技術が変える物流の未来

技術が変える物流の未来

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井田 哲郎
代表
ナウトジャパン合同会社
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滝澤 志匡
執行役員 コマースカンパニー ロジスティクス事業 ディレクター
楽天株式会社
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藤岡 洋介
代表取締役社長
株式会社モノフル
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西巻 宏
代表取締役 兼 セーフティ & プロダクティビティ ソリューションズ (SPS) 日本・韓国 ゼネラルマネージャー
日本ハネウェル株式会社

インターネット通販の普及による配送物の増加。日々、多くの荷物が運ばれてくるにも関わらず、ドライバーが足りない。そんな「宅配クライシス」が訪れている今、テクノロジーはこの流れをどのように変えることができるでしょうか。

4社が考える物流の課題と現在の対応策

藤岡:モノフルは日本GLPのグループ会社として2017年11月に設立された、物流業界向けのソリューションを開発している会社です。母体となる日本GLPは、日本最大の物流不動産デベロッパーとして現在、約1兆5,000億円近い不動産を運用しており、その中でモノフルは、「すべての人に最適な物流を」をテーマに、あらゆるソフトウェアを組み合わせて、私たちのお客様である物流会社さま、運送会社さまのサポートをすべく取り組んでおります。

私たちが実現したいのは、ロジスティクス・エコシステムの構築です。すべての物流に携わるステークスホルダーにとって共通のプラットフォームになるよう、サービスを提供していきたいと考えています。プラットフォームと言っても、単純にデータを集めるだけではありません。私たちは物流施設を所有、運営しているため、リアルな場所やモノを掛け合わせたソリューションをお客様に提供できるところが強みです。この強みを最大限に活かし、テクノロジーを活用しながらワンストップで物流を支え、さらには特定の企業、特定のサービスに限らず、すべてのプレイヤーと企業を対象にしたプラットフォームになることを目指しています。

物流業界は非常に多くの問題を抱えていますが、他業界でも注視されているデジタルトランスフォーメーションがほとんどと言っていいほど進んでいません。時間通りの配送や効率の良いオペレーションを実現するにはデータとテクノロジーの力が必要ですが、それとは別に、デジタルトランスフォーメーションの前段階、“デジタイゼーション(デジタル技術を利用してビジネスのプロセスを変換すること。これによって効率化やコスト削減が実現可能)”が行われていないことが大きな課題であると考えています。

テクノロジーの融合は、決して簡単に行えるものではありませんので、デジタイゼーションを経てからトランスフォーメーションへと、プロセスを踏んで進めていかなくてはなりません。私たちはそれをどのようにして実現すべきかを考え、次の3つを軸としてサービスを展開しています。

まずは自社で開発するサービスとして、今年の4月にリリースしたトラック簿やトラックのオペレーションを可視化するサービスを提供しています。そして、資本業務提携をさせていただいているスマートドライブをはじめ、さまざまなパートナー企業さまと共に、物流業界を変えていこうと協業しております。スマートドライブが提供しているテレマティクスサービス「SmartDrive Fleet」も、物流業界で活用いただきたいサービスの一つです。そして3つ目がスタートアップへの投資です。

滝澤:私は2000年に大手運輸会社でドライバー職としてキャリアをスタートしました。2015年、宅配クライシスが起こる前夜に退職し楽天にジョイン。現在はワンデリバリー構想で、ラストワンマイルをリードしています。

2017年の宅配クライシスにより配送運賃が高騰し、Eコマースにとって非常に大きな課題が顕在化しました。
ドライバーが足りないがために配送会社からの受注制限がかかり店舗が思うように商品を出荷できなくなりました。
弊社はこのような課題を打破するために、ワンデリバリー構想の実現に取り組みました。これはユーザー、店舗、そして楽天の三社が一気通貫で完結できる仕組みです。

具体的には楽天に出店いただいている店舗様の商品保管から配送までの物流機能を一手に担おうというもので、全国に物流センターや配送センターを増設し、ラストワンマイルの効率化とサービス拡充を着々と推し進めております。

