テスラ車やGoogle車の事故に見る自動運転車の現状と未来

テスラ車やGoogle車の事故に見る自動運転車の現状と未来

毎日とは言えないものの、近頃では自動運転のニュースが頻繁にとり上がられるようになりましたが、皆さんは自動運転についてどのように考えていますか?

自動運転車の今、そして未来を考える際に「その事故」は注目すべきテーマの一つと言えるでしょう。

タクシーやバスのように「人間」に任せるのではなく「機械」に任せるという、漠然とした不安感。自分の命がかかっているとなればなおさらです。自動運転が抱える現在の課題とは、そして今後はどうなっていくのか。最近の事故を交えながら紹介します。

Google自動運転車による、マウンテンビューの事故

Photo credit: Roman Boed

自動運転車の事故と言えばテスラ車の事故が真っ先に思い浮かぶ方もいるかもしれませんが、公道で自動運転モードの車を走らせているのはテスラばかりではありません。

数多くの自動車メーカーが積極的にしろ限定的にしろ、常に何らかのモードを搭載した自動運転車を走らせています。

中でも積極的に公道走行でのテストを繰り返している代表的な例と言えば、Googleの自動運転車でしょう。丸っこい印象のかわいい自動運転車が精力的にテストを繰り返す中で、いくつかの事故は既に経験しています。

いずれも重大な事故ではなく、ほとんどはGoogle車に問題があっての事故では無いとされてきましたから、Googleのテストカーはむしろ、自動運転に対するイメージアップに貢献してきたと言えるかもしれません。何よりIT企業の作る車ですから、「機械」や「コンピューター」のイメージとしてはむしろ信頼できるイメージです。

しかし、テスラ車がオートパイロット作動中に起こした事故以降、さすがにGoogleのテストカーも事故を起こせば以前と違う形で注目を集めることになりました。

それが2016年9月、Googleの地元マウンテンビューで起きた事故です。

よく知られたGoogle独自のテストカーではなく、レクサスRXをベースにしたテストカーでしたが、交差点の赤信号を無視してきたバンに突っ込まれたのです。

青信号になって6秒後、当然のように交差点に侵入したところへ突っ込まれたと言いますから、完全に「もらい事故」でした。

当時はAI(人工知能)による完全自律走行中とも、実際には人間が運転していたとも言われましたが、発進直後で回避もままならない状況とあっては、自動運転がどうこうという以前の問題です。

それでも「自動運転車が事故を起こした!」(実際には事故を起こされた側なのですが)と騒がれてしまうのが、今の自動運転車の置かれた立場を象徴していると言えます。

テスラ「オートパイロット」の死亡事故は、フロリダが第1号だったのか?

Photo credit: cdorobek

自動運転車のイメージダウンに思わぬ役割を果たしてしまったテスラですが、その原因となる「オートパイロット」作動中の死亡事故は、2016年5月にフロリダで起きたものが最初とされています。

しかし、最近になって、実は2016年1月に中国で起きた事故が、「オートパイロット」作動中としては初の死亡事故だった可能性が取りざたされているのです。

キャビン部分の上半分のみが大破したフロリダのケースと違い、中国でのケースは路面清掃車に突っ込んで完全に大破したため、事故当時にオートパイロットが作動していたかどうか定かではありません。

また事故原因を調査しているテスラに対し、遺族が十分な情報提供を行っていないことも原因を不明確なものとしています。

にも関わらず「オートパイロット作動中の事故説」が消えないのは、路肩に停車していた清掃車を避けられずに衝突した様子が、過去のテスラ車の事故と重なるからという状況証拠ゆえです。

もちろん手動運転中のドライバーが単に前方不注意で突っ込んだ可能性も大いにあるので、これがオートパイロット作動中の事故である、と断言することはできません。

ただこれらの事故から、テスラはオートパイロットを作動させているか否かに関わらず、車載コンピューターと常時リアルタイムで双方向通信を行っていないと考えられます。

最近のAIが目指す、リアルタイムでサーバーと超高速通信を行い、計測、送信、分析、学習、フィードバックを行う「ディープラーニング」は事故を起こしたテスラ車に搭載されていなかったということでしょう。

