自動運転トラックでの配送が成功した事実
2016年8月、Uberに買収されたOttoがまた、快進撃を見せました。2016年10月20日、Ottoの自動運転トラックはバドワイザーをはじめとした米大手ビールメーカーのアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)とともに、バドワイザー2,000ケース、つまり5万本をコロラド州のハイウェイ、フォート・コリンズからコロラドスプリングスまで走行し配送に成功したというのです。
Volvo社製のトラックの車体には、レーダーとLIDAR(光検出と測距)センサ、それにカメラを搭載。このトラックは完全自動運転が可能な「レベル4」を満たしてはいますが、人が多く行き来し道路の幅が狭い市街地はプロのドライバーが運転し、道路状況が比較的安定したインターステート25号からはじまる高速道路部分はOttoのトラック自身が運転を担当。そしておよそ190kmもの長距離の自動走行に成功しました。
走行中は安全を確保するためドライバーも同乗していたそうですが、運転席には座らずに高速道路でのトラックの走行を監視していたと言います。
コロラド州では自動運転車に関する法律がないため、事故の際の責任や法的な問題などを州と協議したうえで今回の試験走行が実行されました。コロラド州交通局が実際の自動走行までにオットーの自動運転システムの評価や承認の主導を握りテスト走行にも同乗するなど、万全の体制をとった上で行ったようです。
また、ABインベブ社は今回の成功を祝い、記念としてOttoの小さなロゴの下に「First Delivery by Self-Driving Truck」(自律走行トラックで初出荷)という文字を入れた特別なビール缶を作りました。今回の成功はビールの配送業界の歴史をも塗り替えるような、大きな出来事でもあったのです。
Ottoの共同創設者で元GoogleのLior Ron氏は「自動運転の技術力を証明したかった。今回の走行でOttoの技術力を証明できたが、まだ開発の途中。現在でもハードとソフトの向上に取り組んでいる」とコメント。さらに、「他の道路や天候でも対応できるかどうか、自動運転トラックのテストを続けていく」とも述べています。
自動運転の配送で大幅なコスト削減が実現する
輸送費はそのほとんどを燃料費と人件費が占めています。ABインベブ社によると自動運転トラックでの配送が通常化されれば、アメリカで年間で5,000万ドル(約52億円)の経費が削減できるとのこと。
米国でも日本同様ドライバー不足が悩みの種となっており、現在ではその需要に対し4.8万人のドライバーが不足、2024年には17.5万人にまで拡大するのではと予想されています。この辺の問題に関しては、以前に「バス・トラック運転手など長距離ドライバーの現状と課題 — 雇用状況・事故・眠気対策など」というエントリーでも触れました。
日本でも長距離トラックドライバーの不足に加え、加重労働による事故が後を絶ちません。自動運転トラックの普及が進めばドライバーの負担も減らすことができ、作業効率も上がることが見込めるでしょう。さらには、高速道路などの直線で安定した道路で自動運転に切り替え、長時間運転で疲れたドライバーが仮眠を取ったり体を休めることができるようになります。
企業側も面倒なシフト調整を行うこともなく業務管理も楽になり、安全かつ効率的に配送業務が行えるようになるかもしれないのです。また、輸送コストの大幅な削減が行えれば商品の価格も全体的に下げることができ、経済的にも大きな変化が現れるかもしれません。
日本でも自動運転化への対策が前向きに進んでいる
海外では自動運転トラックの実用化が現実味を帯びてきていますが、日本は未だ多くの課題を抱えています。海外とは違い、首都圏内は一方通行も多く特に道が複雑。また、日本でOttoのような実走実験を実施する場合は、インフラも含めたうえで環境を整える必要があります。
そんな中、国内では2016年5月27日に商用車メーカーのいすゞ自動車と日野自動車が、「自動走行・高度運転支援に向けたITS技術」(商用車の自動運転の基礎技術)を共同開発することで合意し、車両が複数台連なって走る隊列走行などに必要な技術を2017年9月までに開発すると発表しました。いすゞと日野はこれまでにも2004年にはバスの生産を、2008年からはディーゼル排気ガス後処理装置で協業してきた実績があります。今回の提携では両社で開発した基礎技術をもとに、それぞれが製品化する方針です。
日野自動車の市橋保彦社長は、日本で自動運転のトラックを走らせる場合「他の自動車が入ったときにどうするかなど、安全をどう担保するか。ここのハードルは結構高い」と述べています。二社の協働開発の目的は、3台以上の複数台のトラックが連なって走る縦列隊列走行に必要なシステムの実用化を目指すこと。
また、トラックなどの隊列自動運転とは、カメラやセンサが先行するトラックや車線を認識し、トラック同士が相互に通信しながら車速の変化に対応して車間距離をキープし、隊列で運行するメカニズムとなっています。
経済産業省は2016年度の予算でトラックなどの自動運転準備にかかる費用として約19億円を計上しており、2017年度以降も予算要求するとしています。そして道路交通の渋滞緩和と人材不足に陥っている物流界の作業効率を上げるため、2018年度に高速道路で自動運転トラックの隊列走行の実証実験の実施を予定し、2021年度以降の商業運行を目指す方向だと示しています。この隊列走行実験は、運転手が操縦する先頭のトラックを後続トラックが自動運転で追随するというものです。
2018年度までには産業技術総合研究所や日本自動車研究所のテストコースで安全性の確認を終え、2019年度にはより本格的に公道で実験することになっています。
日本での自動運転の本格導入はまだまだ遠い…?
インターネット通販サービスの拡大で宅配を含む物流をはじめ、バス、タクシーなどの人材不足を補うために、今後新しいビジネスモデルとなり得る自動運転の技術。
日本国内で自動運転社会の実現するには、まず社会的な理解や法整備が欠かせません。今回のOttoとABインベブが行った実証実験のように、事故に対する刑事責任をはじめ、免許制度や保険、法改正など大きな問題を一つ一つ解決していかなくてはならないのです。
合わせて、首都圏内の複雑な道路の状況などもしっかり把握し、自動運転が本当に可能かどうか見極めが必要になってくるでしょう。