現在は全国に点在する店舗様がそれぞれの宅配会社様に発送しているため、セール等で複数商品を購入されても、在宅時に一度に荷物が受け取れなかったりしております。
また物流は平準化が求められますが、楽天市場でもスーパーセールやお買い物マラソンなどのイベントにより出荷量に大きな波動があります。
そこで、データと出荷作業、そして配送を一元管理することで、複数商品を一括でお受け取りいただくことや配送スピードの向上、そして物流コストの最適化を目指しています。
ラストワンマイルの進捗としては現在配送の人口カバー率約38%、今年中に60%へ引き上げることを目指しています。また、今年10月から店舗に集荷に行くファーストワンマイルを開始しています。

一方で、物流業界は労働集約産業であるため、ドライバー不足という課題も解決していかなければなりません。特に宅配においては再配達の問題が大きくなっており、たとえ1件の不在再配達でもドライバーの労働時間を増やしてしまいます。
ある調査会社の調査によると、2017年には約83万人のドライバーがいましたが、2027年には72万人まで減少すると予想されています。
対して今後のEC化率の向上により生まれていく荷物に必要とされるドライバー数は96万人です、この24万人というギャップをどのように埋めていくか、対策を考えなくてはなりません。

そこで新たな需要を喚起するために、一般の方々のリソースを活用させていただく「クラウドデリバリー」の導入を検討しております。POCで独自開発したアプリを活用し一般の方から配達員を募集して、設定したエリアでの配達を行っていただきましたが正しく配達が完了しました。

更に将来的には無人ソリューションで新たな産業革命を起こすべく、物流に特化したドローン事業にも取り組んでおります。今年度は、日本で初めてのドローン配送を始めました。今後は自然災害などが起きても安全に物資を届けるために、新たなインフラの1つとして考えていきたいです。
また、地上配送ロボットも現在実証実験を重ねています。法律上の問題でまだ公道を利用することはできませんが、今後法改正が進むにつれ街中でもUGV(無人車両)が活用できるようになり、ドライバー不足問題の解決につながると考えています。

西巻:ハネウェルはフォーチュン100社にノミネートされた、インダストリアルソフトウェア企業です。ビジネスの軸は次の4つ。1つ目がエアロスペース事業で、航空機のドアのスイッチからフライトレコーダまでを提供しております。2つ目がビルディングテクノロジーで、温度調節の製品はほとんどが弊社の製品です。3つ目がパフォーマンスマテリアルズという石油精製プラントの管理、生産性管理など、化学製品関連の商品です。そして、本セッションに関連するのは、4つ目であるセーフティ&プロダクティビティソリューションズです。

セーフティ&プロダクティビティソリューションズは、物流から製造工場まで、作業員の安全と生産性を向上する製品、サービスを提供するビジネスです。ここでは資産管理、倉庫内の効率化、エッジデバイス系、アプリケーション、作業員個人の安全を守る作業服、ヘルメット、RFID付きのグローブ、倉庫や物流で危険物や有毒ガスを検知するハンディガス検知機も扱っています。

また、当社のハンディ端末は、振動や水にも強く、物流の仕事に耐えられるぐらい丈夫で、さらにはアプリケーションを開発しやすい設計になっています。つまり、ハードウェア・ソフトウェア両面で長期間安定した業務端末を採用可能にした、Mobility Edgeプラットフォームです。Googleとの強力なパートナーシップ提携により業界最長の製品ライフサイクルを可能に、そして高い柔軟で開発のスピードを速め、スムーズなシステム連携ができるように、アプリケーション開発が行いやすい環境を作りました。OSをWindowsからAndroidへ変更したのもそのためです。長期間安定してご利用いただけるということで、GoogleのEnterprise認定も受けております。それが私たちの売り文句です。

井田:ナウトはアメリカのシリコンバレーに本拠点を置く企業で、2015年設立、2年前の2017年に日本の支社が設立されました。より安全なトランスポーテーションを実現するために、ドライブレコーダーや、データプラットフォームを提供している会社です。

こちらが、私たちのプラットフォームです。左下がドライバーに提供しているドラレコ、右下はドライバーを管理する運行管理者用のアプリケーション。ドラレコから所得したデータと知見を集めて、よりよいロジックを作っていく、そのロジックがある程度完成したらドラレコ製品にアップデートしていく。そのようなサイクルで製品を開発しているのが製品の特徴です。

運行管理者や物流企業の管理者は点呼、健康管理、運行記録、アルコールチェックなどを毎日行いつつ、安全な環境を徹底しなければなりません。それなのにドラレコからSDカードを抜いて管理をするのは非常に手間がかかることです。自社の社員があおり運転をすることもあるし、管理するために様々な端末を車に乗せていればながら運転が加速する。そうした問題を製品で解決したいと思い、開発に至りました。

