術に達していないのが現状です。
実際にモデルSは、2016年5月に車両同士の衝突による死亡事故を起こしており、話題となりました。
様々な課題を克服しなければならない先端技術ですが、それはあくまで「現代」の段階から懸念された問題ばかりであり、大方の専門家は「100年後はクルマを運転していたことすら人間は覚えていない」とさえ言っています。モデルSが死亡事故という惨事を起こしても、一向に開発を止める声は聞こえてきません。
…では、クルマを自動運転化するメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?
渋滞を解消
近年のアメリカでは、全国民が渋滞に費やした時間を「70億時間」と推測しています。ただの渋滞だからという問題では済まされず、その影響により毎年20万人近くが職を失うという状況に陥っています。
アメリカは交通整備に比較的優れた都市として有名ですが、渋滞を100%避けるということは不可能のようです。
自動運転の技術に切り替えれば、周りの車両が車間距離を保った規則的な運転を始めるため、人間によるアクセルの踏み込み調整が不要となり、その影響で発生していた渋滞が解消されると予想されています。
また、街中に自動運転用の専用レーンを設置すれば、歩行者や手動運転車両との干渉も無くなるため、電車のように時刻通りの到着が可能となるはずです。
いずれにせよ、渋滞の解消は自動運転技術にとって最大の課題であり、この問題を解決するため先進国では道路のIoT化に努め、自動運転が普及した場合を想定した交通整備などが進んでいくのではないでしょうか。
渋滞のデメリットとして考えられるものををいくつかピックアップしてみます
- 機会損失…無駄な時間を費やすことによる機会の損失。非生産活動を続ける影響から健康状態の悪化など。
- 懲戒処分…遅刻・遅延による売り上げの損失や取引先との契約解除。社員の解雇処分など。
- 大気汚染…燃料の無駄な消費による、大気汚染や二酸化炭素排出量の増加など。
- 緊急事態…緊急車両である救急車・消防車などの通行妨害。警察の捜索妨害など。
- 波及効果…脇道などの混雑によるアメニティの弊害。不動産価格への影響など。
- ストレス…渋滞中のストレスによる侮蔑行為、口論、暴行、殺人など。
また、アメリカだけでなく日本も渋滞による問題を多く抱えています。
国土交通省では、全国の渋滞による年間損失は約12兆円にも上り、1人当たり年間約40時間も無駄に消失していると発表しています。
交通事故の発生を減少
もともと自動運転の技術は「交通事故の発生を阻止する」ことを目的に発展してきました。例えばマツダが自動ブレーキシステムである”i-ACTIVSENCE”を開発し、前方にある障害物を感知して自動的にブレーキ制御する機能を搭載したのは、テレビCMでもお馴染みの話となっています。
この自動ブレーキ(正式名称:衝突被害軽減ブレーキシステム)は、マツダだけでなくトヨタ・日産・ホンダなども積極的に開発を推進しており、事故の無いクルマ社会を目指して各社が技術の向上に努めています。
「自動運転」と言うと加速・操舵・制動のすべてを自動で判断して走行するクルマを思い浮かべますが、この自動ブレーキを搭載したものも自動運転のジャンルに入ります。技術レベルの判断基準では”レベル1”と最も低い位置にありますが、交通事故を確実に軽減するシステムとして、将来は搭載の義務化を期待されている先進技術でもあります。
駐車場のスペース確保
並列・縦列駐車をサポートする機能を搭載したクルマが、すでに販売されているのはご存知の方も多いのではないでしょうか。
駐車サポートシステムはセンシング技術を最大限に活かしているため、車両の間隔を数センチに保って駐車することも可能であり、その結果、駐車スペースを大きく確保することができます。「たかが数センチ」と笑う方もいるかもしれませんが、隣の車両と15cmの間隔が開けば10台で1.5m、20台で3mなので1台分余裕で駐車できる計算となります。
また、ドイツの各自動車メーカーでは一歩先を進み、駐車場に入った瞬間から全自動で駐車を行うシステムを開発中とのこと。しかも人が乗ったまま駐車の状況を見守る必要もなく、無人運転で目的の場所へ移動する画期的なシステムです。
自動運転と共に開発途上の段階ですが、もし達成されれば効率性の向上はもちろんのこと、駐車の苦手な人への支援、駐車場の建設費の軽減、運転操作ミスによる物損事故の阻止など様々なメリットがあります。
自動運転のメリットはこれだけに留まらず、ビジネス産業にも大きな革新をもたらすため、各社が開発にしのぎを削っている状況です。
日本は法律の観点から「手放し運転」を認めていませんが、自動運転に関しては解禁となっています。こうした影響から、国内の大手自動車メーカーがシステム・ソフトウェアの開発に尽力。また、この背景には2020年に東京オリンピックが開催されるため、政府もそれに合わせて日本の技術力をアピールしたいという意図も含まれているようです。
今後の自動運転技術はどのように進化するのか?