あるいは、事故時にログを送信したり、飛行機におけるフライトレコーダーのような、頑丈なログ記録装置を持っていないということかもしれません。

現在の自動運転車が「運転支援システム」に留まる理由

Photo credit: Marc van der Chijs

まず現在の自動運転について整理しておくと、現状ではテスラ車も含め完全な自動運転車は市販されていません

単にテスラがそう名づけてしまったがゆえに大きな誤解を招いていますが、テスラ車のオートパイロットにしろ、自動運転機能は持ち合わせていないのです。

確かにある程度の条件下ではドライバーが直接手をくださずとも勝手に走ってくれますし、それを利用して走行中に読書をしたり、運転席を離れてみるドライバーが後を絶ちません。

テスラは販売促進のためにオートパイロットを積極的にアピールする一方で、「これは自動運転ではなく運転支援装置である。」とアナウンスしています。マスメディアでも「夢の自動運転の実現」といったような形で報じられることもありますが、あくまで運転支援装置に留まっているということがポイントです。

そういう意味では、現段階で販売されている運転支援装置を搭載した車(もちろんテスラのオートパイロットも含みます)、それに今後販売予定されている車に対して、本来であれば「自動運転」という言葉を簡単に使うべきでは無いのかもしれません。

なぜならばその実態は、自動ブレーキやレーンキープアシストなどの「運転支援装置」と、今では多くの車で実用化されている「電子制御技術」の集合体に留まっているからです。

少なくともドライバーは完全な自動運転ではないこと、そして走行中も通常通りきちんと運転に集中しておくべきことをしっかりと認識していなければなりません

実は現在の車のほとんどは「半自動運転車」

この話の大前提として、現在販売されている車の多くは昔と違ってドライバーが直接運転している部分がほとんどありません

アクセルペダルを踏めば、電子制御スロットルが最適なスロットル開度(アクセルを踏んだ量)を決めます。それに合わせてオートマやCVT(無断変速機)は変速し、ブレーキを踏めばABSが介入して必要なブレーキ量を決め、場合によっては4輪バラバラに制動力を制御します。

そうなるとドライバーが直接決めるのは、ハンドルを切る量だけではないかと思われるかもしれませんが、最近は「ステア・バイ・ワイヤ」という技術で、非常時を除けばこのハンドル操作すらコンピューターが最終的に判断します。

つまり自動運転車や運転支援装置の話をするまでも無く、現在のほとんどの車において、ドライバーとは「車の意思決定機関」に過ぎないのです。

ドライバーの意思(操作)に従い、統合制御された車載コンピューターによって最適な行動が行われるので、これはもう「半自動運転車」と言っても過言ではありません。

未だにドライバーの意思が絶対なのは、マニュアルミッションによるギア選択くらいでしょうか。

半自動運転を一歩進めた「運転支援装置」

その「半自動運転車」の実現で可能になったのが、自動ブレーキやレーンキープ(車線保持)、レーダークルーズコントロール(車間保持)、それに自動で車線変更して追い越しをかける装置などの、運転支援装置です。

実質的に車を運転しているのは車載コンピューターなので、それに対してカメラやレーダー、レーザーなどのセンサーを与えれ、一定の条件下で自動的に動作するようプログラムしてしまえば、人間の意思に関わらず、ある程度車の運転ができてしまいます。

日産が新型セレナに搭載した「プロパイロット」や、メルセデス・ベンツが新型Eクラスに搭載した「ディスタンスパイロット・ディストロニック&ステアリングパイロット」などは、程度は違えど、自動運転という観点から言えばそれほど違いません。

テスラの「オートパイロット」にしたところで、車載コンピューターが「運転してもいい部分」を拡大しただけで、運転支援装置の集合体であるという意味では、何ら変わりは無いのです。