私たちの車載器にはINとOUTのカメラがついて、INカメラではAIがリアルタイムでドライバーが運転を集中しているかどうかを、OUTカメラは前の車との車間距離を検出します。この車載器にはさまざまなセンサーが付いており、衝撃などの危険挙動が加わった際にこれら3つのコンテクストを組み合わせて、警告を出すべきか、動画をあげるべきか、運行管理者に連絡をすべきか、リアルタイムにエッジ側で処理ができる新しいドラレコです。

我々の人工知能を使ったドラレコではリアルタイムの警告をだすことができます。従来のテクノロジーでは非常にわかりにくいサングラスかけてナビ使っているというものも、非常に正確に、人工知能が検知してその場で警告をして止めさせるということができるようになっています。

リアルタイムの警告を出すことで脇見の回数を減らす、事故を減らす。事故が起きたとしても証拠がしっかりと押さえられますので、保険の請求時間が短くできます。

物流の課題を解決するために乗り越えるべき壁

藤岡:物流業界を変えようとしている4社の取り組みをご紹介しました。ここからはその中でもハードルになっていることを伺えればと思います。

滝澤:物流の課題として人員不足への対応があります。例えばサプライチェーンの現場ではウェアハウスでの人員不足の課題があります。倉庫内は慢性的な人出不足で、店舗様からすればすこしでも早く入庫しないとサイト上に商品をアップできず、売り上げに結びつかない。このようなときにAGV(無人搬送車)や、マテハンを使って省人化・省力化が図れると思っています。またデバイスを活用して誰でも簡単に入庫作業ができるようにするなど、様々な技術を使うことで入庫のリードタイムを減らし、売り上げにつなげる・・・この状態を目指したいですね。
ラストワンマイルで見れば時間がかかっているのは出庫前に行う配送ルートの作成。従来の宅配は荷物が到着した後に地図を元にその日に回るルートを作っていたこともあり、出勤から出発まで1時間から1時間半もの時間がかかっていました。当社はお客様の購入データとお届け先のデータ、両方を持っておりますので、これらのデータからルートオプティマイゼーションを可能にしました。ドライバーが出勤する前に当日の配送ルートが作成できるので、大幅に出勤から出庫までの時間を短縮できます。もちろん、業務の中にはまだまだ人が介在しなくてはならない場面もあるので、すべてをテクノロジーで解決できるわけではありません。様々な物流現場のシーンで活用しながら地道に効率を上げていけるようにしています。

西巻:先ほどご紹介した弊社のハンディ端末は、どの端末を選んでも機種ごとに設定やカスタマイズを行う必要がありませんし、iPhoneやAndroidをベースにビジネス開発ができますので、現場とIT部門の負荷を大きく減らすことができるのです。

現場の業務に携わっている人からすると、使い方が簡単で、一つの端末でいくつもの作業が完結できる方が良い。現場の声、ニーズが何よりも重要だと考えていますので、誰でも・早く・使える製品を今後も提供していきたいと考えております。スマートドライブとのコラボレーションで、デバイスを取り付け、ドライバーの位置情報が瞬時に判るアプリケーションも事例の1つです。

藤岡:井田さんの話の中でも安全が一つのキーワードとして挙がっていましたが、今後、テクノロジーを使ってどのような形で安全を推進すべきか、どこをポイントと捉えているのかを教えていただけますか。

井田:自動運転の普及をみなさんも少しずつ肌で感じられていると思いますが、自動運転が完全に浸透すれば99%以上の確率で重大事故が無くなるだろうと言われています。少しずつ整備されてきてはいるものの、実際にそのような時代が訪れるのはまだ何十年も先の話です。現実に話を戻すとトラックは耐用年数が長く、入れ替えるのに20年〜30年とかかりますので、自動運転の世界が来る前に、人と自動運転が共存する世界が長く続くことがわかる。その間に必要となるのが、“人間の”ドライバーの運転の質を高めるソリューションです。

DXを物流業界で進めるには、私たちのようなスタートアップやテクノロジー企業と、物流業界の両者が少しずつ歩み寄らなくてはなりません。さまざまな技術を試したり、できるところから始めたり、物流業界も今が動きはじめる時です。私たちのようなテクノロジーを持つ企業は、業界のことをよく理解し、できるところから提案していくべきだと考えています。

