将来はテスラ社の全車に自動運転システムを搭載
アメリカ時間の2016年10月19日にポストされたテスラ社の公式ブログによると、「将来はテスラ社が生産するすべてのクルマに、完全自動運転に対応するハードウェアを搭載します」という旨のコメントがありました。
まだ安全性への議論が冷めやらぬ中での公式発言のため、オートパイロットの技術力に対して、いかに自信を持っているかが伺えます。
その自信に裏付けられるように、主力製品である「モデルS」も進化しています。過去に1台であったサラウンドカメラを8台に増やし、360度の視界と最長250mまで先の対象物を認識することが可能となりました。アップデートされた12個の超音波センサーも、以前のバージョンより約2倍の距離まで物体を検知することができるようになり、カメラと同様に安全性を高める取り組みが行われています。
また、搭載する新型車載コンピューターも、前世代の40倍の処理能力を持つため、運転の際に得られるすべてのデータを詳しく分析することが可能です。
特にフォワードフェーシングレーダーは「霧・塵・豪雨・雪」などの気象状況にも対応力を発揮し、車両の下を通ることができる波長を採用しているため、前方で走るクルマの検知が更に容易となりました。これらは人間に感知できない部分まで道路状況のデータを得られるため、テスラ社の安全性や利便性の向上に対する熱意の凄さを伺い知ることができます。
クルマ周りのハードウェアが進化したことにより、今後は内部システムであるソフトウェアの改善がカギとなるはずです。
モデルSに搭載するオートパイロットのシステムも、プログラムのアップデートが頻繁に行われているため、安全性に対する取り組みは更に加速すると予想されます。「テスラ社のすべてのクルマを自動運転化する」という到達点は、ハードウェアとソフトウェアの進化により、現実味を帯びてきた形となりました。
強気な発言が目立つイーロン・マスク氏
オートパイロット搭載車が死亡事故を起こした後も、テスラ社のCEOであるイーロン・マスク氏は、決して開発を中断するような姿勢を見せませんでした。マスク氏の目標は「無人でクルマが走る状態」、すなわち自動運転技術の指標である”レベル5”に到達することです。
レベル5は「複雑な状況下にある街中でもスムーズに走行し、人が乗っていない状態でも自動的に運転してくれる」状態を示しており、公の場でも「2017年後半にロサンゼルスからニューヨークまで、ハンドルに触れずに横断するシステムを開発する」と豪語しているため、もし達成できれば世の技術者の度肝を抜くことは間違いありません。
ここからは、マスク氏が語るオートパイロットの安全性に対する取り組みと、ハードウェア・ソフトウェアの技術進化について、それぞれ簡単にみていきましょう。
カメラ搭載数の増加により物体の検知能力を更に高める
上述したように、従来は1台であったサウンドカメラを8台に増やし、対象物の検知を高める取り組みが行われています。カメラのタイプも「フォワード・サイド・リア」のすべてに搭載し、特に前方を視認する役割を持つ”ナローフォワードカメラ”は、最長で250m先の物体を認識することが可能です。
様々な状況に対応する”メインフォワードカメラ”でさえ最長視認距離が150mとなるため、懸念されていた前方向の衝突対策が着実に行われていることが実感できます。
また、このフォワードカメラも「ワイド・メイン・ナロー」と3つのタイプに分かれており、メインとナローとは違うレンズを搭載する”ワイドフォワードカメラ”では、魚眼レンズの効果により120度の広い視野を維持しながら信号機や障害物、割り込み車両などの近距離にある物体を検知します。
自動運転システムの最重要課題である「都心部での低速運転」を解決するためにも、広い視野を持つカメラは非常に重要な役割を持つはずです。
このあたりのより詳しい仕組みについて関心がある方は、テスラ社の公式サイトもチェックしてみてください。
システム開発を手掛けていたイスラエルの会社との契約を打ち切り
テスラ社はオートパイロットのシステムに部品やソフトウェアなどを提供していた、イスラエルの会社である「モービルアイ」との業務提携を打ち切りました。
モービルアイが製造していた部品は車載カメラなどがあり、オートパイロットの中核となる技術の大半を請け負っていたと言われています。マスク氏が提携を解消した原因は、やはり2016年の5月に起きたオートパイロットによる死亡事故であり、見解の不一致があったと後にコメントしました。
お互いに最新の自動運転システムを手掛けている以上、どちらが主導権を握るのか議論となっていた可能性もあり、モービルアイの最高技術責任者であるアムノン・シャシュア氏も「我々の開発した技術がどう活用されているのか知る権利がある」と語っていましたが、その熱意はマスク氏によりシャットアウトされたようです。
モービルアイは日産やBMWなどにも運転アシスト技術を提供していたため、マスク氏は多数のモデルをサポートしているビジネスのやり方にも不満を感じていたとのことです。この件については、ウォール・ストリート・ジャーナルでも詳しく紹介されています。
