新しい都市型モビリティ・コンセプト「Urbanetic」とは

新しい都市型モビリティ・コンセプト「Urbanetic」とは

自動車メーカーをはじめ、家電・半導体メーカーなどが先進車載技術を持ち寄り毎年開催される技術展示会「CES」では、モビリティの未来を牽引するであろう自動運転やEVが、これまで自動車業界での最新トレンドとされてきました。しかし、今年1月8日から11日まで米・ラスベガスで開催された「CES2019」において、メルセデス・ベンツが披露した次世代EV「Version Urbanetic」は、都市型モビリティに独創的な価値観を取り入れた意欲作として、各業界に大きな衝撃を与えました。
今回は、同社が提案する全く新しい未来のクルマUrbaneticとは何か、誕生までの経緯とコンセプトや具体的な特徴・機能を整理したのち、モビリティをどのように変化させるパワーを秘めているのかを考察します。

Urbaneticとは~その誕生経緯とコンセプト~

Urbaneticとは完全自動運転が可能なEVです。同様の機能を有するコンセプト・カーはすでに登場していますが、それらは人もしくは物資の「どちらか一方」を輸送するよう設計されています。一方、メルセデス社が打ち出したUrbaneticは、自動運転システムが搭載されたシャーシの上に、乗客用モジュールや貨物モジュールを乗せ換え、人が移動するのかそれとも荷物を運ぶのかという双方の用途に応じた運用が可能な、ボディー交換式EV自動運転車です。

UrbaneticはEVによる自動輸送ソリューションの研究過程で誕生したものであり、今後すぐに量産体制を構築し市場へ投入する計画はないとのこと。ですが、1つの自律走行プラットフォームの上に、交換可能なモジュールを使用する斬新なアイデアはおそらく世界初で、1台の車両から最大限の効率性引き出せることから、交通量減少による渋滞緩和、限りある自動車製造資源の節約、EV普及に伴う排ガスの減少、自律運転によるドライバー不足の解消など、人員・物資運搬に関わらず、現代モビリティ社会が抱えている諸問題を解決に導くコンセプトとして、世界中で注目が集まっているのです。

Urbaneticの特徴と機能~絶えず稼働するモビリティ・サービスへの進化~

Urbaneticは斬新かつ世界初と述べたものの、同一のEVパワートレーンを搭載したシャーシを、複数のボディーと組み合わせるアイデアそのものは、製造の効率をアップしコストを下げるのに効果的であることから、他の自動車メーカーでも推進されています。Urbaneticが画期的なのは、「モビリティ・ハブ」と呼ばれる基地間を、モジュールが搭載していないシャーシがAIによる自動制御で行き交い、かつ数人のメカニックによって短時間で用途に併せた載せ替えがリアルタイムで行える点です。

また、人を運ぶためのモジュールには、最大12人が余裕をもって乗車できるスペースが確保されているため、ライド・シェアへの導入が進めばユーザーを安全かつ確実に輸送する「次世代都市型モビリティ」の中核を担う存在になりえるでしょう。加えて、貨物モジュールの容量は約10立方メートルで上下2層に区切ることが可能なため、最大10個のユーロ・パレット(W1200mm x L800mm x H144mm)の貨物を運搬できるEV自動運転トラックへと変化します。

朝のラッシュアワーに通勤・通学ユーザーを送り届けた後、貨物モジュールへ変更して数時間配送業務をこなし、夕方の帰宅時間には再び乗用タイプに戻り、夜間から朝までは休みなく荷物を運搬するトラックとして運用するなど、獅子奮迅の活躍が期待されます。充電・メンテナンスに要する時間を除くと、止まらないモビリティとして運用可能なUrbanetics。過去100年間ビジネスにほとんど変化が生じていない、自動車業界を一変する可能性を秘めたコンセプト・カーなのです。

トヨタ自動車が提唱した「e-Palette」も同様のコンセプトではあるが・・・

前述したメルセデス社を含むすべての自動車メーカーは、乗用車と貨物バンを別々に製造・販売することで利益を上げ、巨大企業へと成長しましたが、世界中の都市は深刻化する交通渋滞と大気汚染の減少・緩和を急いでいます。

Urbaneticは、「より少ない車両でより多くの人と物を輸送する」ことを想定したコンセプトであり、実用化されれば一気に諸問題を解決へ導くコンセプトですが、それと同時に自動車メーカーのビジネス・ボリュームを大幅に縮小させかねない諸刃の剣でもあります。メルセデス社が、Urbaneticの量産と市場投入を計画していないのはそのためで、他メーカーもEV自動運転車の開発・普及に向けての動きは積極的ですが、車の流通量を減少させる取り組みへ、膨大な資金と時間を費やす余裕がないのが現状です。

そんな中、トヨタ自動車が2018年に発表した「e-Palette」は、メルセデス社を傘下に置くダイムラー・グループ以外では唯一、1台の車両を「多用途運用」することにより、都市交通インフラのコンパクト・シームレス化を目指す、極めて類似したコンセプトです。Urbaneticに先駆けCES 2018で展示されたe-Paletteは、全長4,8m×全幅2m×全高2,25mのミニバスサイズの自動運転EVで、低床・箱型デザインにより広大かつ、バリアフリーでフラットな空間が特徴。