藤岡:実際にはどのようなご提案をされていますか。

井田:貨物トラックの事業者は運行管理責任者を置くことが義務付けられていますので、私たちも同じように運行管理責任者試験を受けて認定を取得し、業務について勉強しました。業務の大変さ、煩雑さをしっかりと学んだうえでご提案させていただきますので、お客様の大変さも理解できますし、お話がスムーズに進むようになってきました。

藤岡:西巻さんはいかがでしょう。

西巻:メーカーが重視すべきは、現場でお客様がどのような働き方をしているのを理解することです。私も直接、お客様の倉庫に足を運び、現場ではどのように業務が回っているのか、課題はどこにあるのかを自分の目で見るようにしています。そうすることで、まったく想像していなかったような気づきが得られるのです。棚と棚の間をあちこちと動きながらピッキングしているけど、これだけでも時間が多く消費されてしまう。しかし当人は仕事に集中しているので、そこに気づくことがありません。客観的に問題をキャッチし、この状態を何で、どのように短縮できるか、最小の労力、最短の時間で対応するために、何が提供できるか。このような視点で捉え、最適なソリューションを提供するようにしています。

藤岡:先ほど滝澤さんはドライバーが24万人不足するとおっしゃっていましたが、それこそ、デジタルの力が活きてくるのではないでしょうか。

滝澤:現在は各地方の中小企業さまにご協力いただきながら配送していますが、もっと働きやすい環境を整えなくては、適切なドライバーの人数を維持できません。労働基準法で労働時間の上限が2020年より規制されますので、先ほどのルートオプティマイゼーションなどを活用して、一日の中で配達時間を把握し、間接業務をフォローできる体制を整えようと現在取り組んでいます。

世の中には協業の可能性があるお客様が多くいらっしゃると思いますので、たとえば、新聞配達業者とPoC(概念実証実験)をさせていただいたり、異業種とも連携したりしながら、私たちの資金を活用し、ドライバーの採用を強化していきたいですね。

物流改革はマクロではなくミクロから

藤岡:本セッションに登壇された企業はいずれも、物流をもっと効率的に、安全に、稼げる産業にしようと努めてらっしゃいます。安全になれば事故も減らせますから、それだけでもお金に関するインパクトはある。そうやって、コストセンターから確実に脱していけるのではないでしょうか。

楽天さんの構想が実現すれば、誰もがドライバーになれるし、誰もがそれでお金を稼げる。プロのドライバーでなくとも、ナウトさんのドラレコを使えばドライバーの安全を見守ることができますし、安全運転になれば保険料も抑えることができるでしょう。現場ではハネウェルさんのハンディターミナルで効率的に作業ができる。

これらのポイントは、一つ一つがミクロだということ。ステークホルダーが複数いて、それぞれが別のシステムを使っている。つまり、A社とB社のシステム統合ができない中で荷物を運ばなくてはなりませんので、マクロからDXに入るのは非常に難しいのです。ですので、リアルの世界に対して、一つひとつ細かい点からデジタル化を進め、それをじわじわと浸透させて業界全体に伝播するプロセスを踏んでいく。

楽天さんが2,000億円もの資金を投入しているように、一夜にしてデジタル化で世の中を変えるというのは非常に難しいことです。それでも、配送や安全など、部分的にデジタル化を進めていくということで少しずつ解決へ導けると信じています。

滝澤:弊社はデータの活用が前提ではなく、あくまで店舗とユーザーの目線で、経営戦略を立てています。経営戦略をしっかり構築したうえで、そこ対してデータをどのように活用するのかを考えるのです。データありきで進めてしまうと失敗を招きやすくなりますから。

西巻:私たちは作業員の安全を守り生産性を上げることを主眼に置いています。ですので、手を使わなくてもできる、目を使わなくても見ることができる、耳で聞いたらすぐに理解できるようなツールを開発していきたいと考えています。データの活用はまだ先ですが、時代に対応しながら進めていければと。

井田:AIなどの技術を持つ私たちのような企業に要望をいただければ、従来よりもクイックに結果をお出しできるので、PoCから商品化までスムーズに実行できます。壮大なロードマップを描くのではなく、目先にある小さいところからどんどんはじめていきましょう。

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