オートパイロットのソフトウエアは自社開発に切り替える
著名なハッカーであるComma.aiのジョージ・ホッツ氏は、テスラ社がモービルアイと提携を解消したとしても、ほとんど影響はないだろうと予測しています。また、マスク氏も優れたソフトウェアを開発する環境は整っているとコメントしており、半導体メーカーで有名なAMDから優秀なエンジニアであるジム・ケラー氏を引き抜くなど、オートパイロット・システムを更に向上させる投資を行っています。
ケラー氏はAMDでAthlon64プロセッサーの開発リーダーとして活躍していた時期もあり、まさに天才と呼ばれている人物です。後にAppleのiPhoneに搭載するA4・A5チップも手掛けることになるため、同じ半導体メーカーとして有名なIntelを脅かす存在として注目を集めていました。
ケラー氏はテスラ社のハードウェアエンジニアリング部門の副社長に就任し、どの企業でも実績を残せるその手腕により、今回も優れたシステムが生まれるのは時間の問題だと予想されています。
走行データの収集に努める
現在のマスク氏は、自動運転システムを普及させるため、アメリカ各州の規制解消に向けて動いている状態です。
アメリカの法規制による壁は思った以上に高く、これが原因でGoogleやAppleも自社開発による自動運転カーの開発を事実上諦めることになりました。自動運転システムに寛容なミシガン州でさえ、運転席の無いクルマを公道で走らせることは自動車メーカーだけに限定しており、IT企業であるGoogleでは公道試験すら行うことが難しくなっています。
一方で自動車メーカーであるテスラ社は、公道試験を繰り返して走行データ収集を積極的に行うことで、規制当局の懸念を解消しようと躍起になっているのが現状です。
走行データの分析は事故率の軽減に繋がるため、5月に起きた死亡事故のイメージを払拭するためにも、重要なアナリシス・カテゴリーとして研究を続けています。すでに膨大な走行データを所持しているテスラ社ですが、今後も収集・分析を活性化させることで、より事故を無くせるシステムを開発することができるはずです。
将来、レベル5の到達は十分可能と発言
マスク氏は5月に起きた死亡事故について、エレベーターを例えに出してその心情を語っています。
「エレベーターの大手メーカーであるオーチスが、全世界の製品に対して全て責任を負うことはできないはずだ。オートパイロットによる事故が起きた場合の保証は、我々ではなく自動車保険の対応に委ねられる」とコメントしており、死亡事故に対しても、今後の技術力の改善が何より大切だと考えているようです。
目標はあくまで無人運転が可能なシステム性能である”レベル5”の段階であり、今の状況には決して満足していないのでしょう。人間の手を介している以上は、自動運転指標であるレベル2の脱却は永遠に不可能となるため、その苛立ちは先にも述べた「2017年の後半には、ロサンゼルスからニューヨークまでハンドルに触れずに横断してみせる」という言葉に表れていると感じ取れます。
今後は車両のコストダウンと信頼性の回復に尽力
モデルSには「価格」というもう一つの懸念材料があります。
どの車種も高額で一般庶民には手が届かない価格帯のため、今後は車両のコストダウンに努める必要もあるでしょう。未だベールに包まれている大量市場向け低価格車「モデル3」ですが、搭載する電池エネルギー密度を増加させることにより、コストの削減に成功しているようです。
また安全性に関しても万全の状態で市場に投入し、マスク氏は「安全性評価で5つ星ではなく、すべてのカテゴリーで5つ星を獲得する」とコメントしています。
当然ながら、モデル3はオートパイロット・システムにも対応。日本はすでに自動運転システムで公道を走ることが可能なため、モデル3を購入すればすぐに試すことが可能です。すでにモデルSが日本の高速道路を走っている動画などが散見されるため、モデル3が市場に投入されれば、公道を走るドライバーが更に増えるかもしれません。
価格も「$35,000 USD~(約402万円~ ※2016年12月14日現在)」とのことなので、より身近な電気自動車として世界を沸かせるはずです。
モデルSの死亡事故から学んだ教訓
マスク氏がモデル3を大々的に発表したのは2016年3月31日なので、オートパイロットによる死亡事故が起きていない時期でした。その2ヵ月後に悲惨なニュースが飛び込んできたため、この技術分野もまだまだ順風満帆とはいかないようです。
今後は信頼性の回復、法律の改正、車両のコストダウン、ソフトウェアの改善などやることは山積みですが、ここ2、3年による自動運転システムの躍進はほとんど「奇跡」と呼ぶに相応しい状態だと考えられます。
特にテクノロジーの更なる変革期を迎える2020年に、今のテスラ社がどれだけ自動車業界の中心にいるか、その動向に注目が集まっています。