交通事故は予測できる? 事故や危険運転のマッピングでわかること

交通事故は予測できる? 事故や危険運転のマッピングでわかること

2015年にトヨタグループのトヨタIT開発センターが大阪市と提携、車のビッグデータを活用して危険運転や危険場所を明らかにする実証実験を通して、危険データ分析システムを開発しました。

これが安全運転支援サービスやヒヤリハットマップの作成につながっているとのことですが、こうした危険運転は実際に事故に結びついているのか。事故が多い傾向がある交差点や道では、こういう運転が実際に多いのか。検証してみたいと思います。

ITを使ったヒヤリハットマップの作成

大阪市は、人口に対する割合という面では決して高くは無いものの全国的に見れば交通事故の多い都市です。(平成27年の1年間で12,769件

そこで大阪市とトヨタIT開発センターが協力して実証実験を行いデータを集めて分析した結果、さまざまな交通事故要因が浮かび上がってきました。

例えば出口にたどりつくためにはわずか300mの距離で4車線をまたぐ必要のある、阪神高速環状線の池田付近など「難しい合流地点」。

スマートフォンや傘を使った「ながら運転による自転車事故」。

幹線道路の抜け道として「生活道路を暴走」するような車も交通事故の原因となっており、それがスクールゾーンである場合にはさらに危険度が上がるとされています。

こうした検証結果から作成されたヒヤリハットマップに従って今後の対策が検討されていくことになりますが、そこでひとつの疑問が投げかけられました。

急ブレーキは危険運転?急ブレーキ地点は危険場所?

それは「急ブレーキとは本当に危険なのか。そして急ブレーキ地点とは、本当に危険な場所なのか。」という疑問です。

一般的に、「急発進、急ブレーキ、急ハンドル」は危険な運転として戒めるべきものとされています。しかし、こと危険回避動作としては、急ブレーキや急ハンドルを行ったからこそ回避できる事故もあるでしょう。

そのため、これらは必ずしも悪い運転とは限りません。むしろ急ブレーキや急ハンドルによる回避が必要になる状況、その過程や原因が一番の問題では無いか、というわけです。

危険運転の定義

法律によると危険運転とは「自動車の運転により、人を妨害・死傷させる行為」と定義されています。(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)

その意味においては、危険回避のための急ブレーキ、急ハンドルは含まれませんが、そうでない場合は逆に周囲を危険に晒しかねません。

他にも急発進や、車内機器の操作や同乗者との会話(もちろん携帯電話も含まれる)で集中力が低下している場合、体調不良の場合、速度の著しい超過などが、「人を妨害・死傷させる行為」に繋がるでしょう。

これらは車載機だけでなく、スマートフォンの加速度センサーなどでも検知しドライバーへリアルタイムで知らせることも可能です。

また、走行している場所によってはより高い集中度が必要な場所もあるので、それもまたGPSなど位置情報と連動して注意を促せるでしょう。

実際、カーナビの中には地図データだけではなくヒヤリハットデータを組み込み、そこに差し掛かると警報を鳴らす製品もあります。たとえば見通しの悪いカーブに差し掛かると、「!」のマークと共に、警告をしてくれるカーナビなどです。

見方によっては、高速道路の分岐や合流を示すアナウンスなども、それに当たるでしょう。

危険な場所の定義

危険な場所については、事故が起こりやすい危険箇所として国土交通省により「死傷事故率が高く、または死傷事故が多発している交差点や結節路」と定義されています。

ちなみに警察の場合は「踏切・坂道・カーブ・交差点・トンネルの前後・路上駐車が多い場所、雨、雪、霧の影響を強く受ける道路」と定義しており、より範囲が広いです。

警察の場合は一般論、国土交通省の場合は、それらの中でも重大な事故につながったり、あるいは多発している場所に絞り込んでいるのが興味深いところではないでしょうか。

立場的には、警察は「どのような場所でも事故の危険性を認識して運転して欲しい」ということになるので、ほぼ全ての道路が当てはまるような定義になっています。

とはいえ、天候に左右されたり、単に坂道やカーブ、交差点というだけでは「ヒヤリハットマップ」作成のための絞込みには不足しているので、ここは国土交通省の定義に注目したいところです。

警視庁の交通事故発生マップに注目してみた

出典 : 交通事故発生マップ

実際に交通事故の発生状況を視覚的に確認できる「警視庁交通事故発生マップ」に着目してみました。

この地図では、ケースごとに事故多発地点が色別表示されるようになっていますから、実際に多発地点とされている場所では、どのような事故が起きたのかがわかるようになっています。

ただし詳細な発生条件、例えば運転者はどのような運転状況で何km/hで走行していたのか、被害にあった自転車や歩行者、あるいはぶつけられた車は、なぜそのような状況にあったのか、そこまでのデータはありません。

限定的な情報と少なくとも場所だけはわかりますので、参考としていくつか紹介してみましょう。

ケース1:港区西麻布3丁目(六本木通り)

