ARの技術は物流業界をどう塗り変えていくか

ARの技術は物流業界をどう塗り変えていくか

今年、多くの人を夢中にさせたポケモンGOを筆頭に、連日メディアをにぎわせているAR(拡張現実)の技術。そんな中、DHLサプライチェーンはオランダで実施したAR技術の試験運用の成功を受け、ビジョンピッキング プログラムを次段階へと進めることを発表しました。

私たちの生活に身近になりつつあるこの技術が、物流業界を今後どのように変えていくのでしょうか?

DHLサプライチェーンと物流を変える取り組みとは

広い空や街中を駆け抜ける黄色のボディに赤いロゴ。DHLサプライチェーンは航空機を主体とした国際宅配便、運輸、ロジスティクスサービスを扱うドイツの国際輸送物流会社です。

DHLは2015年シンガポールに数百万ドル規模の「アジア・パシフィック・イノベーションセンター(APIC)」を開設し、進化するサプライチェーンとしての拠点を構えました。シンガポール経済開発庁(EDB)の支援を受けて開設されたAPICは、自動運転車やロボット技術を始め、モノのインターネット(IOT)、AR(拡張現実)を活用し、ロジスティクス業界のソリューションの開発に力を入れています。

その言葉を実証すべく、DHLはバイエルン州の標高1,200メートルの山岳地帯で配送ドローンの実地試験を行ってきた結果、3カ月間に及ぶテスト期間で100回を超える配送を成功。2016年の1月から3月の実施テストで130回配送し、1回に運んだ重量はほぼ2kg、最大飛行速度は時速64km。通常30分以上はかかる険しい山道をものともせず、たったの8分で荷物を届けることができたといいます。

そんな革新劇を見せるDHLは、今回オランダで実施したAR(拡張現実)技術の試験運用の成功を受け、「ビジョンピッキングプログラム」を次の段階へ進めると発表しました。そのプログラムとはどんなものだったのでしょうか?

DHLが行った「ビジョンピッキングプログラム」

「ビジョンピッキング」とは倉庫内の通路や製品保管場所、数量を含む作業情報をARで表示してピッキングを行うというもの。2014年にオランダで開始した実証実験後、DHLはパートナー企業であるGoogle社とVuzix社のスマートグラスと、Ubimax社のソフトウェアを活用し、ビジョンピッキング ソリューションの改良に取り組んできました。2015年には与えられた時間内に2万品目以上をピッキングして9000件の注文を完了させ、作業効率が25%向上したという結果が発表されています。

ピッキング作業者が装着する新型のスマートグラスに、ピッキングした商品を台車のどこに置くべきかを視覚的に表示されます。そのAR映像をもとに従業員に作業指示を出し、ピッキング作業の迅速化とピッキングミスの削減につながるというこの取り組みはオーダーピッキング作業のハンズフリー化を実現し作業スピードを高めるとともに、ミスを減らすことを目的としています。

実証試験が初めて行われたオランダのベルヘン・オプ・ゾームのリコー社の倉庫から、今後は米国、欧州本土および英国の各地でも実施をするとのことです。

未来を塗り替えるARの技術

AR(Augmented Reality:拡張現実)とは、現実世界で人が感知できる情報に、「何か別の情報」を加え現実を「拡張」表現する技術やその手法のことです。実際に目で見ている「現実世界」の情報の上に、そこにはないはずのモノや情報、映像などを重ねてその場にあるように見せることで、人間のあらゆる感覚を拡張させます。

ARはスマホやタブレットの普及と共に、企業がプロモーションとして取り入れたり、その機能を搭載したアプリがリリースされるようになりました。

米IDCの調査によると、2016年のAR/VRの世界市場規模は52億ドル(約5,220億円)にのぼると言われており、2020年には1,620億ドル(約16兆円)市場になると予測されています。スマホに次ぐ巨大市場と言われるAR市場は、物流や製造などの産業分野でも利用が拡大していくと言われています。

すでに日本の物流業界でもARが取り入れられている

今回紹介をしたDHL以外にも、国内で様々な企業が物流ソリューションの実証実験に参加しています。

ソフトウェア開発のウエストユニティスは、バーコードやRFID(電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書きするシステム)とARを使った複合チェックによる管理システム「ARピッキングシステム」を開発・製造しています。このシステムを利用すると未経験者でも確実に倉庫内のピッキング作業を行える上、在庫管理システムとも連携ができます。
同システムを使用時に装着する、産業用ウェアラブルデバイス「InfoLinker」は、メガネに装着するタイプで約50gと軽く、シンプルでスタイリッシュなデザイン。ピッキング作業の使用ならバッテリー1個で約2時間の稼働が可能です。

業務のモバイル化を目指すSAPジャパンは、2014年に倉庫などでのピッキング作業を効率化する「SAP AR Warehouse Picker」と、保守保全作業を支援する「SAP AR Service Technician」の提供を開始しています。

ピッキング指示の受信や、スマートグラスのカメラを活用したバーコードの読み取り、音声認識によるコマンド入力などが可能です。通常、ハンディターミナルでバーコードの読み取りを行うところをハンズフリーで倉庫内作業が行えるため、業務の効率化につながります。

エプソン株式会社はシースルー・ヘッドマウントディスプレイ「MOVERIO」とARナビゲーションを利用した物流ソリューションの実証実験を2013年に行っています。これは作業者が「MOVERIO」を装着することで、ピッキング経路のナビゲーション画面を見ながら、効率的かつ安全にピッキングや仕分け作業をできるようにするもの。

物流以外にも製造業における保守業務の支援、土木や建築業の現場作業支援、病院における手術支援などの実証実験も行っているそうです。

さらなる技術が物流業界を変えていく

2016年9月13~16日に東京ビッグサイトで開催された「国際物流総合展2016」では、産業用ロボットにピッキング業務をさせるというデモストレーションが各々のブースで見られたようです。
また、日立物流は次世代物流ソリューション「スマートロジスティクス」を事業コンセプトとし、IoTやAIなどの技術を活用して、日立とともに倉庫運営の高効率化を図る「スマートウェアハウス」「ドリームウェアハウス」の研究開発に取り組んでいます。

作業品質の向上化や人的ミスを軽減するためにも、今後このような先端技術の実用化がさらに広まり、一般化されていくことでしょう。

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