前編:「より安心・安全・エコな社会を」運輸業界に変革をもたらすTDBCが伝えたいこと

前編:「より安心・安全・エコな社会を」運輸業界に変革をもたらすTDBCが伝えたいこと

ヒトやモノを運び、社会的インフラとして人々の生活基盤を支えている運輸業。人々の生活に欠かせないものではありますが、そこには社会問題化した再配達や交通事故、少子高齢化によるドライバーの人手不足、長時間労働など、数々の問題が積み重なり、働く人の環境を厳しくしたり、企業の成長を阻害したりしています。

そうした問題を業界全体で解決すべきだと立ち上がったのが一般社団法人運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)です。今回はTDBCで代表理事を務める小島薫(こじま・かおる)さまと事務局長・理事を務める鈴木久夫(すずき・ひさお)さまにお話を伺いました。

TDBC設立のきっかけ

大里:「まずは、お二人のご経歴と運輸デジタルビジネス協議会について伺っていきたいと思います。」

小島:「私は、2004年にウイングアーク1st株式会社(以下、ウイングアーク)に入社しました。ウイングアークでは当初、技術系の仕事に就き、Dr.Sum(ドクターサム)やMotionBoard(モーションボード)などBIツールの事業責任者を担当。それから、執行役員、CMOに就任し、縁あって運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)の設立に事務局長として参画し、一般社団法人化した際に代表理事に就任、本年5月1日からはほぼ協議会専任として社長直下で活動しています。前職もIT系企業で、同様にマーケティングや技術系の担当執行役員をしておりました。」

鈴木:「私はIT系の会社で20数年勤務した後、組織コンサルンティングの会社で7年ほど務めていました。その時にTDBCの立ち上げに関わり、そのままウイングアークに転職。現在はTDBCの仕事を中心にしております。」

大里:「TDBCの設立から何年が経ちましたか?」

小島:「もとの任意団体は2016年の8月9日に、一般社団法人化したのは2018年の6月8日ですので、ほぼ丸3年になります。」

大里:「設立前の段階から、TDBCの構想があったと伺っています。」

小島:「構想と言いますか、設立のおよそ2年前から準備会が発足しています。きっかけは、設立の翌日に亡くなられましたが、名古屋にある株式会社フジタクシーグループ(以下、フジタクシー)の代表取締役会長を勤めていた梅村さんの一言からでした。フジタクシーさんはもともとウイングアークのお客様で、当社のツールを利用してデータを積極的に活用することで、事故の削減や乗務員の数字に対する習慣を確立するなどの成果を上げていただき、事例としても公開させていただきました。弊社は年に一回、WingArc Forum(ウィングアークフォーラム)という大規模なイベントを開催していますが、そこに登壇いただいたことをきっかけに、当時、ウイングアークの代表を務めていた内野と梅村さんのコミュニケーションが始まったのです。

フジタクシーさんは、タクシー台数500台以上を誇る中堅のタクシー事業者ですので、何か課題があっても自社でのIT投資によって解決することができます。しかし周りを見渡せば、中小零細企業や個人タクシーが山ほどいる。環境の変化や法令の変更といった問題は会社規模に関係なくふりかかってくるものですが、それを1社ごとに解決していては、お金もかかるし非効率です。もともと個人タクシー等の支援もされている方でしたので、この点に課題感を感じられたのでしょう。梅村さんから内野に『中小零細企業も含めて、運輸業界全体の課題をもっと効率的に解決できないだろうか』という相談をいただいたのです。話を聞いた内野は、コンソーシアムという形でみんなが集まって議論し、課題解決をしてはどうかとの話になり、その場にたまたま居合わせた私が事務局を担うことになりました。」

大里:「そのような経緯で設立されたのですね。」

小島:「ウイングアークのお客様には、運輸事業者も多くいらっしゃいます。理由は、私たちのビジネスが帳票からスタートしているためですが、運輸業界ではモノと伝票が一緒に動きますので、取引においては伝票が不可欠で、その伝票データにも非常に大きな価値があるのです。ですので、佐川急便株式会社さんや西濃運輸株式会社さんはウイングアークの大規模な事例として公開させていただいており、TDBCにも佐川急便(SGホールディングス)グループのSGシステム株式会社さんには設立以前から参画いただいています。
このように、ウイングアークと物流業界は切ってもきれない関係ですので、私たちとしても業界をご支援することで、お客様へのご恩返しができるのではないかと思っています。」

業界全体で課題を捉え、解決すること

大里:「地方の企業や中小企業でもウイングアークのソリューションを導入されている企業様はいらっしゃいますか?」

小島:「地方も都心も関係なく、比較的中堅以下の企業は紙やエクセル文化がまだ根強く残っています。しかし運輸業界を前進させる第一歩として、まずはこの点を解決すべきです。なぜなら、管理するものが多い業界だからこそ、自動化することで本来の業務に集中すべきだと思っているためです。実際に近年発生した宅配事業者の再配達問題から軽井沢のスキーバス事故まで、運輸業界の問題が一般の方々も巻き込むような社会問題へと発展する可能性もありますから。

TDBCではテーマごとにワーキンググループを作って活動しており、先ほど挙げた紙やエクセルでの管理方法については、昨年度の活動の中でもWG05A「先端技術による業務の効率化」のワーキングループがテーマに掲げて取り組んでいました。」