マップを見ていると六本木、それも西麻布交差点を中心に事故多発ポイントを示す赤で塗りつぶされているのがわかります。

半年ほど前に西麻布交差点から少し東側にズレた六本木通りで発生した事故を見ていきましょう。

平成28年3月15日午前4時15分、横断歩道を渡っていた2人の40歳代男性歩行者が、60歳代男性の運転するタクシーと接触し、歩行者1人が死亡。現場は脇道への曲がり角はあるものの、交差点ではない直線道路で、自動車、歩行者ともに信号のある横断歩道です。

どちらの信号が青だったかのデータはありませんが、3車線の1番右側を走行していたタクシーが、反対車線側から横断してきた歩行者に接触していました。

現場は首都高3号渋谷線の高架下であり、さらに3月の午前4時すぎという時間から、払暁(明るくなる直前)であったことがわかります。

ケース2:新宿区新宿3丁目(明治通り)

新宿駅東口、新宿5丁目交差点、および新宿5丁目東交差点を中心に、真っ赤に染まっているポイントがありました。

そこから少し南、新宿2丁目交差点付近で昨年トラックとオートバイの接触による死亡事故が発生しています。

平成27年6月2日午前10時、明治通りを新宿2丁目交差点通過後、3車線の一番右側から右折して脇道へ入ろうとする、60歳代男性の運転するトラックがいました。

そこに差し掛かったのが20歳代男性の運転するオートバイで、対向する2車線の右側車線を走行していて、右折しようとしたトラックに接触、オートバイの男性が死亡しています。

どちらがどちらに、どのような形で接触したのかはこのマップからはわかりません。

走行してきたオートバイに気づかないままトラックが右折してしまったのか、あるいはオートバイの男性の前方不注意で、右折を始めたトラックに気付かなかったかまでは不明です。

しかし現場は「トラックから見た場合、右折で対向車線を横断して脇道に入れるポイント」であり、かつ「オートバイから見た場合、その先に新宿2丁目交差点があるので注意が先に注がれがちなポイント」なことは確かでしょう。

ケース3:中央区京橋3丁目(昭和通り)

さらに目を転じると、銀座から京橋一帯も真っ赤です。

ここで取り上げたいのは昭和通りと鍛冶橋通りで発生したバスと歩行者の接触事故。平成27年3月21日午後6時5分頃、交差点を昭和通りを北に向かうよう横断していた70歳代女性がいました。

この時60歳代男性の運転するバスが昭和通りから鍛冶橋通りを鍛冶橋方向へ左折、横断歩道上で女性と接触した結果、歩行者の女性は死亡しました。

この時歩行者信号や交通状況がどのようなものであったのかは不明ですが、教習所でも誰もが一度は指導される、典型的な「左折巻き込み事故」ですね。

歩道の状況も定かでは無いですが、バスが左折を開始する時点で女性に気づいていなかったのでしょうか?

ここは道路形状や地形などの要因が薄いのでGoogleストリートビューで現地を確認しました。その結果、女性が渡っていた横断歩道の起点で視界悪化要因といえば、街灯が一本、交差点の角に立っている程度です。

マップの事故状況図ではバスは前照灯と点灯していたようで、3月の午後6時すぎという時間からも、薄暮(暗くなり始める時間)で、物の見分けがつきにくい時間だったかもしれません。

特に見通しの悪い要因では無い場所に関わらず、普段以上に注意力が必要なシチュエーションということは、天候や時間次第でありえます。

危険地帯の先にある落とし穴が危険運転を招く?

Photo credit: yoppy

今回ざっと3例ほど「警視庁交通事故発生マップ」から紹介しましたが、共通している点がいくつかありました。

第1に「多発地帯とされているエリアの、外縁部ギリギリで発生している」こと。

多発地帯とされて真っ赤になっている場所のど真ん中では、意外にも直近の事故事例が少ないのです。

そうした場所ではドライバーも注意力を高めるのでしょうが、その手前で危険場所に注意が向いていたり、直後にちょうど気が抜けたような場所で多発しているように思えます。

第2に「注意力が落ちるシチュエーションがある」こと。

払暁や薄暮、あるいは危険な交差点の前後など、注意力を高めなければいけないのに、気持ちの切り替えが間に合わないような時間・場所での事故だったように思えます。

こうした場所では、意図せず危険運転になってしまっているケースがあるということではないでしょうか?

見晴らしが悪い場所や歩行者が多い場所など、事故の確率が高い場所ではドライバーも注意力を高めています。しかしその付近の場所で、気が緩んだからなのか思わぬ危険運転に繋がっていることがある。警視庁交通事故発生マップからは、そうした「思わぬ落とし穴」が潜んでいるように感じました。

事故多発・危険運転多発のヒヤリハットマップを作る上ではこの「人間の心理が生む落とし穴」に配慮することが鍵を握るっているのではないでしょうか。

DOWNLOAD

セッション資料イメージ