旅客機や新幹線を活用した貨客混載輸送・最新の事例

旅客機や新幹線を活用した貨客混載輸送・最新の事例

旅客と貨物の掛け合わせによって、より効率的な輸送を実現する「貨客混載輸送」。慢性的な人手不足と長時間労働など、解決が困難な課題が山積み状態の物流業界にとって、生産性向上に繋がる有効な方法だと考えられていますが、地方で生産された生鮮食品類などを都心に運ぶ、地域活性化に寄与する仕組みとしても期待されています。

本記事では貨客混載を課題解決へと活かした最新の取り組みをご紹介します。

貨客混載輸送とは

貨客混載とは、宅配業者がバスや電車、フェリーなどの旅客機と連携して貨物を運ぶ、または貨物を輸送するトラックなどで人を運ぶ、つまり、貨物と旅客を合わせて行う形態のことを言います。公共交通の空きスペースを友好的に活用することで、CO2や輸送コストの削減、物流業者の業務効率化、サービスレベルの向上、人手不足の補充、コスト削減など、多くのメリットがあると考えられています。

貨客混載は2010年、環境負荷の低減、都心部における交通渋滞の解消を目的に、札幌市で地下鉄を利用した宅配便の拠点間輸送の実証実験が行われ、そこから国内でも少しずつ普及が始まりました。近年、課題となっている物流・配送業界では慢性的なドライバー不足を受け、政府は今まで旅客と貨物に二分してきた運送事業を見直し、2017年9月、バスやタクシー、トラックが旅客と貨物を同時に実現し、効率的に荷物が届けられるよう規制を緩和。それにより、限られたマンパワーを活かした効率的な輸送方法として、貨客混載輸送の取り組みが全国に広がりつつあるのです。

コロナ禍によって広がりを見せる貨客混載輸送

2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、国内外の航空便は大幅減となりましたが、航空貨物運送協会の統計では、2020年11月、日本から輸出貨物は前年比7割と発表されています。一般的には人々の移動が大きく制限され、ビジネスの動きが滞っているに感じますが、数値で見るとたった3割減であることに驚く方もいるかもしれません。これは、旅客機で貨物の輸出入が行われているためです。

本来、飛行機は利用用途によって貨物機と旅客機の大きく2種に分かれていますが、旅客機と言っても、すべての機体の胴体部分には旅客用の手荷物をスペース、郵便物を入れた袋、一般貨物など、貨物が搭載可能なスペースが設けられています。また、座席を取り外せば旅客部分に貨物を搭載することも可能に。そのため、表向きでは旅客機ですが、すでに貨物を積んでいることになるのです。大韓航空は、この貨客混載輸送を柔軟に取り入れたことで、コロナ禍でほとんど人を乗せていないにも関わらず、大きな収益を上げることができました。スピーディかつフレキシブルな方向転換により、成功した事例だと言えるでしょう。

貨客混載の最新事例

貨客混載輸送は航空機だけに留まりません。スペースを有効活用できれば、電車やバス、タクシーなどを活用して貨客混載輸送を実現することができるのです。

実際に、日本国内ではどのような取り組みが実践されているのでしょうか。最近では新型コロナウイルスの感染拡大により、新幹線やローカル線の利用率が激減していますが、地域の交通を守るために、そして維持し続けるためにさまざまな貨客混載のとり組みが始まっています。

廃線を防ぐために〜神姫バスの事例

兵庫県の姫路氏を拠点とし、路線バス、高速バス、リムジンバス、観光バスなど、バスを活用したサービスを展開している神姫バス株式会社。同社は、兵庫県三田市北部の山間部において、1月から週に2回ほど、乗客と地元で取れた新鮮な野菜を一緒に運ぶ貨客混載輸送の実証実験を開始しました。

コロナによって経営が落ち込む中、地域と共に新たな収益化モデルを探ろうとしています。この地域では、高齢の住民が多く、バスはなくてはならない交通手段です。国土交通省によると、路線バスの乗客はここ50年ほどで6割減、事業者のおよそ74%が厳しい経営状況であると言います。この取り組みでは、JAと定型詩、収穫されたばかりの野菜を人と一緒にJA直売所がある最寄りのバス停まで輸送します。輸送手段の確保、そしてそこで暮らす人々の重要な足として、地域の課題解決に取り組んでいるのです。

スピーディかつ有効な輸送を実現〜佐川急便とJR九州の事例

佐川急便とJR九州は昨年8月、宅配郵便物を九州新幹線で運ぶ貨客混載事業の協業を発表、2月24日より実証実験を開始しました。新幹線の活用による輸送効率の向上が狙いで、実証実験の結果を通して事業化に向けた検証を行うとのこと。

この実証実験では、佐川急便が鹿児島県指宿市のいぶすき農業協同組合から集荷した野菜を鹿児島中央駅〜博多駅間の新幹線の業務用室に積載して輸送を実施。帰りの便ではダミーの空き箱を輸送しました。スピード感、サービスの頻度を考慮すると、まだまだ未知の可能性を秘めていると言えそうです。

自治体と企業数社がタッグを組んだ福島県の事例

福島県の浪江町、双葉町、南相馬市、3自治体と日産自動車、日本郵便、イオン東北、前輪などの8企業は、2021年2月に「福島県浜通り地域における新しいモビリティを活用したまちづくり連携協定」を凍結しました。自動運転や貨客混載の実現に向けた公共交通、荷物配達サービスの実証実験を2月8日から開始しています。

同地区は東京電力福島第一原発事故によって人口減少が著しく、さらには高齢化が大きな課題になっていました。人々の暮らしを維持し続けるために、移動手段と物流を目的とした取り組みが進められることに。この実証実験では電気自動車を使い、道の駅なみえを交通の拠点にしてスーパーマーケット、町役場、JR浪江駅、などをシャトルが走行。道の駅と利用者の自宅間はEVタクシーが送迎します。イオン浪江店などから自宅や道の駅に荷物を届けると同時に、乗客を運ぶ貨客混載の有効性を検証するとのこと。

利便性だけでなく、地域のコミュニティ活性や災害時における地域のライフラインを強化することも重視して取り組みが進められています。

地域の交通を守り、生活を維持するために貨客混載を活用する

都心部とは異なり、地方部は交通インフラが整っていない場所も少なくはありません。路線バスやローカル線を維持し続けるためにも、ヒトと貨物を効率的に運ぶ貨客混載は非常に有効な方法です。地方部だけでなく、コロナのような世界的危機が今後訪れた際に立ち向かい、公共交通機関が経済成長を維持するためにも、スピーディかつ柔軟にサービスを展開していくべきではないでしょうか。

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