現在の自動運転システムが搭載されている販売車の技術レベルは最高で”レベル2”となっています。レベル2では「加速・操舵・制御」が自動で行われるため、すでに完成されたシステムだと思われがちですが、まだ更に上のレベルが存在します。
今後の自動運転技術における各メーカーの計画を含めて、レベルごとの機能性を以下にご紹介します。
【レベル0】自動運転システムがまったく搭載されていない状態(~1990年代)
運転者が「加速・操舵・制御」をすべて行わなくてはならない段階です。1990年代以前は、ほとんどのクルマがこの状態でした。もちろん、事故を起こした場合はドライバーの責任となります。
【レベル1】運転ミスを回避するシステムの導入(2000年代~)
自動ブレーキなど運転者のミスを回避するシステムが搭載されている段階です。2000年代頃からカメラ・センサーなどの発達により、実現が可能となりました。このレベルでも事故を起こした場合はドライバーの責任となります。
【レベル2】加速・操舵・制御のうち複数の操作をシステムが判断(2015年~)
現在、販売されているほとんどの自動運転車両はこのレベルとなります。加減速やハンドリング、ブレーキ制御などもシステムが自動的に判断。テスラ社のモデルSもこの段階であり、日産の新型セレナにも導入しているとのことです。
各社の自動運転を行う動画などを視聴すると、ほとんど手を放して運転している状態のため、一定の技術水準に達していることが伺えます。しかし、市街地などの複雑な状況には対応し切れていない部分も多く、安全基準を満たしていない段階と言えるかもしれません。こちらも、事故を起こした場合はすべてドライバーの責任となります。
【レベル3】運転中に他の作業が可能な状態(2017年~)
このレベルになれば、自動運転システムに組み込まれた人工知能(AI)が、すべて自動で判断してくれます。
市街地などの複雑な状況では人間がサポートする必要がありますが、ほとんどの場合、テレビ鑑賞や読書などを楽しんでも問題ない段階です。日本では2020年までに国内でのレベル3実用化を目指しており、海外では2017年頃から各車両に搭載する予定だそうです。
このレベル辺りから、事故を起こした責任も”ドライバー”と”システム”の双方にリスクを負うため、自動車業界ではレベル3以上が本格的な「自動運転」の領域だと認識しています。訴訟大国であるアメリカでは、非常にセンシティブな段階であるため、テスラ社ではレベル3でも事故の責任はドライバー側にあると示唆しています。
【レベル4】車内は動くリビング!有人・無人運転も可能な段階(2020年~)
AIにすべて操作を任せ、ドライバーは一切運転に関与しないレベルです。
自動運転の到達点と言えるレベルのため、交通事故を起こせばメーカー側に責任が及びます。2020年には公道を走る車両が販売されると予測されており、日本でも2020年後半にレベル3に到達したクルマの販売と合わせて開発を進める方針です。
有人・無人運転も可能な状態のため、車内でテレビ鑑賞や読書はもちろんのこと、まるで家の一室のように過ごすことが可能。先にも述べた「渋滞の解消・交通事故の減少・全自動駐車」なども達成し、世界の物流にも多大な影響を及ぼします。
【レベル5】完全な無人運転を可能にした未来のクルマ(2020年代後半~)
「加速・操舵・制御」をすべてAIが判断し、遠隔操作でクルマを操ることが可能な段階です。
自宅がまるで駅のようなアクセス拠点としての役割を果たし、目的の地点までネットを介して誘導することもできます。30~50年後を見据えるには必ず達成させなくてはならない開発段階だと言えます。
現在はこの6段階に分かれていますが、今後の技術革新により更に細かく分けられると予測されています。
特にレベル3~4の段階では、交通事故の責任が”ドライバー側”にあるのか”システム側”にあるのか議論される可能性があるため、将来は法整備が避けられないことは明白です。まず国内で最も山場となるのは2020年のため、この時期にどれだけ開発が進んでいるか、各業界からも熱い視線が向けられています。
自動運転の普及によるクルマ社会への影響
自動運転システムを搭載したクルマはすでに販売されていますが、運転を体験した人はほんの僅かかもしれません。まだまだ高価なクルマであり、一般的な普及を目指すには更なるコストダウンが必要なことは明白のため、今後も更なる企業努力が必要だと考えます。
また、自動車業界を揺さぶるのは他のメーカーの技術力ではなく「カーシェア」などのサービス企業であり、これらに対抗するビジネスモデルを構築する必要性が自動車メーカーで迫られています。実はこちらの問題の方が深刻化しており、売り上げ減少の4割に影響しているそうです。
現在でも地方に行けば一家に一台はおろか、一人一台のような状況さえも見かけますが、それは仕事・生活にクルマが密着しているため、ないと日々の生活がままならないからですが、そういった状況を除くと、国民の経済的な状況もあいまって、クルマに向かう購買意欲というのは昔に比べて減退しているようには見えます。加えて、上述のような「必要な時に必要なだけ利用する」という利用ベース課金モデルのサービスの台頭も追い打ちをかけている状況下で、各メーカーが販売台数を今後もキープしていくのは簡単ではないでしょう。
自動運転の技術がさらに発達し、自動走行車が普及していく中で世の交通網を縦横無尽に走り出すようになると、交通事故や渋滞は減り、毎年事故で失われていた尊い命は救われ、無駄に費やされていた渋滞時間が有効活用されることになり、物流も効率化・安全化し、そこで節約できたリソースは他の経済活動に再投資できるようになります。そういった意味では、経済効果という意味でも計り知れないインパクトがあるでしょう。
また、クルマの販売方針も「いかに個人に買ってもらうか」ではなく「どれだけの時間使ってくれるか」に変化するかもしれません。これはまさにシェアリングサービスの進化したカタチでもあり、新しいビジネスモデルの創出となります。
2020年の日本と自動運転
現在で最も自動運転の技術が進んでいる国はアメリカとドイツです。特にドイツでは信号機をネット接続して一般の方に点灯状況を配信したり、自動運転社会に向けた法整備も積極的に行っています。まさに国を挙げて取り組んでいる技術なのです。
現在の日本では、自動運転の解禁が行われたばかりであり「手放し運転」を認めていませんが、2020年頃を境に大幅な法律の改変が予測されています。
5年後にはも日本でもハンドルから手を放し、アクセルブレーキから足をはずして運転する人も増えているとは予想されますが、運転席に誰も座らずに車を公道で走らせるのはさらにもう少し先にはなるかもしれません。いずれにしてもクルマ社会は大きく変化し始めていますし、クルマという概念そのものが変わっていく時代を、わたしたちは迎えているのでしょう。