そして、単なるガソリン車の代用品ではなく、人員移動用のライドシェア仕様をはじめ、デリバリー、移動ホテル、移動オフィス、リテールショップといった、サービスパートナーの用途に応じた設備を搭載することができます。驚くべきは、Uber・Didi・Amazon・ピザハットとすでにパートナーシップを締結していること。

出典:トヨタ自動車

UberとDidiは当然ライドシェアでの利用となるでしょうし、Amazonやピザハットはドライバー不足の解消を可能にするため、具体性と実用化に向けての「スピード感」で言えば、Urbaneticより勝っているとさえいえるでしょう。移動ホテルや移動オフィスが登場すれば、これまで移動に費やしていた時間を有効活用できるようになりますし、AIによる緻密なデータ解析でセールスが期待できる場所へタイムリーに移動するリテールショップが実現すれば、効率も上がり売上アップにもつながるはず。

このコンセプトの実用化によって、トヨタは「クルマを売る会社」から「移動サービスを売る会社」への変貌を目指しており、e-Paletteはそれを実現するだけの高いポテンシャルを有しています。

しかし、いくつか弱点も。将来的にe-Paletteは全長4~7mの3サイズがラインナップされる予定ですが、いずれにしても中・大型車両でありマツダと共同開発したEVや、数多くの先進自動運転技術が投入されているため、想定される提供価格が極めて高額になることが予想されます。現実的には、一般ユーザーや個人事業主単位での導入は難しく、大企業もしくは地方自治体レベルでの普及しか進まないと予想されるため、自動車業界全体を巻き込むイノベーションまでは一歩届かないかもしれません。

さらに、トヨタは東京オリンピック・パラリンピックに併せ、選手村を巡回する定員20名の「e-Palette・2020年仕様」を、今年度の東京モーターショーの自社ブースに展示予定です。最高時速19kmの低速自動運転EVには身長2mを超えるアスリートが悠々と乗車でき、車椅子ユーザーも4名がスムーズに乗降できるとのことですが、裏を返すとこれが現時点での限界とも言えるかもしれません。選手村という限定的かつ部外者が立ち入れない範囲にとどまっているうえ、時速20kmに満たない最高時速と150kmとされている航続可能距離では、とても忙しい都民の足替わりを担えると言えないでしょう。

大会が終了すると選手村は解体され、分譲マンション用地などに再利用されますから、現在公表されている投入範囲・スペックに留まった場合、同コンセプトはスポーツの祭典を彩るイベントの1つになりかねない場合も。

通信業界における「5Gへの移行」をイメージしていただきたいのですが、5Gを利用するには対応機種が必要ながら、4G・LTEサービスも継続提供されるため、非対応機種でもそれほど不便さを感じることはありません。言ってみれば、モビリティにおいて多くの車種で実用化されている「EV自動運転」が4G・LETであり、Urbaneticはそれに「モジュールの載せ替え」というちょっとした工夫を加えることにより、5Gに当たる新サービス「MaaS」へ移行する地ならしができるもの。

一方、トヨタはe-Palette・2020年仕様を通じ蓄積したデータを活用し、様々なモビリティ・サービスに対応するe-Paletteの開発を進めるとしていますが、交通インフラが整備されている都市部において、思惑通りに普及するかは今後の見所かもしれません。

総論!Urbaneticはモビリティの未来をどう変えていくのか

e-Paletteと異なり、Urbaneticの「モジュールを乗せ換える」という考え方自体はいたってシンプルですし、導入コストが断然リーズナブルで済むうえ汎用性も非常に高いと言えるでしょう。コンセプトの根本にある空っぽのEV自動運転シャーシは、車体開発・製作費を大きく削減することもできるうえ、車両制御センターによって取得されたデータをリアルタイムで分析し、ニーズに基づいて効率的に配車・ルート設定をするシステムも組み込まれています。

この配車・ルート設定システムはITモバイルとの連動も可能なため、ユーザーはスマホで配車スケジュールを確認し、時間に併せてモビリティ・ハブへ向かえば、渋滞を避けた最短・最速ルートでの移動ができるようになります。また、Urbaneticのモビリティ・ハブは、そのまま物流の集配基地として利用できるため、同業界が抱える人員不足解消や業務効率化による運営コスト削減、さらに荷物到着時間や受取確認・決済まで、通信モバイル1つで完了できるようになる可能性も秘めています。

サイズ的に融通が利きやすいので、モジュールのバリエーションさえ増やせば人やモノの休みない大量輸送だけではなく、ラストワンマイルを解決する糸口ともなりえるのです。マクロな視点で開発が進んでいるe-Paletteより、ミクロな観点で研究が進められている、独・ダイムラーグループのUrbaneticの方が、実は国内の交通事情にマッチしているのかもしれません。

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