運転支援システムの限界

これら「運転支援装置の集合体が半自動運転車をコントロールする」という運転支援システムの限界は、まさに運転支援装置の性能限界がそれに当たります。

2016年5月に起きたテスラ モデルSの死亡事故はその典型的な例で、オートパイロット以前に、作動すべき自動ブレーキが全く作動していません。

オートパイロットで採用しているレーダーシステムはイスラエルのモービルアイ社が開発したものですが、そのレーダー探知範囲は前方に対するものであり、脇道から今まさに飛び出そうとするトレーラーに対応するものではありませんでした。

これは何もモービルアイ社固有の問題ではなく、現状の自動ブレーキ(あるいは衝突回避システムなど、さまざまな名称で呼ばれますが)とはその程度のものです。

市販車の自動ブレーキシステムの中で、ステレオ式カメラとリアルタイム画像解析により、もっとも先進的なもののひとつと言われるスバルの「アイサイト」ですら、その確実な作動を約束していません。

自動ブレーキひとつとってもそのような現状ですから、そもそも自動運転自体、現段階では非常に限定された環境でしか有効ではないとも言えるでしょう。

仮に何とか自動運転を行うとしてもかなりの安全マージンを見込む必要があり、ほとんどのメーカーでは脇道から突然車や歩行者その他が飛び出してこないような高速道路に限定しています。

それもセンサーの感知距離が短いことから、突然の渋滞でもブレーキが間に合うよう、かなりの速度制限を加えているのです。

テスラのオートパイロット2.0の実力はいかに

もっとも、このような問題は自動車メーカーにとっても当然周知の事実です。

オートパイロットでその性能や信頼性はともかく、ブランドの普及に成功したと言えるテスラ。2016年10月に、第2世代の「オートパイロット2.0」を発表してきました。

公表されている内容だけでも、フロントの3カメラを含む8個のカメラで360度の視界をカバーし、フロントの長距離カメラの最大望遠距離は250mに達します。ミリ波レーダーによる前方監視能力も向上して悪天候時の感知能力を高めたほか、前走車だけではなく、その前の車さえ感知できるようになったとのこと。

これに加えて感知距離5~6mと言われる超音波センサーも備えていますから、現状で望み得る最良のセンサーを備えていると言えます。さらにセンサーで収集した情報を分析、制御するNVIDIA製の車載コンピューターは従来搭載していたものの40倍の演算能力を持っていると言われますから、その実力にも期待したいところです。

センサーに関しては、レーダーを補完するレーザーセンサーを持たない事を危惧する声もありますが、少なくともテスラでは十分と考えたようで、今後のテスラ車には全てこのオートパイロット2.0が搭載されます。

このハード、つまりセンサーとコンピューターがあれば、将来的なソフトウェアアップデートで運転支援システム以上、つまりいざという時運転できるドライバーが控えているという条件つきで、自動運転が可能なレベルに達するとテスラは考えているのです。

確かに従来のオートパイロットより優れたシステムになりそうではありますが、それでもセンサーの限界を認識し、必要に応じて速度を下げるなどの処理が為されているか、注目されます。

今後の自動運転はどうなってゆくか

Photo credit: David van der Mark

テスラのオートパイロット2.0はかなり有望で、自動運転にまた少し近づくことは間違いありません。

どれだけ問題があったとしても、人間と同程度、あるいはそれ以上の認識能力を持つセンサーがあれば「疲れ知らずで集中力を切らさないドライバー」として、安全性向上に大いに貢献してくれるでしょう。

そもそも自動運転車の一つの意義とは、交通事故がほとんど発生しないことによる安全性の向上にあります。

そうである限り、車が内蔵しているセンサーから得られる情報だけでは、必ず生じる死角や、不測の事態、つまり最初に紹介したGoogleテストカーのような「もらい事故」への対処は不十分といえるでしょう。

対処法としては、外部、つまり道路側に置かれたセンサーや、他車との通信でカバーしていくほかありません。

そのために日本のITS(高度道路交通システム)など世界各国で研究や実証実験が進められていますが、市街地で安心して車に自動運転を任せられるようになるためには、もうしばらく時間が必要になりそうですね。

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