大里:「TDBCの特徴は、グループで課題を解決するところですよね。情報共有して終わりではなく、解決しなければならないビジネス課題と社会課題が目の前にあるからこそ、アクションを伴わなくてはなりません。」

小島:「基本的な課題解決方法は、問題箇所を専門企業に依頼して解決するという、IT業界でいうところのSIerモデルと同じイメージです。この場合、開発費は1社が負担することになりますが、依頼された会社は自社の強みを活かした提案に偏ってしまいますし、この方法には限界があると思っています。

課題を議論していても、そこに解決できる人たちがいなければ、情報を共有して、共感して解散して終わりです。TDBCは課題を持つ人たちとともに、さまざまな技術や解決策を持つ人たちも参加しますので、彼らが一箇所に集まって議論すれば、課題に対するさまざまな解決策の仮説を立て、実際に事業者の協力を得て実証実験を行い、それを評価して、具体的に実践可能な解決策に繋げる。それがTDBCなのです。」

大里:「事業者とサポート企業が一緒に参加するというのは珍しいですよね。参加者が増えると取りまとめが大変だと思うのですが、いかがでしょうか。たとえば『電子化したい』という課題があっても、事業者側によって日報業務、帳票、走行ルート、と電子化したいものが異なるケースもありますし、サポート企業もなるべく自社の技術やツールで解決したいと思うのでは。」

小島:「競合のベンダーも数多く参加されていますので、企業間の調整や優先しなくてはならないソリューションなど、議論の中で何か別の問題が起きるかもしれないということは私たちも想定していました。しかし、意外なことに、そうした問題は何も起きませんでした。また、事業者側も自社の課題だけではなく、業界全体での課題感を論じるケースが多いと感じています。

ワーキンググループの中には、テーマをさらに深掘りしていくケースもあります。例えば、「乗務員の健康増進」のテーマですが、睡眠不足やこの業界の職業病と言われています腰痛や眼精疲労やそれに関する疾病など、健康一つとっても非常に幅広いですよね。

そうした場合はワーキンググループの中でさらにサブチームを作っています。細分化していくとそれぞれの分野で強みを持つ企業がいますので、具体的に課題を持つ運輸事業者との連携で課題解決のために実証実験が進められます。」

注力すべきは「標準化」と「規格化」

大里:「以前、鈴木様と話した際に、共通の規格を作っていくべきだという話が出ました。事業者側が共通のしくみやデータ形式にしていかなくては、負担が大きくなってしまいます。」

小島:「ソリューション提供側が自社の仕様で作ってしまうと、それを使う事業者側はそこに合わせなければならなくなってしまいます。たとえば、A社のデジタコを使っていたけれど、価格的に見るとB社のデジタコの方が安いので変更したい。しかし、A社のデジタコでシステムを構築されているので、B社のデジタコが導入できないとか。また、A社のデジタコからB社のデジタコに乗り換える場合も、データを横断的に使いたいですよね。それが標準化や規格化を統一すべきだということにつながるのです。

3,4年前からAPIエコノミーやAPIビジネスという言葉が出てきましたが、日本はまだまだ規格化が遅れていると感じます。」

大里:「大手企業であれば、業務に合わせてSIerと共にスクラッチ開発で作り込むことができますが、中小企業であれば、予算も限られていますし難しいですよね。」

小島:「標準化や規格化は、最低レベルの効率化にはなると思います。というのも、標準化された規格やAPIを利用して、各社が必要としているアプリケーションを自社1社のためだけに作るのはすごく無駄だからです。

昨年、経済産業省が『DXレポート 〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜』を昨年9月7日に発表しました。このレポートでは、日本が今後直面する問題について語られています。既存システムが、事業部門ごとに構築されており、さらに過度なカスタマイズがなされていることにより、複雑化・ブラックボックス化している。また、IT予算の8割以上が既存システムの維持・保守業務に費やされている。

デジタルトランスフォーメーションを実施する以前に、ブラックボックス化してしまっているこの問題を解決すべきだと。そうでなくては、2025年に日本は大変なことになってしまう−−それを『2025年の崖』と表現しているのです。

これは2025年にSAP社のERP(Enterprise Resource Planningの略。日本語では総合基幹業務システム)がサポート終了になることも大きな要因になっています。SAP ERPは日本国内においても大手企業を中心に、約2,000社で導入されており、その規模も大きい。そこで、経済産業省はDXレポート内で、ITシステムの刷新においては膨大なコストと時間がかかるため、企業の競争力に関わらない協調領域については、個別にシステム開発するのではなく、業界毎や課題ごとに共通プラットフォームを構築し、みんなで利用することで早期かつ安価にシステム刷新につなげることができるとしています。

また、この共通プラットフォームの検討の進め方の1つとして、「業界団体が共通化を進める旗振り役となって議論を進める方法」を挙げています。

TDBCは課題解決を行う業界団体ですので、イニシアチブを取りながら推進していきたい。それは国も考えていることですし、物流に関連するどの企業も同じようなことを考えているはずです。ですので、ワーキンググループの中でこれらの問題の解決策、共通プラットフォームを創っていければと考えています。」

>>>後編へつづく

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